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白昼

「はっはっはっ、まさかこれほどとはな……」


 ウィルレオの身体は限界を迎えていた。


 全身骨折に加えて腐食のダメージを受けている。その影響で身体の至る所が腐りかけていた。


 こちらは光のギフトで防御を行っていたのだが、容易に突破された。だから身体が腐敗してきているのである。


 あの男がギフトをも超える力を持っているという事は想定していなかった。


 ギフトは特技(スキル)や魔法を超越した能力。所持者が極めて稀である分、その力は甚大である。


 特に強いギフトはその能力を発動しただけで、一国を滅ぼせるほどの異次元な力を所持している。


 それほどに強いギフトと呼ばれる才能をあの男は打ち破った。


 ギフトを突破する力など聞いた事がない。恐らく他の五公爵でも難しいのではないだろうか。


 そんな力を見せられてはこちらの完敗だ。あの男はもはや人間の類では無い。もしかすると、本当にあの女(・・・)や、勇者を超えた力を持つ独神(ひとりがみ)の領域に達するかもしれない。


「俺の負けだな……」


 今の自分に出来ることは、敗者らしく広場のど真ん中で大の字になって寝る事だけ。


 後はあの男がやってきて殺されるのを待つのだ。




 ……ただ、それでも。



 実に気持ちがいい。



 自分は負けた。それでも今の気分は心の底から晴れ晴れしている。


 正直に言って自分は強すぎた。今まで強い強いと謳われた者も自分にとってみれば雑魚ばかりだった。だから対等に戦える相手がいなくて今までずっと退屈をしてきた。


 そんな時にこの男と戦った。正々堂々と戦って結果は今の通り敗北。


 相手は強すぎたがこれが本当に望んでいた戦い。久しぶりにこんな素晴らしい戦いをした。そんなのを死ぬ前にできて幸せだ。


「はっはっはっ」


 ウィルレオは再び笑った。


 まともに笑った事がない男の最初で最後の笑いだった。


 遠くにいたフェンリルは地上に降り立ってくる。余裕の雰囲気をこちらに見せつけて来るように、こちらへとゆっくり近づいて来る。


 ウィルレオには男の素顔が気になった。帽子に阻まれてその顔は相変わらず見えない。ただ、顔が見えなくても分かる。この人物はとても強い目をしているのだという事を。


「私はお前という戦士に逢えた事に感謝しよう」


「我が戦士だと?我は禁術使いだ」


「あれほどの身体能力を持っておきながら魔法使いだと?お前は私をどれだけ驚かせてくれる」


「そう言う貴様も中々に強かった。その剣捌きは実に見事だった」


 男はそう言ってこちらを褒めてくる。


 しかしそれが嘘だという事を自分は知っている。


 あれほど激しい戦いをして、息切れも傷の一つもついていないこの男が、自分の剣捌きに本当に魅了されているはずがない。


 恐らくこの者なりのお世辞なのだろう。


「最強の魔法使いにそう言ってもらえて感無量だ。……さぁ、私にとどめをさせ」


「いいだろう」


 ウィルレオはとうとう覚悟を決める。


 フェンリルはそれ答えるように刀を抜刀した。水面(みなも)のような刀身は光を反射してどこまでも輝いている。


 そして虚空を一閃。空間は歪むように切れていく。


 実際は全く切れてない。しかしウィルレオにはそう見えた。


 フェンリルは刀をこちらへと突きつけてくる。


 だがその数秒後、刀を下ろしてしまった。


「……やめた」


 そう言って納刀してしまった。ウィルレオは思わず不意をつかれたような顔をする。


 何故だ?何故止める?


 その要因を必死に脳内で探る。


 自分は重罪人でありこの戦いで負けた者。もし自分がこの勝負で勝っていたならば、目の前の男を斬り殺していた。相手にとっても、今ここで自分を殺したところで何も損害はないはず。


 それなのになぜ止めるのか。


 戸惑いの視線で男を見る。するとそれにフェンリルは気づいた。そして重々しい口を開く。


「今ここでお前を殺したところで我に損はない。しかしメリットが無いのも事実である。なによりも重要なのはお前を倒したという事と、それを目撃した者がいるという事。その後はどうでもいい」


 そこで。


「遠くで見ている冒険者に采配を任せよう。彼らの方がこの街に長く滞在していて、何よりお前の事を知ってそうだしな」


 それではさらばだ。



 ……呆気なかった。


 それだけ言って彼は去っていく。


 とてもじゃないが、少し前までお互いに死闘をしていたとは思えないような感情のこもっていない無機物さがそこにはあった。


 自分は一生忘れないであろうこの戦いを、男は1ヶ月後には忘れていそうな雰囲気さえある。


 本当に何者なのだろうか。自分は一体誰を敵に回したのだろうかという焦りが込み上げて来る。


 その姿はかつて五公爵とは思えないほどに恐れ慄いていた。





△△△△





 よし任務完了。


 ジークはポケットに両手を入れながら呑気に広場のど真ん中を歩く。


 この街に入ってまだ数日。


 まさかこの僅かな間で、街を牛耳っていたボスを倒す事になるとは正直想定していなかった。


 この結果、街は良い方にも悪い方にも進むかもしれない。なにより街の勢力図を大きく変えてしまう事になるだろう。


 とはいえここまで来れば上出来ではないだろうか。

変な組織が消えてくれるおかげでこちらも活動しやすくなる。それに加えて、こちらの名があがって今後は街全体で、国全体で、もしかしたら世界全体で注目されるかもしれない。


 これが世界進出の重要な一歩になる。


 まだやる事は山積みだがこれからの行動で様々な問題も解決していけばいい。例えば人員不足とか。


 それとあの男を始末しなかったのは大丈夫なのかと思われるかもしれないが、多分…大丈夫.…なハズ。


 どうせ手を下さずともあれほど弱りきっていれば、他の者が首を刎ねてくれるだろう。


 自分の腐食の力は他の者では解除は難しい。あれは禁術の中でもかなりの極悪な技だ。単なるポーションで治癒する事など到底不可能。


 それこそ秘宝といわれる道具で時間をかけてやっと治すことが精一杯くらい。そうでなきゃ禁術などと呼ばれない。


 俺からすれば一瞬で直せる呪いなのだが、相手にとったら永遠に付けられた鎖と同等の効果。なまじ強いばかりにあいつは強力な力に苛まれる事になる。


 ジークにとってこれで仕事は完了。


 時刻は12時ごろだろうか。優しく降り注がれる日光を浴びて気持ちがいい。


 朝から頑張ったし帰ったら昼寝でもするか。ちょうど朝眠かったし。


 そこで一つ大あくびをする。


「お〜い、ジ……フェンリル!!」


 ちょうどリエルが駆けつけてきた。


 その顔は戦いのせいで少し汚れながらも、とても嬉しそうな表情をしていた。


 どうやらあの女を倒したらしい。実力差からして余裕だと考えていたが、まさにその通りだったようだ。


 ちなみに危ないと判断したら彼女の下へ駆けつける予定であった。


 まぁどのみち、あの女が勝てる可能性など皆無だったのだ。


「そっちも終わったみたいだね。よかった無事で……」


「ジ、フェンリル!!」


 うおっ!?


 彼女は抱きついてきた。まるで親に愛情をねだるような慰めてほしいような抱擁の仕方。前世でいうところのだいし○きホールドのような強烈な拘束。


 ジークは全く身動きが取れなくなる。 


「ちょっと待って……」


「フフ……」


 必死に呼びかけるが彼女は聞く耳を持たない。むしろどちらかというと、確信犯のような小悪魔的な笑いをしたように見えた。


 恐らく気のせいだろう。


 彼女の綺麗な銀髪を撫で上げる。


 ツヤツヤとした銀髪が光り輝いた。とても綺麗な髪である。


 あとかなりキツく抱きしめられているせいで、彼女の身体の中でとびきり柔らかい二つの山が、こちらへと強く主張してきている。


 彼女のものは大きいだけにかなりの攻撃力を持っていて、それらがこちらの身体に潰されていて服越しでも柔らかい。


 まるでプリンのよう。服を脱いだらその大きいものが服に圧迫されながらブルン!!という風に出てくるかもしれない。


 そんな妄想をすると思わず顔がニヤけてしまう。


 これはまさしくご褒美。戦いに勝ったとびきりの戦利品だ。


 だがそんな邪な感情を少しも出さずに彼女を優しく見つめる。


「自分の過去と、それと彼女と向き合えた?」


「うん……!!私もこれで前を向いて歩ける。フェンリルといつまでも一緒にいるから!もう離さないからな///」


 グリグリというように頭をこちらの胸元に擦り付けて来た。


 そしてファ〜〜というような擬音で、彼女の素晴らしい芳香がこちらの鼻腔を刺激してきた。


 あぁ…すげ〜良い匂い。


 前も言ったかもしれないが、まさしくそれは女子高校生に近づいた時のような素晴らしい匂い。


 もう観念して言わせてもらおう……。


 自分は変態だ!!結局、紳士にはなれない。


 だからこの匂いで脳内麻薬が分泌されてきても勘弁してほしい。



 そんな時、遠くから数百人規模の騎士団がこちらへ向かって来ていた。





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