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獣人の少女

「はいそれ運んどいて〜」


大量のアンデッドに対して倉庫内の荷物を運ぶよう命令する。


その指示を受けたアンデッド達は、荷物を持って整列するように運んでいく。

一糸乱れぬその姿は遠目から見たら兵隊の行進にも見えなくもない。


それに対して自分は椅子に座って適当に命令していけばいいだけ。杖を肩たたきのように雑に扱いながらその姿を見守っていく。


いや〜便利。

それに画期的。


アンデッドの使い方としては本来これが正しいのではないのだろうか。


睡眠食事は不要。

いくら働いても肉体疲労しない。

電気を必要とする機械もびっくりの働き具合だ。


これがネクロマンサーの真髄であろう。

戦闘などに使わないで、人間の代わりに肉体労働や仕事を任せた方がよっぽど良い。


戦闘など二の次で良いのだ。


働き者と言えば日本人は相当な働き者で有名だが、このアンデッドに達にかかれば日本人お得意のブラック労働を超越したブラック労働をする事ができる。


昼夜問わず24時間365日働き続けられるアンデッド。

なんて素晴らしいのだろうか。


そんなアンデッドと比べられる日本人。


日本人の労働基準が危険なのは間違いないが、まさかここまでとは。

こちらの世界で嫌煙されているネクロマンサーより、日本社会は恐ろしくて闇が深い気がする……。


ジークは思わず身震いをした。


まぁそれはさておき。

自分がこんなことに使っているあたり、他のネクロマンサーも自分と同じようにアンデッドを肉体労働としても使っているのだろう。


いつか他のネクロマンサーと会ったら是非とも話がしてみたい。


「よっこいしょ…」


疲れてはいないが自分でもびっくりするほど重くなった腰を上げる。


「じゃあ俺は俺の残業をやりますか…」


そう。

まだ自分には仕事が残されている。


それは奴隷達の解放。


魔法で奴隷達が地下にいる事を確認済み。


この館で散々辛い思い出をしてきた奴隷達を助けるのは自分しかいない。

リエルから聞いたがこの街と組織はグルであるらしい。衛兵に連絡すれば同じ事の二の舞になる。


前世で例えるならば、警察全体とヤクザが手を組んでいるようだ。そう考えるとこの街がいかにおかしいかよく分かる。


黙認ならばまだしも、犯罪組織と街が協力して奴隷市場を促進させているとは一体なん冗談だろうか。

村にいたから分からないが、それともこういうものなのだろうか。


それでも、奴隷とはお金のない身売りや戦争での捕虜などが奴隷の基本ではないだろうか。


犯罪組織が人攫いをするのはまだしも、この街全体が犯罪組織と共謀して人攫いをするなど有り得ない話。

それも街の一部の内通者などではなく、この街全体がグルだということ。


彼女やこの街の市民を救済(・・)するには、この街の犯罪組織はもちろんのこと、街の管理人や衛兵たちにも消えてもらわなければならないのかもしれない。


毒を持って毒を制す。

正義ではないが、今だけは正義の味方になり代わってやろう。自分達の名を広めるためにもそれは大切な事だ。


(かご)に閉じ込められた小鳥達を青空に解放できるのはこの自分。


ジークは地下深く伸びている階段を進んでいった。

扉にたどり着きゆっくりとその扉を開ける。




……なるほど。


「……これが館の正体」


そこは地下通路のようになっていた。

それもただの地下通路ではなく、左右に檻があって、その中に女性達が鎖に繋がれていた。



――――



それからしばらく。


ジークは手際よく彼女達を解放していった。

心身共に傷ついている人、運良く無事だった人など全員が全員、被害には合っていなかったようだ。


攫われた人の出身を聞いてみたがかなりばらつきがあった。この街出身の人や村出身、他国から連れてこられた人などばらつきがあった。


彼女達には倉庫のものを分け与えるつもりだ。

そしてどこか遠くに行くように指示をした。

元はこの街に住んでいたとしても、脱走した以上彼女達の身に危険が迫る。


中には自分達の組織に入りたいという人もいたが、その人達は保留にさせてもらった。

組織の人材確保は是非ともしたいところだが、一応エイラ達に確認をとってからだ。


そしてジークは最後の檻を開ける。


「よいしょ…」


開けるといっても鍵はない。

鍵などどこにあるか分からなかったしそんな面倒臭いものはいらない。


ではどうやって開けるのか。


……そんなの決まっている。


力ずくで開けるのだ。

素手で太い鉄柱を折り曲げる。


自分の力ならばそれが可能だ。


檻は耐えきれないほどの力が加えられて粘土のようにフニャフニャに曲がっていく。


これは力があるからこその芸当。

力こそパワー、パワーこそ力なのだ(脳筋)。


「大丈夫?

もう安心だ…助けに来たよ」


鎖に繋がれていたのは少女だった。

顔は俯いていて窺い知ることはできないが、身体つきから10歳から12歳付近だろうか。


日焼け肌に黒髪そして何より…。


これは猫耳?

やはりこの世界にも獣人はいるのか?


彼女には獣耳が生えていた。

頭部にあるそれは茶色でふさふさとしている。

なんか見ているだけでも気持ちよさそうだ。


…‥ちょっと触ってみたい…。


思わず手が伸びるがやめておく。

獣人はそういう部分を触られると屈辱感や怒りが込み上げると聞く(アニメとかで)。


そういうのが触れられるのは親しい仲や敬愛の証とかと相場は決まっている。


今は不用意に触らない方が良いだろう。


それ以外は至って普通だった。

普通の少女である。


「大丈夫…?」


彼女の手を押さえつけていた鎖を強引に引きちぎる。


「シャアー!」


「おっと…!」


凄まじい速さで少女は飛び掛かってくる。


しかしそれは一般人からしたら。

ジークからしてみればあまりにも遅すぎる。


傷つけないように両手を優しく抑える。

そして彼女の顔を見た。


「おぉ〜」


思わずキモいおっさんみたいな声が出た。

弁明するのならば、それくらい彼女は可愛らしくも鋭い顔つきをしていた。


黒髪、茶色の獣耳、日焼け色の肌、そして真紅の瞳。

獣娘は初めて見たがどれをとっても素晴らしい。


これは自然と声が出ても仕方がないのだ。


「おっと失礼。

僕は君の敵じゃないよ君を助けに来たんだ」


警戒させないように優しくそう言う。

彼女を掴む手にもなるべく力を入れないようにして、自分が敵対心を持っていないことを伝える。


すると抵抗しようとしていた彼女の力は弱まった。


「俺の名前は蒼翠のフェンリル」


トップハットを少しずらして顔を見せる。


顔を見せるのは特別だ。

彼女だったらそれほど心配する必要もないし、今は顔を見せた方が信頼してくれれるだろう。


その効果があったのか彼女の表情は少し和らいだ。


……よかった。

どうにかしてこの娘の気持ちを落ち着かせないとな。


自分としても一安心だ。


「今から手を離すけど…僕に暴力を振るったりしないよね?それが約束できるなら手を離してあげるよ…」


「……ん。

私の名前はラフィー・フィアネ。

見ての通り獣人…」


少しラフィーの耳がピクピクした。


…か、かわいい…。

ちょっとだけならね…。


10歳ぐらいの獣の褐色娘が耳をちょこっと動かしている。


いくら無礼だといえども、ここまでくれば触らぬ方が無礼というもの。


思わず触ろうとする。

しかしラフィーはこちらが何を考えているのか気が付いたのか、こちらに咎める目付きをした。


ギクッ…!


「ま、まさか。

触ろうとは考えてないよ…?

これっぽっちもね……」


彼女は何も答えない。

そしてまた鋭い目つきで睨まれてしまった。


「さて今から手を離すけど暴力沙汰は嫌いだ。

僕は君に何もしないから、君も僕に何もしないでね…?」


ジークはその手を離す。


しかしその瞬間。


案の定攻撃が飛んできた。

繰り出すのは強烈な3連打撃。


普通の者だったら首の骨が折れるほどの威力。


しかしやはりジークにとっては遅い。

普通の人間の攻撃よりも圧倒的に速いが、相手が悪かった。


そしてラフィーの攻撃を防ぐ。


「……っ!?」


「――約束は破っちゃダメでしょ?

お母さんにそう言われなかった?」


くっ……!


ラフィーは思わず身体を震わせた。


目の前の男はニコニコしながら自分の攻撃を防ぐ。

それもいとも簡単に。


自分は獣人。

そこらへんの人間よりもパワーでもスピードでも優れている。まだ未熟とはいえ自分の攻撃は人間には反応できない速度。


それを軽々と、なおかつ自分を誤って傷つけないように優しく防ぐ。


誰がどう見ても圧倒的な差がそこにはあった。


ラフィーとしての感覚が、獣としての鋭い感覚が、バリバリと訴えてくる。


目の前の男には決して勝てないと。


自分の負けだ。

獣人族は勝てないものには敬意を表す。

目の前の男がなんであれ自分の負けだ。


ラフィーは耳をちょこんと下げた。


………。



……ん?

あれ……?


目の前の少女は途端におとなしくなる。


先程の敵意が全く感じられない。

何かあったのだろうか。


実に不思議だ。

しかしちょうどいい。

この隙に外に出してしまおう。


「とりあえず出よう。

こんな場所とは二度とおさらばだよ」


ジークは優しく彼女の手を引く。

逃げることも攻撃してくることもなく、彼女はおとなしく一緒に手を繋いで歩いてくれる。


その手は温かった。

幼女特有の体温の高さ。


おぉ…!

これは素晴らしい!


自分は変態では無い…紳士だ。

だが、もう一度言わせてもらおう。


その手は温かった。

そして幼女特有の温もりがあった。


もはや先程のおっさんとキモさは負けず劣らずにまで達していたが、あちらは悪くてキモいおっさん。

こちらは良くてキモいおっさん。


一緒にされては困るのだ。


そしてそのままラフィーと一緒に地下牢から抜け出すのであった。



いつもありがとうございます。

下の星をつけていただければこちらとしては非常に嬉しいです。

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