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祈り

「貴様は戦士長ラース・ガディウス…」


「ほう…俺を知っているか」


「知ってるも何も、貴様はこの都市で有名人だ」


リエルは苦虫を噛み潰したような顔になった。


この男を見かけたことがある。

あの時は遠目で見ただけなのでよく分からなかった。

だが今こうして目の前に現れた事でよくわかる。


この男の凄まじい気配を。

騎士として自分より格上だということを。


リエルはレイピアの切っ先をラースに向けた。


だがここでリエルは引かない。

今ここで一騎討ちしても自分では勝てない事はわかっている。


だがそれがどうしたというのだ。


自分はそんなことで逃げはしない。


目の前の男は多くの人々を苦しめてきた存在。

そんな相手を自分がしなくて、一体誰が相手してくれるというのだ。


無実の民が殺されているのを黙って見るわけにはいかないのだ。


今ここで騎士の正義を見せなくてどうする。

腐敗した騎士を止められるのは正義を(かざ)した騎士だけだ。


たとえ自分が死のうとも1分1秒でも多く時間稼ぎをしてみせる。


そしてより多くの民の命を救うのだ。


リエルはレイピアを持って堂々と構える。


この命は彼がくれたもの。

もはや何も怖くはない。


むしろ怖がっているのは、多くのものを持ちすぎた相手の方だ。



一方、ラースは女を観察していく。


何だこの女…?

雰囲気が変わったか?


目の前の女は少し大きくなったように感じた。

それは気のせいかもしれない。


ただそんな事はどうでもいい。


この女は街に楯突く反乱者。

ただでは死なせない。


女をムカつかせてボロボロにして最後は命乞いをさせながら殺したい。

弱者であるこのような雑魚が未だに騎士気取りなのが気に入らない。


だからラースは挑発をする。


「貴様は先ほどの無様な市民のように逃ないのか?

……あれはお笑いだったぞ。

我々が何もしないと思って強く出やがってあんな羽虫どもはこの街にいらん」


「それが挑発のつもりか?

貴様が騎士であるならば剣で見せてみろ」 


リエルはそんな挑発になど乗らない。


高位の騎士だろうとこの男の心は蛆虫よりも薄汚い。

そんな汚らしくて安い騎士の挑発には乗ってはいけない。


「面白いな貴様、だが騎士は強さが全て。

礼儀などクソの役にも立たん」


ラースは剣を拾う。


「いくぞ…俺の剣技に耐えられるか?」



そして二人はぶつかり合った。


「はぁぁあ!!」


凄まじい剣戟を二人は繰り広げていく。


ラースの重たい剣圧をリエルはレイピアの軽さを活かして攻撃をいなす。


「この街に人間などいくらでもいる!!

市民は奴隷!奴隷が減ったらまた持ってくればいいだけだ!」


「………」


「騎士の威厳など関係ない!

この世は強さが全て、弱き者はゴミのように扱われるだけだ!!」


「………」


「そしてお前も弱き者…つまりゴミだ!!」


リエルはラースの鍔迫り合いで吹っ飛ばされる。


騎士の威圧(ナイツプレッシャー)!」


ラースから風圧のようなものが発生した。

その風圧は石造の道路を破壊しながらこちらへ向かってくる。


鉄の領域(アイロンフィールド)!!」


リエルはレイピアを横一線。

すると自分を中心として半円の鉄のドームが作られて、風圧を防いだ。


ラースはリエルに急激に近づくと二人は再び剣戟を開始する。


「俺は今まで多くのゴミどもを始末してきた。

女をレイプし、痛めつけ、輪姦(まわ)すのはとっても愉快だったぞ?」


「き、貴様!!」


流石にこの挑発は耐えられない。

ラースは彼女が怒ったのを見ると少し不気味な笑みを浮かべた。


「お前もそうしてやりたいところだがブスすぎる。

お前は家畜にでも犯されておけ!!」


二人は激しい剣戟する。



しばらくして距離を取った。


「ふっ……」


リエルは何故か笑みを浮かべた。


「たとえ私はなんて言われようが構わない。

ただ残念だが今の挑発は返って私の心を喜ばせてくれた」


「何を言っている…?」


ラースは困惑する。


どういう事だ?

この女は罵詈雑言(ばりぞうごん)を聞いて喜ぶドMなのか?



「私は確かに多くの人にそう思われてきた。

多くの男どもは私のことを裏で嘲笑し、私を騙してきた」


……だがな。


「ある一人の男の人だけは私に優しくしてくれた。

初めて会ったのに、私に優しくしてくれて私の命を救ってくれて、なおかつ私の事を思ってくれていた」


リエルはラースの上空の方を見て話す。

どちらかというと思い出話を掘り起こして、感傷に浸っているようだった。


実際リエルの脳内に目の前の男はいなかった。


「その男の人は誰よりも強い。

…それこそお前なんかよりもな。

彼はお前らのことを探しているみたいだぞ?

この街にいれば、彼はきっと私を助けてくれる…」


その姿は恋する乙女のようだった。


「な、何を言っている?

住民が殺されすぎて頭がおかしくなったか?」


その時、ラースには一人の人物が頭をよぎった。


ま、まさか…あの男か…?


思い浮かべたのは"蒼翠のフェンリル"という者。


二日前にこちらの最高の暗殺者を返り討ちにして、目の前の女を救ったと言われる謎の人物だ。


まだ情報は集まっておらず正確な情報は無い。

ただ分かることがあるとすれば、その男は青髪で金色、または黄色の目をしているという。


そしてなによりも恐ろしく強い。

という事である。


「そんな出鱈目で俺は引かんぞ?

もういい、貴様はじっくりと殺すつもりだったが次の一撃でお前を消し去る」


ラースは剣を弓のように引き絞る仕草をとる。


そう、それこそラースの最終奥義。


音速を超えるその技は誰にも避けられない。

この女は気付かぬ前に即死するだろう。


対してリエルは余裕の表情。

それどころかレイピアを鞘に収めた。


「来てみろ」


「なんの真似だ…?」


「私はもう抵抗しない。

なぜなら彼が助けに来てくれるからな」


「何をふざけた事を?

勝てないと思って諦めたのか?」


「彼はきっと助けてくれる…。

そうだ…。彼はきっと私を助けてくれる…」


そんな祈りで何が変わる?

誰も貴様など助けに来ないぞ。

ふざけやがって!!


目の前の女がするべき行動は命乞い。

自分では決して勝てない存在を前にこの女は命乞いをしなければならないのだ。


それだというにこの女は祈っている。

一体何をふざけているのだ。


ラースはより一層不快になる。


それに対してリエルはどこまでも冷静。


今の自分に怖いものなどない。

自分がピンチの時に彼はいつも駆けつけてくれた。


そうなのだ。

彼は必ず私を助けに来てくれる。

なんだかんだ私のことを見守ってくれているのだ。


リエルは静かに目を閉じた。


「しねぇぇえ!!」


直後ラースは突進する。

もはやこうなったら誰にも止められない。

音速を超えたその一撃は相手を容易に粉砕する。


そう、誰も止められないのだ。



しかし。



「俺を呼んだかい?リエル」



「えっ…」 


ラースは衝撃を受けた。

突然どこからか現れた男が、自分の一撃を止めたからだ。


それも人差し指で。


こんな事は…?


「ジークッッッ!!」


青髪の少年はこちらを向く。

そして微笑んだ。


「待たせたね。

俺が来たからにはもう安全だよ」



下の星を付けていただいたら作者は非常に喜びます!

あなた様の応援で私は毎日投稿を頑張れますので、是非ともお願いいたします!!

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