タコ
「落ち着いて…。
大丈夫…俺はそんな事で怒ったりしないよ」
リエルの事を優しく抱き寄せる。
「ほ…ほんとうか…?うっ…」
リエルは顔を赤くしてこちらを見つめる。
彼女が泣いている理由がそんな事だったは。
くだらないなど到底言うつもりも無いし、思ってもいないのだが、予想外というか自分では全くわからなかった。
そもそもあれは元を辿れば自分のせい。
リエルに何も言わずに宿を去った自分のミスである。
まさかそれで、リエルをこんなにも悲しませるとは思っていなかった。
はぁ〜〜。
やっちゃったな……。
これは反省だ。
俺もちゃんと言って宿を離れるべきだった。
リエルがまさかこんな繊細な心の持ち主だったとは…。
彼女の事はどちらかというと律儀で堂々とした性格だと思っていた。
ただそれはあくまで外面の印象だったのだ。
彼女の父親は騎士のためにそういう性格で育てられたのかもしれないが、一方では内面は誰よりも繊細で気弱だった。
とかく彼女は生真面目というか責任を背負いすぎる性格なのかもしれない。外柔内剛とはこういう事なのだろう。
ただそれを責めるつもりはない。
これはあくまで自分のミス。
「俺もごめん。
しっかり言っておけば良かったよ」
彼女の頭を撫でた。
するととても良い香りが漂ってくる。
女子高生に近づいたらシャンプーの匂いが香ってくる現象とそれは一緒だった。
あぁ…。
すっげ〜いい匂いだ…。
……てっ、そんな事考えている時じゃないな…。
もはややっている事が自称紳士の変態なのだが、それは置いておこう。今は彼女を慰める場面である。
「わ…悪いのは私なんだ!!
ジークが謝る事ではない!!」
「そうやってなんでも背負い過ぎないでよ…」
ジークはより一層彼女を強く抱擁する。
すると彼女の温もりを感じられた。
それは彼女も同じ。
彼女はだんだんと息を落ち着かせていく。
「リエルは人の事を思える事ができる」
だけど。
「他の人に目を向けすぎているのかもね。
たまには自分のことを思って、自分のために行動したらどうかな…?そうすれば…もっとリエルは素敵に明るく生きられるよ」
「そ、そうか…?」
「うんもちろん。
だからもっと自分のことを大切にしようよ」
「わ、わかった…」
彼女も強くこちらを求めてきた。
これが今の自分にできる慰め方。
言っている事は恥ずかしくて臭いかもしれないが、彼女の気持ちがこれで少しでも晴れるなら、自分としては御の字。
そしてしばらく二人の時間が流れた。
もしかしたら、今もどこかで市民が傷つけられているかもしれない。しかし今は助ける余裕などない。
目の前で泣いている女性を助けられずに一体誰を助けられるというのか。今は彼女の心を助けるのだ。
いつしか二人は抱擁を解いた。
リエルは納得できないように少し下唇をだしている。
「むっ…。
もうちょっと私の事を抱いてくれても良かったのに…」
「うん?
何か言った?」
「ううん。
な…何でもないぞ…!」
彼女が何か言ったように聞こえたが気のせいだったようだ。
目の前にはいつもの彼女がいる。
まだ目元が赤いがそれでもいつものように元気な彼女だ。
「すまなかったな…。
騎士であるはずの私が心苦しいものを見せてしまった…」
「気にしないで。
あのリエルは俺だけの秘密だよ?」
「……っ!!
そ、そうか!!あれは私と君との秘密か!!」
「そうだよ二人だけの秘密。
他の誰にも見せないでね?」
「あぁもちろんだ!!
あんな無様な姿はジーク以外には誰にも見せない!」
彼女はそれはそれは嬉しそうな顔をする。
なんか急に嬉しそう…。
よく分かんないけど嬉しそうで何よりだ。
自分の恥ずかしい姿を秘密と言われて、どういう事で嬉しいのか分からないが、ご機嫌になってくれれば幸いだ。
…わ、私とジークだけの秘密……//
この世界で彼以外には誰にも見せない秘密……//
リエルの顔が先ほどとは違う意味で紅潮する。
秘密という事はそれほどの関係ということ…。
つ、つまり…!!
私の事が大切っていうてことなのだろうか//??
リエルはジークを見つめる。
そしてその距離は段々と近づいていった。
あぁ…!
か…彼の唇が美味しそうだ!!
今ここで吸い付いても問題はないだろうか…!?
ここに騎士の姿は無いかもしれない。
代わりといってはなんだが、異性との関わりがないがために妄想癖を拗らせた20過ぎの女性がそこにはいる。
リエルは目を閉じて唇を突き出す。
ジークにはその意味が分からなかった。
ん……タコ?
リエルはタコの真似でもしてるの…?
そしてそこにはあまりにも鈍感な男がいた。
初心とかそういう以前の問題だ。
これが鈍感な者と妄想を拗らせた者の末路だろうか。
恐ろしくも噛み合っていない。
「可愛いタコさんのモノマネだね。
白いリエルの肌がそれほど赤くなるとは思わなかった」
「タ……タコ…??
わ、私はタコのモノマネをしていたのか……!?」
「えっ…?違うの??」
「い、いや…そうだとも!!
よく分かったな!!ハハハハ……」
リエルは綺麗な銀髪を撫でていた。
その姿はとても愛らしかった。
「とりあえずこの場は離れようか。
早く市民の人たちを助けなければいけないしな!!」
リエルはそう言う。
それに対してジークは何か物思いというか浮かない顔をしていた。
「ど、どうした…??」
「いや…特には…」
そこでリエルはある事に気付いた。
今の彼の表情が、宿の時の帰りたそうにしていた彼の顔と同じことに。
リエルは途端に不安が舞い戻ってきた。
や、やっぱり…私と一緒は嫌なのだろうか…。
彼はもしかしたら自分の事が嫌いなのかもしれない。
だから宿の時も何も言わずに立ち去ったのだろうか。
人の心は自由だ。
彼が自分のことを嫌いだとしても自分は何か言える立場ではない。
それもそうか…。
私は嫌われて当然な事をしてしまったよな…。
私を仲間に入れたくないと思うのは当然だよな…。
リエルは再び落ち込んでいく。
ジークは少し頭をかいた後に話し出した。
「前は曖昧な表現で悪かった。
でも今回ははっきり言わせてもらおう。
俺と一緒に来てくれないかリエル?」
自分の予想とは180度違う内容。
彼は笑顔で手を差し出してくる。
その手はどこまでも眩しく見えた。
や、やっぱり!!
彼は私の事を思っていてくれたんだ!!
自分は何て幸せ者なのだろうか。
彼の質問に対する答えはもちろん一つしか持ち合わせていない。
だからそれを彼女は言う。
「もちろんだ!!
私も一緒に連れて行ってくれジーク!!」
彼女は、はにかんだ笑顔でそう言った。
もう少しでブルーパレス犯罪組織編のクライマックスになります。かなりの長丁場になりました。
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