復讐劇
「す、すごい…。
ジーク、君はどれほどの力を持っているんだ…」
「俺の本業は魔法使い。
お遊び程度の相手には肉弾戦で十分だ」
ジークは余裕そうな顔でそう言った。
「そ、それは…」
リエルは絶句する。
それも当然だ。
魔法使いが肉弾戦でも戦えるなど聞いたことがない。
それも、拳だけでこの街一番の騎士に勝ってしまう。
こんな事があって良いのだろうか。
彼がもし本気になって魔法を使ったら、一体どうなってしまうのだろうか。
彼はもはや伝説の存在を超える人物なのでは無いだろうか。
そしてなによりも、そんな彼が自分の事を守ってくれる。
こんなに心強い事は無い。
彼さえいればこの街の全てを敵に回そうとも、勝てるのではないかとそんな気がしてくる。
いや実際勝てそうだ。
「き、貴様は何者だ!?」
後ろに控えていた衛兵たちが及び腰で武器を構えている。ただそれは形だけ。
彼らにはもう戦意は存在しない。
それもそうだろう。
自分達が最強だと思っていた存在があれほど簡単に破れたのだから。自分達が尊敬し頼りにしていた存在が、魔法使いに殴られて100メートル以上も吹っ飛ばされた。
それは怯えるのも無理はない。
彼らは知らぬ間に膝をガクガクさせて声を震わせている。もし目の前の存在、ジークが何か動きでも見せれば彼らはすぐに逃げ惑うだろう。
彼らはどうした逃げられるのか、どうしたら良い言い訳が思いつくか。
そんな事で頭がいっぱいだった。
「あんたらが噂していたフェンリルとはこの俺」
ジークは間を置いた。
そして話を紡ぐ。
「早速だけど…あんたらには死んでもらおう」
ジークは彼らを睨みつけた。
「ま…まってくれないか!?
我らは上官の命令に従っていただけだ!!
我々の本意ではない!!」
彼らは武器を捨ててこちらに命乞いをし始める。
しかしそんなものはもう遅い。
「だから何…?
上官の命令だったら無辜の民を殺しても許されるの…?」
ジークは軽蔑したような顔をする。
そして話を続けた。
「あんたらに意志や人としての恩情は無いの?
命令に従ってれば人を殴っても、刺し殺しても、切り刻んでも無罪になるの?」
「…い、いやそんなことは…」
兵士達は後ろめたい顔をする。
「だったら俺が何しようと勝手だよね?
俺もあんたらみたいに殴り殺したり、刺し殺したり、切り刻んでも文句は言わないよね?」
「ゆ、許してくれ!!」
「貴様らにとって弱き者はゴミなんでしょ?
だったら俺も目の前にいるゴミを排除しても良いよね?」
彼は今にも泣きそうな悲惨な顔をして立ち尽くしている。
もはや時間の無駄だ。
彼らが改心する事は出来ないし、例え自分達のやったことを悔い改めても、亡くなった市民達はかえって来ない。
ジークは召喚魔法を唱える。
「サモンアンデッド、スケルトンナイト、ブラックナイト、イモータルナイトキング」
ジークの目の前に大量のアンデッドが作り出される。
騎士の格好をした骸骨が20体、乗馬した骨の騎士が10体、闇の炎を纏う骨の馬に跨った特別な装備をしている骸骨が1体。
恐ろしい死の軍団の出来上がりだ。
「…ひ、ひぃ…!」
衛兵たちは腰を抜かしている。
彼らでは勝てない存在の気配を感じ取っているのか、それとも恐怖という名の縄で縛られているのか、誰もが呆然とその軍団を見ていた。
「さぁスケルトンたちよ目の前のゴミどもを排除するんだ」
その一声で軍団は動きを見せた。
そしてそれらは一目散に衛兵たちをを追いかける。
「た、助けてくれぇ!!」
衛兵たちは重い腰を上げて逃げ始める。
しかし問題は遅過ぎた。
鎧という身を守る重装備がかえって彼らの事を危険に晒している。
そして1人がブラックナイトの槍で串刺しになる。
彼は肛門から口まで槍が貫通してしまった。
ブラックナイトはそれを嬉しそうに振り回す。
あれ…?
あれってなんか…。
ジークはそれであるものを思い出した。
それは焼き鳥。
まさか異世界で焼き鳥を観れるとは思わなかった。
それも具材が人間の焼き鳥を見ることになるとは。
「ギャァァアー!!?」
衛兵たちは逃げ惑う。
死の軍団は彼らに追尾して一人また一人と殺していく。殺され方は刺殺、斬殺、撲殺。
くしくもそれは、先程衛兵たちが市民を殺す時と一致していた。ジークがあえて騎士の格好をしたスケルトンたちを呼び出したのはそのため。
彼らに市民たちの気持ちを分からせるためだ。
「どうだい?
これで殺された市民たちの気持ちがわかったでしょ?恐ろしくても誰も助けてくれない恐怖と痛みを。
一方的に殺される痛みと恐怖を」
「だ、だずげでぇぇえ!!」
自分は別にサイコパスではない。
どちらかというと、日本人にありがちな自分をサイコパスに見せたがる一般人だ。
本当のサイコパスには勝てないしそうなる気もない。本当だったら彼らはもっと優しく殺すはずだった。
ただ、一般市民を殺した彼らには死んでもらうのは確定だったのだ。
それが楽に死ねるかそうではないかの違いだけ。
自分としてもこのまま市民が苦しむのは許容できない。彼らにはどのみち代償を支払ってもらわなければならないのだ。
△△△△
そしてどれくらい経っただろうか。
目の前には大量の死体とアンデッドの軍勢、そして隣にいるリエルだ。
「あの時は勝手に宿から出て行ってごめん」
ジークはリエルに謝る。
「いや別に良いんだぞ、気にしないでくれ。
それよりも…私のことを助けに来てくれてありがとう」
すみません中途半端になってしまいました。
今日は二本目も上げるので、許してください!!