無双系男子
「やっぱり来てくれると思っていたっ!!」
「大丈夫だったかい?」
「あぁ!!」
リエルはジークに抱きつく。
「眷属がリエルのことを発見したんだよ。
それですぐさま駆けつけることができた。
無事で本当に良かった!」
ジークも彼女のことを抱擁した。
うっ……!
リエルの顔が真っ赤になっていく。
お、思わず抱きついてしまったが、私のことを嫌がらずに抱き返してくれる…。
やはり君だけだ…。
私の事を思ってくれているのは君だけなんだ…!
リエルはこれ以上無い力で抱きしめていく。
自分の心が満たされていく。
彼は私のことを思っていてくれる。
こんなに嬉しい事はない。
二人がイチャイチャした雰囲気を出す。
そしてラースは呆然とそれを見ていた。
何をやっている…?
俺の御前だぞ!!
そして耐えきれずに口が動く。
「なんだ貴様は?」
「…俺の名は、蒼翠のフェンリル」
「フ、フェンリルだと…」
ジークはリエルに対する抱擁を解く。
彼女は物欲しそうな顔をしてこちらを見つめるが、今は少し我慢してもらおう。
「逆にあんたは何者なんだい?
名前を聞くときはまず自分からじゃないの?」
「…これは失礼。
俺の名前はラース・ガディウス。
そして、この街の戦士長だ。私の前に跪いていいんだぞ?」
ラースはドヤ顔でそう言った。
事実、心の中ではそう思っている。
この名を聞いて恐れない者は無い。
この街の者であれば誰もが俺を敬い恐れる。
お前は誰を敵にまわしたのか、後悔するがいい。
ラースは卑しい笑みを浮かべる。
それは相手を見下す笑い。
この男では戦士長である自分に勝てない。
「おぉあんたが戦士長か…」
ジークは驚くような表情をした。
どうだ怖いか?
怖いんだったら……。
「随分と小物みたいな見た目だw
それとごめんね。あんたのお友達の副戦士長君は俺が消しちゃったよw」
「ど、どういうことだ?」
ラースはジークの発言が理解できなかった。
ジークもそれに対して困惑している。
「え?あんたのお友達でしょあの男?」
違うそっちの方では無い。
今、自分のことをこの男はなんと言ったのだ?
……小物?
あ、ありえない。
わずか20歳強で戦士長になった自分が小物?
そんな事はおかしい。
文武両道で眉目秀麗の自分が小物……?
そんな事があるわけがない。
この男は何を言っているのだ。
出まかせを言うのもいい加減にしろ。
自分の頭に血が昇っていく。
「俺が小物とはどう言う事だ!?
私は天才騎士だ!!そしてこの街を支配できる一握りの上級国民だ!!」
「あぁそっちの事ね…」
ジークは一幕置いてから話を続けた。
「あんたは何も分かってない。
そんな事を言ってるから所詮は小物なんだよ」
ジークは憎たらしい笑みを浮かべる。
それは先ほどの自分がリエルに向けていた差別の目に似ていた。
…そ、そんな目で…そんな目で見るのはやめろ!!
私は天才、そして美しい。
そんな俺に対して向ける顔では無い!
今までに俺をそんな目でみたやつはいない!!
そうだ。
自分は今まで他人に尊敬されて生きてきた。
何をするにも他人は俺のことを特別扱いしてくれたし、俺は他人を見下してきた。
それが当たり前。
それなのに目の前の男は自分の事を見下している。
大した実力もないくせに俺様の事を、変な目つきで見ている。
だからラースの怒りはどんどんと上昇していく。
その目はやめろ…。
俺は全ての人間の頂点なのだ。
だからそんな目で俺を見るな。
「俺は全ての人間の上にいるべき存在だ!!
だからお前も首を垂れろぉぉ!!」
激昂したラースは恐るべき速さでジークに接近する。
そして持っていた剣でジークの脳天を狙った。
「…そんなに俺の目つきが気に入らないの?
だったらもっと見てあげるよw」
ラース渾身の一撃がジークの指一本で止まった。
「ど、どうして…?」
こんな事はあり得ない。
一体どういうことなのだ。
「戦士長のくせに大した剣技じゃないね。
頭を狙う技なんて誰でも出来るんだよ。
それこそ魔法使いの俺でもねw」
「ふ、ふざけるなぁぁあー!!」
ラースは剣による怒涛の攻撃を開始する。
右薙、左薙、大上段の一撃、そして突き。
どれも神速の域に達する大技だ。
しかし全てジークに防がれる。
それも指一本だけで。
なぜ防がれる!?
俺の剣は一流のはずだ!!
魔法使いが防げるわけが無い!!
…そ、そうか!!
何か奇妙な技で俺の剣技を防いでいるのか!?
そうじゃなきゃこんな事はあり得ない!
ラースは自分に言い聞かせる。
もし身体能力で防いでると言われたら、自分のプライドが崩壊してしまう。
自分の剣技は世界最高峰のはずだ。
「ふーん…なるほど。
あんたは先ほど弱き者はゴミだと言ってたみたいだね。俺からすればあんたがゴミだよ」
「ゴ…ゴミ?
この私が…?」
「そうだ。
あんたは立派な粗大ゴミだ」
男に前蹴りを食らわせる。
それは凄まじい破壊力。
男は10メートル以上吹っ飛んでいく。
そして兵士たちに突っ込んでいった。
リエルはジークの発言で一つの疑問が浮かび上がった。そしてそれを彼にぶつける。
「ジ、ジーク。
なぜ君はあの男がゴミと言っていた事が分かる?
あの時、君はいなかったはずでは…?」
「その通り、俺はいなかったよ。
リエルの脳内にあった記憶を借りただけ。
勝手に借りてごめんね」
「そ、そんな事ができるのか…?」
「もちろん。
俺は禁呪使いであり、裏の支配者だ。
そう言う事はチョチョイのチョイだよ」
それと。
「リエル…君は不細工なんかじゃ無いよ。
俺からしてみれば君は綺麗だ」
ジークはニッコリと微笑んだ。
ジ、ジーク…。
君はどこまで私に期待させる気だ。
もはや我慢できなくて涙が出てきた。
かつてこんな事を言ってくれた人はいなかった。
男たちの自分に対する噂話はいつも自分の悪口。
いつも周りは自分を虐げる。
そんな事は当たり前だと思っていた。
そしていつからか期待しなくなった。
だけど、彼は違う。
彼は私の事を綺麗だと言ってくれた。
もはや自分の気持ちを抑えきれない。
彼に自分の気持ちを隠せない。
「ジーク//」
彼に抱きつく。
もうこれ以上我慢しなくていいのだ。
彼に嫌われてもいい。
ただこの瞬間は、自分の気持ちに素直になりたい。
君のことが好きだと、この気持ちを身体でぶつけたい。
「ほ〜らもう大丈夫だ…」
自分も熱い抱擁で気持ちに応じる。
彼女も怖かったのだろう。
だがもうその心配をする必要ない。
なぜなら自分が来たからだ。
「貴様らぁぁあーー!!」
砂煙の中からラースが出てくる。
その姿は血と汚れでボロボロだった。
「貴様らは絶対にコロス!!
そんなイチャイチャくっついてるな!!
俺様がいるんだぞぉぉ!!」
ラースはもはや自制が効いていない。
このハエどもは自分を差し置いて何をしているのだ。
圧倒的強者の自分に対して向けて良い態度では無い。
「貴様らは…大人しく俺に殺されるべきなんだ!!」
「うるさいよ粗大ゴミ。
お前の出る幕は終わりだ」
「お前は俺に跪けぇぇえ!!」
ラースはメチャクチャに突進する。
もはやその姿は騎士でも何でもなかった。
プライドと自分の力を過信しすぎた者の末路。
ジークにとってその姿はひどく憐れに見える。
「さようなら戦士長様。
朝の眠気覚ましとしてあんたは良い活躍だったよ」
ジークは一瞬でラースに接近する。
そして右拳で鎧を殴りつけた。
ラースは身体もろとも吹っ飛んでいき、とんでもない速度で遥か先の建物にぶつかっていった。
「ホームラン!!」
吹っ飛んだラースを見てジークはそんな事を叫ぶ。
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