玉座の間
城塞都市ブルー・パレス中央部。
この都市で最も立地が良いこの場所は、高級住宅街や主要な施設が整っている。
そしてそこにはデス・フォール本部である地下拠点もあった。
そしてその最奥、玉座の間にて。
「ガリオンの奴はどうしたのか?
まさかあの女ごときに手こずっている訳でもあるまい…」
玉座に堂々と座る男がそう言った。
彼の名はウィルレオ・アルン=シルバー。
犯罪集団デス・フォールの創立者かつ現リーダー。
圧倒的な力とカリスマ性を背景に、瞬く間にこの街を支配した偉大なる指導者。
そんな天才な彼は高位身分を証明する3つの名前を語る事を許されている。
そして名前にシルバーと名乗っている通り、かつては五公爵の四番席にも君臨していた圧倒的な力を持つ上位貴族でもあった。
今ここにいる理由はもうすぐ会議始まるから。
この街の役人や組織の幹部を集めた定例会だ。
「まさかそんな訳はないんじゃない?
あの男も少しの役には立つはずよ」
ガリオンの事が気掛かりでいると、王座の横で立っているやけに艶かしい女がそう言った。
彼女の名前はアリア・レイル。
ウィルレオとは違って高位身分ではないが、デス・フォールのNo.2。
ウィルレオの側近であり右腕。
そして彼女は少し前までとある冒険者チームで活動していた。
アリアはウィルレオに擦り寄る。
「もうすぐこの街を拠点に全国制覇してこの国を乗っ取るのよ、こんな場所でつまずいていたら話にならないわ」
ウィルレオの手をととるとアリアは妙にいやらしい手つきで触っていく。
「しかしつまらん者どもだ。
この街で五本指に入るといっても所詮は雑魚。
ガリオンもナイロも死んだところで全く問題はない」
リエルという女を始末しにガリオンは昨日この基地から出た。
あっという間に殺して首でも持って帰るのかと思っていたのだが、未だに帰還していていない。
まさかとは思うが負けたはずはないだろう。
あの男も幹部の一人。
訳の分からない冒険者一人ぐらい容易に始末できるだろうに、一体どこで油を売っているというのだ。
ウィルレオは少し腹を立てる。
しかし本当に役立たずばかりだ。
大した実力も無い烏合の衆ばかりで嫌気がさす。
この街で自分に勝てるものはいない。
この組織の二幹部であるガリオンとナイロ、副戦士長が挑んできたとしても自分からしてみれば雑魚だ。
唯一まともな相手になりそうなのが戦士長だが、それでも自分を倒すには力不足。
それもそうだろうか。
比較する事自体間違っているのかもしれない。
なぜなら自分は五公爵であり強大な力を持つ上位貴族。
五公爵とは、正確にいえば貴族でも公爵でもない。
人間世界に君臨する圧倒的な力を持った人間の事を五公爵と呼ぶ。
名前の通り5人の実力者がいる。
実力に応じてダイヤモンド、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズという鉱石で名付けられている。
自分はそのうちのシルバーを与えられし者。
それほどの自分だ。誰にも負ける訳がない。
だが部下は別。
大体の部下は役立たずで非力な存在。
もうすぐここを足掛かりに国を支配していこうというのに、手下に足を引っ張られては目も当てられない。
それが幹部ならば尚更だ。
ガリオンも幹部の端くれ。
女冒険者一人ぐらい軽く倒せると信じている。
これで負けようものなら部下に示しがつかない。
ウィルレオは気分を誤魔化すために、玉座の階段を降りた先の衛兵たちを観察する。
これら全ては管理者や戦士長たちの近衛兵であり、街の秩序を守る警察だ。
今は警察に、犯罪集団、つまり自分達の護衛を任せている。おかしな光景だが、それほどの力をデス・フォールは持っているという事。
「あなた以外は価値のない者ばっか」
先程の自分の発言にアリアが同意した。
しかし本当にそうだ。
自分以外は本当に能無しの雑魚。
国を支配する前に一度組員を解体、選別しようと考えているほどに。
そんな事を考えていると一人の男が話し出す。
「しかし彼は…ガリオン君は非常に良い道具ですぞ?」
それは玉座の階段を下ったところで椅子に座っている副町長であった。
六十を過ぎた薄毛の白髪で、腹には脂が乗っている。
ここにいる理由は今から開催される会議のため。
「私もその意見に賛同ですな…。
なにせ息のいい若い女を大量に入荷してくれるのですから」
その横の椅子に座る上位役人も同調した。
歳は副市長と同じぐらいだろうか、数十年に渡って権力の座にしがみついてる老人だ。
そしてそれらに同調する声は多かった。
それら全員はこの街の役人であり、年甲斐もなく女遊びをしている老人たち。
中には70歳で10代の性奴隷をいくつも従えている老人もいる。
こいつらは良い金蔓だが組織のメンバーと同様に無能だ。こいつらも用が済めばもちろん消す。
どうして自分の組織はこんなに無能が多いのか。
組織拡大は順調だがウィルレオ唯一の悩みはそこである。
そんな時、扉に大きなノックの音が響き渡った。
皆が一斉に扉の方を見る。
控えていた執事が扉の方へと向かって確認した。
「面会を求められるのはガリオン様でございます。
お通しになられてもよろしいでしょうか?」
「いいぞ」
ウィルレオは許可した。
すると扉からゆっくりとガリオンが歩いてきた。
屈強な肉体と威圧感のある顔。
しかし今回はどこか様子が違う。
顔がやつれていて、以前のような覇気が無い。
そして何よりおかしな点は左腕が無くなっていた。
ウィルレオは少し驚く。
そしてそれ以上に役人たちは動揺していた。
どういう事だ…?
何かあったのか?
階段の前で彼は跪く。
「どうしたガリオン?腕はどうした?」
「すまん!ウィルレオ。
銀髪の女を仕留め損ねた」
ガリオンは地面に擦り付けるように土下座する。
「……なんだと?」
「す、すまん許してくれ。
あの女を見つけて追い詰めたんだ。
そしたら女が持っていた訳の分からないアイテムからアンデッドが出てきた」
……アンデッド?
なぜアンデッドが出てきた?
全くもって話がわからない。
一体どういう事なのだろうか。
自然と自分の顔が渋くなっていく。
それを察知してかガリオンは必死に話を続ける。
「そのアンデッドが恐ろしいほどに強くてな…。
腕一本を無くしながらも命辛々にここまで辿り着いたんだ…」
「…そうか」
「どういう事ですか!?」
「ガリオン殿が負けたと!?」
周囲の動揺がより一層強くなる。
ガリオンは肉弾戦において最強の部類。
そうであると老人達は思っている。
それが負けたのだ。
彼らが驚いていても無理はない。
自分としても驚いている。
それに女がアンデッド使いだとは聞いていない。
召喚されたものは召喚者より弱いのが一般的。
それなのにガリオンの話によると、呼び出されたアンデッドは女よりはるかに強い。
アイテムならば可能かもしれないがそんなアイテム自体あるのだろうか。
そしてそれほど強いアンデッドがその女ごときの命令を聞くのだろうか。
全くわからない。
なぜそのようなアイテムを女は持っていたのか。
追い打ちをかけるように再びノックがされる。
執事が扉を開けるとそこには一般の組員がいた。
ウィルレオはその者の入室も許可する。
組員はすごく焦ったようにひざまずいた。
「昨夜、薔薇の館が襲撃に遭いました…!
被害状況として…館の組員は全滅、館長、都市開発部長、そして副戦士長が死んだとの報告です」
は……?
「なんだと!?」
「ど、どういう事だそれは…?」
「都市開発部長も亡くなったたと…?」
辺りは混乱している。
普段ならば静粛にするよう一喝入れるのだが、もはやそのような状況ではない。
これは危機だ。
この組織存続の危機である。
……一体誰の仕業だ?
館には相当数の戦闘員が配置されていたはず。
簡単には落とされないはずだ…。
そしてあそこには副戦士長もいた。
それらがまとめて葬られたとは到底信じられない。
考える可能性として銀髪の女。
そして先日暗殺者を返り討ちにしたフェンリル。
またはそれ以外の誰か。
どれかに判断するには決定的に情報が不足している。
「……そして奴隷の方も全員逃亡。
倉庫内の道具や財宝が館の前にばら撒かれており、衛兵達の死体が路上に散乱していました。
そしてそれを町中の住民が目撃し、集まっていたとの話です」
「…なんだと…?」
この部屋の全ての者が不安を潰すために話し出す。
老人達は怒鳴るように話し合って、隣にいるアリアはこちらに話しかけている。
ウィルレオはそれを無視するように頭を抱えた。
これはまずい…非常にまずい。
あの館にあった道具が取られるのは構わない。
しかし、あの館の前で衛兵が死んでいるのが問題だ。
その現場を目撃した住人は館の方に入るだろう。
そして館で行われていた事を目撃し、この組織と街のつながりが露呈されてしまう。
副戦士長、都市開発部長の死体がそこにあるなら言い訳がつかない。
デス・フォールとこの街が一体となって誘拐をしていた事を住民達は知るだろう。
非常にまずい…。
こんな事をしたのは一体誰なのか。
「犯人は不明です。
今は現場の沈静化をするために衛兵と組員で必死に火消しに回っておりますが、この事は町中に知れ渡るでしょう…」
「ク…クソ!」
恐るべき力でウィルレオは玉座を叩く。
あまりの力が加わったことによって肘置きの部分が粉砕された。
どういう事だ!?
やったのはどこのどいつだ!?
銀髪の女といい、フェンリルとかいう謎の奴といい、今度は何者だ!!??
ここにきて私の邪魔をする虫けらどもめ…。
絶対に排除してやる…。
ウィルレオは憤怒の域にまで達する。
それはこの場にいる他の者も同じだった。
アリアは動揺しているし、報告している組員は怯え、ガリオンは恐れ慄いている。
老人達に至っては、自分達が地位の座から引き摺り下ろされるの恐れて怒鳴りながら話し合っている。
こんなのではもはや会議どころの騒ぎではない。




