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想い

 リエルとアリアは広場で相対する。


 しかし周りには誰もいない。


 それも当然だ。ここはジークが創り出した結界の中。周りの風景や土地をコピーしながらも全く異なる場所にいる。

 

 この結界の中にいるのは二人だけ。


「アリア、お前に聞きたい事など一つしかない。

なぜ私の仲間を殺した!?」


 リエルは物凄い剣幕で怒鳴りつけた。


 その顔は鬼神の如き恐ろしさ。


 今までに誰にも見せたことが無い顔だった。


「私はアンタの事が前々から嫌いだったのよ」


「そんな事は分かっている。それで私や仲間に嫌がらせをしたんだろ?」


「でもその理由は知らないでしょ?」


「私が嫌いな理由とはなんだ?」


 アリアに容赦ない詰問(きつもん)を行う。彼女は少し黙った後、ようやく口を開いた。


「私はね……アンタの顔が嫌いなのよ」


「私の顔が、だと?」


 自分の顔がそれほど嫌いだったと彼女は言うのか。


 もちろん顔が原因で周囲から嫌われていたのは知っている。しかしその程度の感情で、仲間諸共私を殺そうとしたのはどういうことだろうか。


 そんなにこちらの顔が嫌いならば見なければいい。それとも、自分の顔は殺したくなるほどに醜悪(しゅうあく)なのだろうか。


 散々周りから嫌な噂をされて顔が醜いのは自覚していたが、ここまで思われると流石にショックかもしれない。


 リエルは悟られないようにため息を一つする。しかしアリアはリエルの思考を見透かしていた。


「アンタは何か勘違いしているわ」


「勘違いだと?」


「私がアンタの顔が嫌いなのは不細工だからじゃなくて、嫉妬するほど美しい顔だったからよ」


「私の顔が美しい……?何を言っている?」


「鋭利な光を放つ銀髪に海のような蒼い瞳。すらりとした長身な体躯、男を惹きつけるような身体つき。私はね、アンタのその完璧すぎるルックスに嫉妬してたの」


「どういうことだ?」


 リエルは寝耳に水を掛けられたような顔になる。


 自他共に認めるほど、自分の顔は醜い顔だという事を話していたはずが、彼女はなぜか自分の顔を褒めている。


 それがよくわからない。


「私はね自分が誰よりも綺麗で可愛いと思ってた。周りの人は私の事をいつもチヤホヤしてくれて甘やかしてくれた。男だって引くてあまただったし、女からも好かれていたわ。それこそ自分で言うのもなんだけど、あの頃の私は有頂天になってた」


 ……でもね。


「アンタと会ったあの日から全てが変わった」


「なんだと?」


「以前までの男たちの話題は私だった。それなのにアンタが現れて否や、私の事なんかどうでもいいように忘れさられた。男たちは四六時中アンタの事ばっかり。私が一番可愛いはずなのに」


 アリアは話を続ける。


「私は嫉妬したわ。私は私を一番可愛いと、いくら信じ込んでもアンタの顔を見るたびに敗北感を味合わせられた。分かる?私があの頃に味わった敗北感と屈辱を。次第に私はアンタを憎むようになっていった」


「だ、だが。私は今まで周囲から冷たい目で見られてきた。あれは一体どういうことだ?」


「禁断の魔法を使ってアンタの見た目を醜くしたの」

 

「そんな事を……」


「とはいえ、禁忌の魔法といっても私はそんな魔法は使えない。だから人間の命や自分の生命力を犠牲にしてようやく使うことができたのだけど、やはり完全には上手くいかなかった。結果としてアンタは醜くならなかったけど、その代わりに周りの人がアンタを見たら不快になる魔法が付与された」


「それが原因で私は今まで嫌われていたというのか……」


 アリアの答えは妙に自分の腑に落ちた。


 確かにそうだったかもしれない。周りの人は自分の顔を見ると明らかに不機嫌になっていた。まさかこんな事が原因だったとは。


「あとアンタのシルバーという名字が気に入らない。私の組織のボスは名前にシルバーと付く。なんの偶然かは知らないし、出会ったのはアンタのほうが先だけどパクらないで欲しいわ」


 そう言ったところでリエルが神妙な顔をしている事に気付いた。


「どうした?まさか怒っちゃった?」


「……ありがとう」


「………?」


 今までの話を聞いてリエルは何故か感謝をする。そして晴々しい顔をしていた。


「今までは仲間を殺したお前が憎かった。しかし全てを理解した今、お前には感謝すら覚えるかもしれない」


「はっ?何を言って……。ついに頭でもおかしくなった?」


「私に魔法をかけてくれてありがとう。そのおかげで私は彼に会うことができた。悲劇を通して、彼に会うことができたんだ」


 リエルは少し間を置くと、胸の内を明かしていく。


「こんな事を言ったら私も薄情で、お前と同罪になるかもしれない。それでも言わせてくれ。今までの大切な人たち全てか彼のどちらかを助けろ言われたら、私は迷わず彼を選ぶよ。それほどまでに彼を好きになってしまったんだ……」


「彼ってさっきの?」


 アリアは先ほどの貴族のような衣装の男を思い出す。


「あぁそうだ。私にとって誰よりも大切な人なんだ」




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