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激戦

 死屍累々(ししるいるい)となった広場で死体の道をゆっくりと歩く者がいた。


 それはフェンリルである。


 彼の先には一人の男が立っている。それはデス・フォールの(おさ)、ウィルレオ・アルン=シルバー。


 フェンリルは歩きながら口を開く。


生命(いのち)とは儚いものだ。常に万物は諸行無常で成り立っている。30分ほど前まではあれほど生気に満ち溢れていた兵士たちも今はこの通り、死体と化している。そしてその中で生き残っているのは貴様だけ」


 ウィルレオと一定の距離まで近づくと止まった。


「もう代わりに死んでくれる生命(いのち)は無いぞ?次は貴様(・・)だ」


 杖に仕込んだ刀を抜刀し、その切っ先を突きつける。


「ふっふっふ…ハッハッハ!!」


 男は奇妙な笑い声を上げる。


「まさかこれほどとは。最初は目障りなうじ虫と思っていたが、まさか獅子の如き強さだったとはな。お前のその強さに賞賛を送るよ」


 ウィルレオは拍手をする。


「どうだ?私の配下にならないか?お前が仲間になってくれればこちらはこの国を容易に取ることができる。お前に好きなだけ財宝、土地、女をやろう」


 そして右手を差し出した。


 つまり、俺の仲間になれということだ。


「……つまらん。そんなものは我一人でも手中に収められる。我が今欲しいのはこの名が広まる事だけ。ここで貴様を殺せばその目標も達成する事ができる」


「そうかそうか……。それは残念だが仕方がない事だ」


 ウィルレオは話を続ける。


「この組織が崩壊するのも時間の問題。だったら私も、この街で好き放題暴れさせてもらうとしようじゃないか」


 腰に帯刀していた剣を引き抜いた。そしてそれを自慢げに見せてくる。


「この(つるぎ)の名はエンシェントシルバー。かつて大悪魔を倒したとされ、神話にすら出てくる偉大な剣だ。抜刀するのは久しぶりだが相手にとって不足はないだろう」


「…………」


 ウィルレオの全身から光のオーラが漂い始める。それに対して、フェンリルの身体からは暗黒のオーラが流れていった。


 それはまるで光と闇。


 今ここで二つの存在が決闘をしようとしていた。


 相手の瞳が鋭くなる。


「……いくぞ。光でお前を覆い込んでやる」


「来い」


 二人は同時に動いた。


 ウィルレオは大上段から体重を乗せた一撃を放つ。


 フェンリルは刀を横にしてそれを防いだ。


 カキィン!!


 二人の剣はぶつかり合う。凄まじい風が二人を中心に吹き抜けた。それはナイロが作り出した風球よりも遥かに威力が大きい。


「威力の乗った俺の一撃を防ぐとは、その剣も中々に優れているではないか」


「…………」


 二人の剣は拮抗していく。あまりの剣圧で火花が飛び散っていった。


「ハァァァ!!」


 ウィルレオは上から押し潰すような形で力をかけていく。


 しかしフェンリルは全く動じない。立ち位置からいって、こちらの方が全身の力を伝えやすく圧倒的に有利である。


 それでもフェンリルは力負けしていないのだ。


 思わずウィルレオは笑みがこぼれる。


 果たしてこの男はどれほどの力を持っているのか。魔法を肉体だけで耐えて、なおかつ力負けもしない。もしかしたら久しぶりに戦いの中で楽しめる事ができるのかもしれない。


 そう思うと喜びと好奇心は止まらなかった。


「ふん!!」


 フェンリルを吹き飛ばす。


 すると空中へと吹き飛んでいった。しかしフェンリルは虚空で後ろへ一回転、つまりバク宙をする。


 そうした事で威力を軽減させると、ゆったりと地面へ着地をする事に成功した。


 そうして前を見る。しかしそこに男の姿はいなかった。


「こっちだぞ!!」


 ウィルレオはいつのまにか背後を取っていた。力を込めた横薙ぎを放つ。


もらった!!


 ウィルレオは喜ぶ。先ほどの喜びが戦闘の悦びだとすれば、今度は勝ったな、という喜び。


 どう頑張ってもこれを避ける事はできないだろう。


「なに!?」


 しかしその一撃は防がれた。振り返ることも一瞥もせずに、右手の剣を背中に持ってきてこれを防いできたのだ。


「こんな事は……」


 目の前の男は明らかにこちらに気付いていなかった。


 もしかしたら気付いていて、わざと剣をもらったという可能性もあるが、あの体勢ではどっちみち剣を持ち出したところで防ぎ切れない。


 普通ならば力の差でこちらが押し切れる。そのはずだったのだが防がれた。


「ハァァ!!」


 剣の乱撃を繰り出す。


 もしかしたら先程はなにか技術(スキル)を使われて防がれたのかもしれない。


 そう思って背中にやたらめったら剣を振りかぶるのだが、ことごとく全てを防がれていく。


 相手はこちらを振り返る事はおろか、気にもしていない。


 やがて痺れを切らしたウィルレオは左手から光の球を作り出した。


 それは攻撃魔法。相手の属性が闇に近ければ近いほどダメージが大きくなるという特性を持っている。そしてこれが自分に掛かるとたとえ属性が聖に近い者だとしてもこの世から消滅するほどに威力は跳ね上がる。


 それを至近距離で放つ。


 二つはぶつかって大爆発を起こした。



 ウィルレオは一跳して10メートル以上距離を置く。そしてその爆発から避けた。


「ほう……」


 煙の中から奴が出てきた。


 その姿は先程と全く変わっていない。


 正真正銘の無傷。


 しかしこれは予想通り。あれほどの力を持っているのだ。この程度の魔法で倒せるとは、こちらとしても到底思っていない。


 だが、その強靭さには目を見張るものがある。


「本当に凄いぞ。一体なぜお前ほどの存在が、これまで名前を馳せてなかったか不思議なくらいだ。もしかしたら五公爵最強のあの女(・・・)に匹敵するかもしれん」


「………」


 ウィルレオは嬉々として語るが、目の前の男は相変わらず無反応。


「ここまで強いとは正直想定外だ。私も本気を出すとしよう」


 自分の身体から光の輝きが強くなった。


 これが本気。下手な者が自分に近づけばそれだけでその者の身体を浄化して消し去る、ある意味極悪な力の奔流。


 これに耐え切れる者はそうそういない。そしてこれには自分の全てのステータスを底上げする効果がある。


 これが自分の生まれ持った才能(ギフト)


「ここからが本番だ」


 光に満ち溢れたウィルレオは余裕な顔を見せる。


 そして二人は動き出す。



 ……………。


 そこからの戦いはもはや異次元の域にまで達した。二人は音速を超える速さで移動しながらぶつかり合っていく。


 地に足をつけて戦うことがあれば空中へ飛んで追いかけあう事もある。剣で戦う事があれば距離を置いて魔法を放つ事もある。


 二人はまるで流星のようであった。


 黒い煌めきと燦々とした光の煌めきが追いかけあってぶつかり合う。


 ウィルレオの攻撃によってフェンリルが吹き飛ばされ、広場の中心にあった噴水を木っ端微塵に破壊する。


 逆に、フェンリルがウィルレオを吹き飛ばして周囲のレンガ造りの建物を破壊する。


 二人の戦闘の影響下にある全ての建造物がことごとく破壊されていった。





△△△△





「先程から広場の方ですごい音がしている」


「恐らく他の騎士団とあの組織の連中が戦っているんだ。俺たちもはやく加勢しなければな!」


 ロサとヴァルテルは他の冒険者と共に通りを走っていた。すると、ロサの隣の冒険者が話しかけてきた。


「俺の名前はライルだ。今はこの街で2級冒険者としてやっている。これからよろしく頼む」


 こちらと同年代ぐらいだろうか。かなり若く見える。


「俺の名前はロサだ。それで隣の奴がヴァルテル」


 それに応じてヴァルテルも挨拶をした。


「俺たちも同じ2級冒険者だ。この戦いが終わったら一緒に酒でも飲むか!!」


「あぁそうだな!!全くこんな事になるとは思わなかったぜ!」


「まったくほんとだな!!とんだ災難だ!!」


 二人は腕でタッチを交わす。


 戦場の中で新たな友情が芽生えた。


 ロサとヴァルテル、ライルは他の冒険者に揉まれながら走っている。その数は軽く百を超えていた。ひょっとしたら五百にも到達しそうな勢いであった。


 もはや冒険者の大隊である。


 その内訳はベテラン冒険者であったり、駆け出しのアマチュア冒険者であったり、元冒険者であったりと、ピンキリだ。


 あの通りでまだ戦える人員や他にすれ違った冒険者、まとまって衛兵を倒していた冒険者たちと合流して移動するうちにこんな数にまで膨れ上がっていた。


 広場で敵が待機していたのは他の冒険者から確認済み。それらと戦う以上、こちらの数も多いに越した事はない。


 初めは一部の町人のデモから始まったかもしれない。それが徐々にエスカレートしていって、今やこの街の人々、全ての冒険者、王国騎士団VS(ヴァーサス)この街の衛兵、組織の組員となっている。


 もはや戦闘人数規模は1万とかそんな可愛らしい数字ではなく、30万人を超えるほどに発展している。


 この街は至る所で戦闘が行われカオス状態だ。


 戦況としては圧倒的にこちらが多い事、五千を超える王国騎士団、そして衛兵たちを殺す街中に現れた謎の魔物のおかげもあり、こちらの圧倒的優勢が続いている。


 1日もあればかなりの沈静化が期待出来るのではないだろうか。


 とにかく今はこの街と人々を守るために戦うだけ。


 五百人程の冒険者は広場へ急行するためにひたすら走っていった。



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