自己紹介は大切です。
ジークは館の最奥へと向かう。
廊下にはそこら中に死体が転がっているが霊廟の守護者たちが仕事をしてくれたのだろう。
ここの館のおよそ9割ほどの敵は片付けただろうか。
残る気配はごくわずか。
もちろん、アンデッドに奴隷達は殺すなと命令していたのでそれを差し引いての数である。
あとは奥にいる連中を始末すれば今日のやる事は完了だ。エイラとリザにも他の館を探索させているがあちらもそろそろ終わるのでは無いだろうか。
ジークはと両手をポケットに入れながら、鉄製の扉に散歩気分で近づく。先ほどのように扉を蹴破って中に入るのだろうか。
しかしそれは違った。
身体が扉にぶつかる直前に霊廟の守護者2体が現れて、扉をクロス状に切り裂く。
鉄製で厚さ数センチもあった頑強な扉が、バターのように切り裂かれた。
そしてジークの足元に崩れ落ちる。
……これが強者の入室の仕方。
普通の入り方でつまらないのである。
今のは主観的に10点中8点ぐらいだろうか。
かなり厳しめの採点だがまだまだ支配者としての高みがあるはずだ。
また、これを誰かが見ていると得点としてはグッと加算されるのだが、あいにく誰もいなかった。
ジークは両手をポケットに入れたまま中へと入っていく。
へぇ…。
館の奥はてっきりあれをする部屋かと思ってたけど、まさかこんな風になってるとは。
目の前に現れたのは大量に物が置かれた倉庫だった。
膨大な広さを誇っておりジークの背丈の2、3倍の物が積まれている。
一体何に利用されるのだろうか。
ジークは積荷近づいても物を漁る。
そして一つのものを手に取った。
魔道具か。
温度計みたいにその土地の魔力量を測る道具だけど、これといって怪しいものでは無いな。
ジークは雑に投げて箱に戻す。
詳しく見ないと分からないが、ぱっと見、家財や魔道具、貴重品などが集められているように見える。
倉庫の中をどんどん進むが、これといって怪しい道具は見つからない。
連中はこれを何に使ってるんだ?
他人から奪った金品や家財をこの倉庫に一時保管して、密輸とか売買してるのか?
あまり良くは分からないがそんな事はどうでもいい。
この館の人間を葬り去った時、誰も所有者がいないのならば是非とも利用、回収させてもらおう。
ジークの顔は再び悪い顔になる。
しかしそれも仕方ないのだ。
こんな量の貴重品を返すのは至難の業。
いや、困難である。
盗まれた人達の怒りや悲しみは、この連中を潰すという自分の行動で勘弁していただこう。
そもそも自分達は正義の味方では無い。
自分達の利益のために生贄を喜んで殺す場合もあるがその分助ける事もある。
勇者のように弱きを助け、強きを挫く場合もあるが、魔王のように悪を押し進める事もある。(この世界の勇者や魔王は知らないが)
勧善懲悪とはいかないものの、悪役に落ち着く気も無い。
この街の悪を倒して欲しいのならば代償が必要だ。
今回は悪を倒すことによって生贄を頂こう。
と、ジークは心の中で免罪符をつくった。
正直言おう。
この荷物が欲しい。
……以上だ。
倉庫の奥に行くと開けた場所があった。
そこには場違いな豪華なソファーや椅子があり、数人のものが談笑している。
これがジークの今日最後の仕事。
この館のゴミ掃除である。
「やぁ!」
ジークは先ほどのおっさん達とは随分と声色を変えてそう言った。
「なんだ…てめぇ?」
4人ほどの荒くれ者が来た。
そして1人遅れて、妙に落ち着いた正規軍のような服装の男がこちらへ向かってくる。
「あんたらが最後の人たちみたいだね」
ジークは呑気に意味深長な事を言う。
「何言ってんだ…てめぇ?」
4人の荒くれ者が突っかかってくるが、ジークは歯牙にも掛けないように無視をする。
「あんた…1人だけ雰囲気が違うけど、もしかしてこの国の騎士なのかな?」
ジークは指を刺した。
その先はそう、最後に遅れて来た者であった。
ジークは話を続ける。
「確か…どこかで見た顔のような、見てない顔のような見てない顔だけど何者?」
ジークが言っている事はややこしい事であったが、実際この男の顔を見たことがない。
それも当たり前だ。
ジークはこの街に入門してからすぐにリエルに拘束されていたのだから。
こんな男など知らない。
ただ、服装やオーラからいってとてもじゃないがこの組織の人間では無いように見える。
それこそ、この街の正規軍にいそうな騎士の服だ。
実際ジークは鎌をかけていた。
それは、この街と犯罪組織とのつながりがあるかどうかだ。先ほどおっさんの件でつながりを確認したが、あのおっさん達だけなら、それは個人の不正の範疇内。
犯罪組織とこの街が、街ぐるみで繋がっているのを確認しなければならないために、より強固な証拠が必要となるのだ。
騎士の男は神妙な顔をする。
「これこれは…失礼。
我輩は蒼翠のフェンリルと申します」
先ほどの態度とは180度転換して、わざとらしい貴族の挨拶をする。
「フ、フェンリルだと!?」
連中の間でざわめきが広がった。
どうやら自分の名前は昨日今日で広まったらしい。
外から見えないトップハットの中でジークはニヤリと一笑した。
かなり嬉しい。
相手かどうであれ自分達の名が世の中に認知されたのだから。
お次はあなたの番ですよ…とばかりに、ジークは手のひらを男に向ける。
これが本当の狙い。
騎士である者、相手が名乗れば自分も名乗るのが流儀だ。この教えに背くものは例え騎士であっても騎士では無い。
こんな汚職に手を染めている時点で騎士では無いように見えるが、自分の目からすれば相手が騎士なのは確実。あとは言質を取るだけである。
今の自己紹介は相手の身元を明かしてもらうため、わざと行ったのだ。
「……良いだろう。
私の名はブレイス・ソディアン。
この街の副戦士長だ」
倉庫内には荒くれ者達の動揺した声が響き渡る。
すみません中途半端に終わってしまいました。
次の話は出せたら今夜出しますが多分無理でしょう。