優雅なる支配者
「う〜〜ん。このレモンティーは美味しいね〜」
人々が行き交う姿を遠目で見ながら、ジークはテラス席に座って優雅なひと時をは楽しむ。
「……どう?そのお菓子は美味しいかい?」
「うん。おいしい…」
隣にはラフィーの姿。
ラフィーはクッキーを口にしていた。
あむあむ…というような擬音がふさわしい食べ方でクッキーを食べている。
これには思わずジークもニッコリである。
あの館での出来事の後、ラフィーと一緒に宿で寝泊まりをした。
他の女性と一緒に行くか提案したが、ラフィーが俺からくっついて離れなかった。
どうやら俺は好かれてしまったらしい。
年齢を聞いてみたところ彼女は11歳だそうだ。
この街で生きていくには強さ的には問題ないが流石に少女一人を置いて行くのはまずいと思って、こうして一緒にいる。
彼女に故郷や両親の居場所は分かるかと尋ねたものの、彼女曰く両親も帰る故郷もないらしい。
だからまだ正式ではないものの、メンバーに入れようと考えている。
先日彼女の強さをこの身体で体感した。
こちらとしても戦力強化という意味でも規模拡大という意味でも彼女をメンバーに入れるのは願ったり叶ったり。
やはり館を襲撃したのは正解だった。
それに…館に連れ込まれたばかりで乱暴される前に彼女を守る事ができた。
この事がジークとしては一番良かったと思っている。
というか、そもそも彼女に触れようものなら自分に攻撃してきたように、あの連中を倒しそうなので問題も無さそうだが。
実力的にはリエルと互角ぐらい。
11歳でこんな強さを持つとは驚きだ。
この世界の獣人はよく分からないが、決して侮ってはいけない存在なのかもしれない。
ラフィーを一目したのち空を見上げる。
「…しかし良い天気だ」
全てを果たした翌日というのは気持ちが良いものだ。
あの連中は壊滅には追い込めてないので、これからも作戦は続行なのだが、この陽気な天気にさらされていると、もうこれで良いんじゃない…?
という気分にもなってくる。
燦々と照らす日光をパラソルで遮りながら手を広げる。
今の時間は10時過ぎくらいだろうか。
腹減ったな〜。
朝は食べたもののちょっと腹が減ってきた。
ジークはクッキーを食べようと手を伸ばす。
しかしガラスの器には何も残っていなかった。
……えっ?
なんで無いの?
何気なくラフィーの方を見る。
「……もぐもぐ…」
そこにはリスがいた。
両手にクッキーを持ちながら口一杯にものを詰め込んでいる、可愛らしいリスがいる。
もちろん比喩なのだが。
しかしラフィーの一生懸命クッキーを食べようとするその姿は、とてつもなく可愛らしい。
「……ん。ごちそうさま」
ゴクリというように彼女はクッキーを飲み込んだ。
全部食べたんだね……。
別に攻めるつもりはないがなんというか…ギャップが凄かった。
このわずかな時間で器に入った山盛りのクッキーを食べる食欲旺盛さ。
それほど腹が減っていたのか、はたまた食い意地が張っているのか。
よくは分からないがちょっとびっくりだ。
表情を確認するがラフィーはいつものように無表情。
先程の面白い姿はどこにも無い。
これは…。
彼女の面白い一面が見えた気がする。
食べ物になるとラフィーは豹変するのだろうか。
昨日は意識してみなかったが、確かに食べるのが早かった気がする。
しかし食べ盛りならば仕方がない。
いっぱい食べてもらって身体を成長させて欲しい。
そしていつの日か立派な大人になってほしいものだ。
ロリ体型も素敵だが、獣人のアダルトな姿も見てみたい。
そして何より…あの部分が気になって仕方がない。
女性が大人になるにつれ、とある場所が丸みを帯びて二つのメロンが出来上がる。
果たして獣人はどうなのだろうか。
ラノベでは獣人は身体つきが良いのがお約束な気もするがこちらの世界では一体どうなのか。
少し、いや…かなり興味深い。
気になって夜しか眠れないほどに。
まぁあえて紳士である自分はどことは言わない。
……しかしそれにしてもこの食べ具合。
もしかして。
これを見てある考えが自分の脳裏を駆け巡った。
今まで食べるものに困ってた?
両親もいないって言ってたし、そうなのかも…。
両親を早くに亡くして食べるものに困っていた。
かなりあり得そうな可能性。
だったら先程の姿も少し可哀想な気がする。
…よし。
ラフィーが何か物欲しそうにしてたら積極的にあげてみるか。
今まで不幸だった分、自分が幸せにしてあげなければいけない。
この組織に入るというのならば食べ物ぐらいで悩ませたりさせてはいけないのだ。
そう考えたところで一つの疑問が生じる。
昨日あれほど自分にくっついていたのも、彼女の生い立ちに関係があるのではないだろうか。
昨日の宿では大変だった。
彼女は俺の風呂にも一緒に入ってこようとしたし、ベッドの中にも入ってこようとした。
風呂の件は流石に断ったがベッドの件は拒絶したら悲しい顔をしたので、可哀想だと思って一緒に寝てあげた。
ベッドに入ってる時は、
これって誘拐じゃない…?
大丈夫?警察来ないよね?合法ですよね?
なんて思ったりもしてなかなか寝付けなかった。
警察というのは前世の話。
こちらの警察はむしろ喜んで女児にも手を出してそうなので、もはや神も仏もあったものでは無い。
先程の食い意地が張っていたのは昔食べるものが無かったから。
だとするのならば、しきりにくっついて来たのは一体何を求めていたのだろう。
リエルもやけに引っ付いて来たが、こちらの世界の女性はそんなものなのだろうか。
リエルは事はよく分からないのでひとまず置いておくとして、ラフィーは両親を早めに亡くしてしまったから愛情に飢えている。又は父性に飢えている。
というのはあり得そうな線だ。
自分は父親になった事はないので分からないが、彼女が組織に入るのならばできる限り父親役を応えてやりたい。
お前がママになるんだよ!!
いわく、俺がパパになれば良いのかもしれない。
最も…あっちの意味はかなりやばい意味で違うのだが。
「はぁ〜なんか眠たくなってきたな…」
だんだん目が虚になってくる。
そもそもなぜこんな事をしているのかというと、カフェで休憩も兼ねてリザとエイラと待ち合わせをしているのだ。
もうすぐリエル達も来るだろう。
あいつらもにも昨日の館の事について聞かなくちゃだな。
コールでのやり取りはあったが、あの二人とはなんだかんだこの街に入って以来の再会になる。
女子二人、この街を少しは楽しめたのではないだろうか。