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戦士長

 一方その頃。


ブルーパレス西部、管理長屋敷前にて。


「私たちの娘を返して!」


「そうだ!

お前らがさらったんだろ!?」


「いえいえ違います!

落ち着いてください!」


どうやら市民と衛兵が集団で揉めているようだった。


市民の数はざっと30人だろうか。

衛兵の方はそれよりも少ない20人ほど。


「じゃあお前らじゃなきゃ誰だって言うんだ!?

あの館の件(・・・)はお前らの仕業だろ!?」


「それは今調査中ですので!!」


市民達が訴えているのは昨日のとある事件の事だ。


昨日、ある館が襲撃にあった。


その館の名前は薔薇の楽園。

この街の有力者が所有していると言われていたその館

が、何者かの襲撃にあったのだ。


そこから大勢の奴隷が出てきた。


しかし奴隷がいるという事自体が問題では無い。

奴隷はこの街で黙認されている事業であるからだ。


問題はここから。


その奴隷の中に、何の罪もない借金もしていないこの街の女性が拐われていたといたというのだ。 


そういえば少し前からこの街で謎の人攫いが有名になっていた。


独り身の女性や人妻が忽然と消える。

まだ年端もいかない子供が行方不明になる。


その全員が、この館に攫われていたのだ。

そして攫われていた人達が自分の家に戻って誘拐されていた事を告白した。


しかしそれだけならまだ街は分からなかったで済ませられる。


しかし襲撃されたその館からは、この街の関係者やお偉い方、果ては副戦士長の遺体が発見されたているという。


もはやこれはどう言おうと言い訳がつかない。


怒り狂った市民達や被害者達、さらにはこの事を聞きつけた住民達が関係各所に訴えているのだ。


中には裏で金を受け取っていた住民達もいたという話だ。


市民と衛兵の衝突はこの場所だけにとどまらずこの街全体にまで拡大されていた。


「お前たちはあの館とグルだったのか!?」


「いいえ違います!!」


槍や盾で武装した市民達が衛兵達と衝突する。

市民達は衛兵を押し出し、衛兵達は盾でそれに対応する。


すると屋敷から一人の男が出てきた。


金髪に碧眼の美形の男。

騎士達の軍服のワンランク上のものを着用しており、鋭利な顔からは自信が満ち溢れている。


その者は衛兵も住民も知っている顔だった。


それもそのはず。


彼はこの街の戦士長ラース・ガディウス。

弱冠23歳で戦士長になった天才騎士の名だ。

この町に住む者だったらこの名を知らない者はいない。


「ラース様!」


「ラース様!」


衛兵達が口々にその名を呼ぶ。


「…ふん。どいていろ」


ラースは衛兵達を押し退け住民達の前に立った。

すると一人の住人が近寄ってくる。


「ガディウス様!

あの館では一体何が行われていたというのですか!?

あそこに副戦士長の死体があったという話ですが、それはどういう事なのでしょうか…!?」


その住民はラースの肩を両手で掴む。

その表情は悲痛と怒りと困惑がごちゃ混ぜになった顔をしていた。


「この街は関係ない。

あれは副戦士長や一部の責任者の失態だ。

だから余計な詮索はするな」


「……えっ?」


戦士長は剣を抜くとその住民の腹を剣で突き刺した。

住民は困惑した顔を浮かべて血を吐きながら倒れていった。


「キャァーー!?」


周りの市民達は悲鳴をあげる。


ふん…無様なもんだ。

貴様らが大人しくしていれば無事で済んだものを…。


戦士長は舌打ち一つ鳴らした。

その顔は軽蔑という感情を浮かべているようであった。


「このゴミどもを始末しろ!

これは私や管理長の命令だ。

この街でデモを起こしている者達は反乱罪として皆殺し、または牢屋にぶち込め!!」


「はっ!!」


戦士長は館の方に戻って行く。



……そこから虐殺が始まった。


逃げ惑う市民達を槍で突き刺し、剣で斬り殺し、盾でぶん殴って気絶するまで殴り続けた後、連行していく。


もはや虐殺としか言いようがない。

市民達の方が数は多いものの、武装して今まで訓練してきた兵士たちには到底敵わない。

逃げることが精一杯だ。


しかし兵士たちは逃げる者達をわざわざ追いかけてまで市民を殺しまわっていく。


この者達は街の秩序を乱す反乱者。

国に情報が流れるのを街の方は恐れている。

そのため、上の者は反乱者として徹底的に排除する命令をするに至った。


敵国の内通者や反乱者が、この街の秩序を乱すために暴動を起こした。


後でいくらでも誤魔化せる。

正当化できる理由などいくらでも作れるのだ。


その時。


「何をしている!?」


街を通りかかったリエルがそこに現れた。


「貴様ら衛兵がなぜ市民達を害している?」


リエルはレイピアを引き抜いた。


「た…たすけてください」


路上で血を流しながら倒れている市民が声を上げた。

リエルはその者に近寄る。


「一体何があったのだ…?」


「この街の管理者達が市民を攫っていたのです…」


「なんだと!?」


「そしてそれを訴えていたところ、兵士たちに剣で突き刺されました…」


市民はそう言うと息を引き取った。


「貴様らの蛮行は許しておけん!!

やはりあの組織もこの街もどこまでも腐敗している!!」


リエルは未だかつてないほど憤怒している。


私の仲間を殺して、この街の市民を攫い、そしてなおかつ拐った事を隠すために街の市民を皆殺しにする。


この街の上層部や衛兵達、そしてデス・フォールの連中はこの世に入らない存在。


仲間の仇…今ここで打ってみせる!


リエルは神速の速さで移動するとこの街の衛兵を刺し殺していく。


狙う場所は心臓や頭。

乱暴に兵士では反応できない速度で突き刺す。


一人殺すとすぐさま別の目標へと移動し、もう一人殺すとすぐさま別の目標へと移動する。


リエルはもはや冷静ではなかった。


しかし、冷静になるなど無理な相談。


今まで殺されていった仲間や人々、こいつらに不幸にされた人々のために、人を殺して私腹を肥やしてきたこの連中達を、人ならざるこの悪魔達を生かしておくなど到底出来ない。


「はぁぁあ!!」


5人目の兵士の脳天を突き刺す。

そしてリエルはようやく止まった。


「ば、化け物…」


兵士たちはリエルを恐れるように後退してたじろぐ。


リエルはその者達を睨みつけた。


「どうだ…恐ろしいか?

しかし今ここで丸腰なのに殺された傷つけられた市民達が、こんなのよりどれほど恐ろしかったか言うまでも無いだろ!?」


「……ひっ!!」


許せない…。


決して許せない。

この者達は最強の恐怖をもって地獄へと落ちてもらわなければならない。



すると…。


「どれほど恐ろしかったかだと…?」


どこからか声が聞こえる。


「――っ!?」


リエルは何かが見えて瞬時に後退した。


先ほどの場所に猛スピードで剣が落ちてきた。

そこにはクレーターが出来上がる。


リエルはレイピアを構える。


「そんなのは関係ないんだよ…w

反乱者達は全員皆殺し、それだけだw」


兵士たちの中から先ほどの男、戦士長ラース・ガディウスが嘲笑いながら現れた。


「お前がリエル・シルバーだな…?

お前には消えてもらおうかw」


ラースはふざけた笑みを浮かべる。


リエルの死相が、より強まった。


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