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霊廟の守護者

 デス・フォールの幹部の一人、ガリオンは以前から標的にしていた女を始末しようとした。


そしたら突然邪魔が現れた。


邪魔というのは一体の、謎のアンデッド。

女の服から小瓶転がって中身が放出されてそのアンデッドが出てきた。


「なんだこいつは…?」


ガリオンは化物を観察する。


その化物の体長は2メートルほどあるだろうか、自分と同じぐらいの背丈がある。

こんな大きなアンデッドは見たことがない。


足は無いようで地面から二尺(60cm)程宙に浮いている。


ボロボロのマントを羽織っている。

フードを被っていて、その隙間から僅かに垣間見える赤い眼光は、こちらを見定めているよう。


ガリオンは無意識に寒気を覚える。


そして何より特徴なのが奴の持っている大鎌だ。

化物の体長を優に越える刀身は、かなりの威圧感があり、まともに近づけばすぐにそれの餌食になるだろう。


そしてこれまでに数々の人間を葬ってきたのか、刃先には血が錆びついたような跡が見られる。



これは非常にまずい。


ガリオンの本能が観察眼がこう訴えている。


この化け物と戦うべきでは無いと。


しかし冷静な理性でそれを抑える。


目の前には我らの組織に敵対するレイピア使いの女がいるのだ。苦労して見つけた以上、黙ってここで帰るわけにはいかない。

 

それに自分はデス・フォールの幹部。

立ち位置においても戦闘においても、自分はリーダーの右腕的存在。


ここでそそくさと帰っては組織の笑いものになるし、野心溢れる部下たちが失望して他の派閥に寝返るかもしれない。


国の正規軍などとは違って自分達の組織は実力主義。

より強い者が、より賢い者が、より稼げる者が組織を導いていく。


だからなおさらここで退却したら組織に向ける顔がない。組織のNo.2が下手な真似をするわけにはいかないのだ。


そんなことを考えていると、突然、大鎌のアンデッドからドス黒いオーラが溢れ出してきた。


半径30メートル一帯が負の力に蝕まれていく。


これは…なんだ?


ガリオンが険しい表情をする。

そして寝転がっている女を見ると、彼女は呆然としている。


訳がわからないが、どうやら女にはその効果が適用されていないようだ。


……どういうことだ?

あの化け物が味方と判別した者には無効化されるのか?


よくは分からない。

ただ、この負の力は身体の力を奪ってきている。

早めに決着をつけた方がいいだろう。


ガリオンは即座に動き出す。

すると化け物も動き出した。


ガリオンは先ほどリエルを吹き飛ばしたように、瞬足の速さでアンデッドに向かう。

しかし化け物も滑空するように、恐るべき速さでガリオンに接近した。


そして二人は剣戟、ではないが二人の鎌と拳がぶつかり合う。


………。


それは恐るべき速さ。

二人を中心に突風が巻き起こる。



な、なんて強さだ…。


リエルは驚愕する。

これほど強い者は昨日見たジークぶりだ。

お互いに一歩も譲らないように激しいぶつかり合いをしている。


化け物が見た目とは裏腹に怪力によってガリオンを吹き飛ばす。

それをガリオンはなんとか足の裏で地面を擦るようにして威力を殺すが、必死の表情を浮かべていた。


化け物は鎌をぶん投げる。

鎌は円を描くように回転しながらガリオンへとぶつかる。


鉄の肌(アイロンスキン)!」


ガリオンはリエルの時に使った技を使用する。

その技は、自分の皮膚を鉄のごとき硬さに変化するというもの。


ガリオンの皮膚は常時鉄の硬さを誇っているが、これをかけると相乗効果によりより皮膚は強固なものになる。


たとえこの都市(・・・・)の戦士長であろうと、この皮膚の鎧は容易に突破できないだろう。


「うぉぉお!!」


回転する大鎌と皮膚がぶつかる。

鎌は特殊な力が施されているのか、ガリオンの鉄の肌にぶつかっても中々止まらない。


そしてガリオンの肌を削ぎ落とし続ける。


「うぁぁぁあ!!」


ガリオンは渾身の力で鎌を跳ね返した。

鎌は遠くの場所に吹き飛ばされると、いつのまにか闇の粒子となってアンデッドの手元に戻ってくる。


「ハァハァハァ…。

どうなったんだこの化け物は!?」


ガリオンの腕は(かんな)で木を削ったように皮膚を削られて血だらけになっていた。


これが何を意味するかというと、つまるところ自分の強靭な肌と技の合わせがけが破れたという事だ。


こんな事はあり得ない…。

俺の防御は最硬のはず、なぜ鎌をぶん投げただけで俺の防御を上回れる!?


ガリオンは混乱している。

自信に満ちていた自分のプライドに少しヒビが入った。


こんな事はあり得ない…あり得ないはずなのだ。

自分は今までにダメージをまともに食らったことがない。それがよくも分からない不気味なアンデッドに貫通された。


これは一体どういう事なのだ。


ガリオンは怒るように気持ちを奮い立たせる。


「俺の防御は最強、誰も俺を傷つけられないはずだ!!」


錯乱したように突進する。

一瞬でアンデッドに到達すると、一方的なラッシュを繰り出す。


「す、すさまじい!!」


地面に寝転がっているリエルにもそのラッシュの爆風が届いてくる。

男の力はそれほどだというのか。


状況が変わる。

ガリオンが怒涛の攻めを開始し、アンデッドが守りに徹する。凄まじい攻撃によってアンデッドは反撃できず、防戦一方の構図になってきた。


「くらえ!!俺は強い、俺の方が強い!!」


脳筋のような攻撃の連打しているが、頭の中は冷静だった。そして一つの疑問を抱える。


この攻撃は果たして効いているのか、と。


そう思ったのは、拳がアンデッドをすり抜けているから。まるで効いていないような感覚。


一部のアンデッド、レイスなどは物理攻撃無効などを持っている。

この敵ももしかして、物理攻撃無効などの特性を持っている恐れがあるのではないか。


そう思ったところでその考えを一蹴する。

アンデッドは攻撃を受けて徐々に下がっているのだ。

だったらこの攻撃は恐らく効いているはず。


いや、そう信じるしかない。


ガリオンは刹那で掴み取った優勢?に身を任せ、そのままアンデッドを倒そうと進撃する。




――しかし。


「なっ!?」


ガリオンは思わずギョッとする。

アンデッドの眼窩の赤い光が突如色を変えた。

赤色から闇のような漆黒へと変わったのだ。


「ど、どういう事だ!?」


ガリオンにはそのアンデッドの気持ちが読み取れた。

まるで目の前のアンデッドは、そんな攻撃が俺に効くとでも?というように光の色を変えた。


これは気のせいではない。

明らかに目の前のアンデッドは自分を嘲笑しているような雰囲気を醸し出している。


こ、これはまずい!?

いったん、一旦距離を取らなくては!!


急いで後ろへ跳躍するが遅かった。


はっ……?



……気のせいかもしれない。

自分の左腕が飛んだ光景を目にした。


あの化物が鎌をすり込ませて、器用に自分の左腕を刎ねたのが見えた気がする。


「ど、どういう事だ…?」


状況が全く分からなかった。


しかしそれも一瞬。

やはり左腕が消えたのは気のせいでは無かった。

とてつもない痛みが左腕の切断部分に襲ってくる。


「あ…"あぁぁあっっっ!?"」


ガリオンは痛みに耐えかねて地面にのたうち回る。


「い、いでぇっっ!!」


男の悲鳴は街の中で木霊する。


リエルは床に伏せながらも呆然と、地面をのたうち回る男の姿を見る。


あの男はリエルからしたら敵わない存在。

自分は少し前まで、あれに蹂躙されていたはずだ。


その圧倒的な存在が今度は蹂躙されている。

あの男より上位の存在が現れた事によって。


もはや理解が追いつかない。

 

巨漢の男が苦しんで転げ回る様は滑稽だった。

腕を切り落としたアンデッド張本人は、まるで大笑いしているようにガリオンを見下す。


少なくともリエルの瞳にはそのように映った。


そしてアンデッドが徐々にガリオンに近づく。

目的はこの男の首を跳ねるため。


その時。

地面をのたうち回っていたガリオンが何かを投げる。


すると半円の光が地面から発生して

ガリオンを包み姿が掻き消える。


「き、消えた?」


一瞬の出来事だった。

あの男は元からここにいなかったかのように消えたのだ。


男が投げたものに心当たりがある。

あれは恐らく転移のアイテム。

リエルでも持っていない、かなり貴重なアイテムだ。


恐らくそれを投げて奴は逃げたのだろう。


自分にはこの戦いに終始ついていけなかった。

そして彼女は、命令を終えたように固まるアンデッドを見る。


あの男はもちろん強かった。

それはもう、自分が手を出せないほどに。


ではこの化物はどれほど強いのだろう。

リエルでは勝てないあの男の存在を前に、この化物は遊んでいた。

このアンデッドが本気になれば、一体どれほどの強さを持っているのか。


そして…何より疑問なのは、これをくれたジーク。


彼は一体どれほどの強さを持っているのだ。

そして何者なのだろうか。


リエルには分からない。

彼女は少しの間そのまま呆然と固まっていた。


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