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風流な花火

「ぁぁ……」


 近くにいた冒険者は何かを見て思わず声を出し、後退りをするように腰を抜かす。


 何事かと冒険者が見ていたそれをロサも見る。


「なんなんだこれは……」


 そしてロサも立ち尽くした。


 いや違う。広場にいる全ての冒険者が立ち尽くしている。


 彼らは衝撃的な光景を見ていた。


 それは果たして何だというのか。


 彼らが見ていた光景、それは激しく動く二つの光だった。


 一つは煌めく光。


 そしてもう一つは暗黒の光。


 お互いに対照の存在だ。


 その二つの色が目まぐるしく広場の中を駆け巡ったり飛んだりしている。そして至る所にぶつかり合って周囲の建造物を粉々になるまで破壊していってる。


 とてもじゃないが目で追えない。それほどまでに速いのだ。


 こちらから100メートルほど離れている。それにも関わらず、二つの煌めきはとんでもない余波を自分達に及ぼしている。


 思わずよろけそうになる衝撃波が、耳を塞いでしまいたくなる轟音が、目を覆いたくなるような閃光が、届いて来るのだ。


 恐らく二つの存在は戦っている。ただあまりにも速すぎてそれが人なのか動物なのか、まず生物なのかも分からない。


 ロサはそれをただ眺めていると。


「あ、あれは流れ星かなんかなのか……」


 3メートルほど離れた男がつぶやいた。


 そう言われると確かにそうなのかもしれない。


 あれほど速い物体が人間だとは思えない。まず生物なのかも怪しい。となると、男が言っている流れ星というのも案外間違いじゃないようにみえる。


 ただそんな分からない事だらけの中でも、一つだけわかる事がある。


 それは自分達では決して勝てないということ。


 こちらは五百人という大軍。数で押し切れば勝てるのではないか、というそんな甘い考えはこの場にいる500名の誰一人も持ち合わせていない。


 はっきり言って自分達がそれらに近づけば肉塊と化すだけだ。


 それを証明するように二つの存在はこちらの大軍をお構いなしに戦っている。


 だから全ての冒険者が固まるのも無理はなかった。脳内では戦慄や恐怖を超えて畏怖の感情を抱いている者も少なくない。


 感情ではなく本能的に、少しでも身勝手に動けば死ぬことを全員が悟っているのだ。


 ロサはかつて聞いた事がある。


 魔神と神の戦いの神話を。覚えている限りでは、全てを照らす光と全てを飲み込む闇が戦ったのだ。どちらが勝ったかなどだいぶ昔の事なので覚えていないが、今の状況はそれを思い出させた。


 だからもはやこれは神話の戦いなのかもしれない。少なくとも人間である自分達には決して踏み込めない領域がそこにはある。


 その時。


 煌めく光が波動を放ち、暗黒の光を吹き飛ばした。暗黒の方は崩壊した建物に突っ込んでいく。


「うおっ!?」


 物凄い熱風がこちらまでくる。それはまるでサウナ。


 近くの者が後ろへ吹き飛んだ。


 ロサは目を開けて急いで状況確認をする。


 波動の通り道にある建物や道路は溶けていた。まるで綺麗にそこだけ切り取られたかのように抉られている。


 このままだと街が崩壊する……。


 暑さゆえなのか超越した戦いを観ているゆえなのか、額から大量の汗が吹き出す。


 暗黒は瓦礫の中から出てくる。見たところ何も変化はしていない。恐なんのダメージも負っていないのだ。


 あれだけの暴威に晒されて無傷とは一体どういう事なのなのか。もはや自分には意味がわからない。


 そこから暗黒の方はボルテージを上げる。先程よりも速く、破壊力のある攻撃を黄色の光へとお見舞いする。


 そして暗黒の優勢となった。上空50メートルほどで黄色の光が一方的に殴られ続ける。 


 バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!!


 一方、ジークは殴り続けていた。


 残像にすら残さないジークのラッシュは到底ウィルレオでは対抗できない。避けることも防ぐこともままならず、ウィルレオはもはやサンドバッグ状態のように殴られる。


 肩に100発、両手に300発、足に300発、太ももに500発。


 だが致命傷になる場所は狙わない。それはまるで相手を痛ぶっているよう。


 なにより余裕の現れだ。


「うぉっっっ!!」


 風圧が凄すぎて、地上にいるロサ達は吹き飛ばされていく。


 そしてあまりにもうるさすぎた。まるで至近距離で大花火を見ているような光景に近かい。


「おっ!?」


 やがてその戦いの決着がついた。


 勝者は闇。光を最後に吹き飛ばして、光の方はそれ以上に出てくる事がなかった。


 闇は空中でしばらく留まる。そして地上へゆっくり落ちてきた。


 思わず周囲はざわつく。


「あ、あれは!!」


 闇の方が正体を表した。


 それは人間、というか人型であった。妙に高貴な服装を纏っている。


 あえて人型と言い直したのはあれほどの恐ろしい力を持つ者が人間なのか疑問を持ったためである。


 そしてなによりもその者をロサは見た事があった。

というか先程話した人である。それは自分を助けてくれた"フェンリル"という者であった。


 こちらから離れているので見間違いという可能性もあるが、これに至っては確信できる。


 特徴的な服装と、何より得体の知れない雰囲気。あれはどうやっても見間違いがない。


 あの時は圧倒的な力で自分を救ってくれた。目の前の兵士をカビのようなもので倒し、通りの敵も自分が気付かぬ間に一掃していた。


 味方としては非常に心強いとは思っていたが、まさかこれほどまでとは思わなかった。


 それと同時に寒気もしてくる。もしあの時、自分の仲間とこの方が戦っていたらどうなっていただろう。


 恐らく仲間が瞬殺される事に変わりはない。ただ、それを止める事ができて本当によかった。あんな人に喧嘩を売らなかったのは正しい判断としか言いようがない。


「なぁアンタはあれを見た事があるのか?」


「えっ?」


「なんか他とは違う表情をしていたからてっきり知人かと思ったんだ」


 隣にいたライルがこちらへ聞いてくる。


 どうやら自分の考えは顔に出ていたらしい。


「知人と言っていいのかな?俺はあの人に命を救われたんだ」


「そりゃすごいな!?」


「この街の衛兵を容易く葬り去ったんだ。恐ろしい強さだったよ彼は……」


「じゃあ、あの人はこの街を救った英雄か!?」


「それはどうだろうね…正直よく分からない。

あの人はそういう称号とか褒め讃えられるのがあまり好きでは無かったように見えたし、そういうのでは無いんだと思う」


 ただ。


「俺たちの命を救ってくれたから俺たちにとって、彼はまさしく英雄だ。そうだろうヴァルテル?」


「あぁそうだな。彼はまさしく英雄だ……!」


 ロサとヴァルテルは二人だけの深い感情に浸かるのであった。



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