エピローグ あの星のように
これで完結です。最後にお話があります。
「一面の星と穏やかな湖の水面。
ここは本当に良い場所だ、まるで先日の暴動が嘘のよう」
「そうだね、今日は月が出てなくても明るい日。
……なんて言うんだっけ?」
「ふふっそれは星月夜じゃないのか?」
「あ〜確かそれだったね」
「あぁ」
無数に輝く青白いような星々を見上げてジークとゼラは互いの手を合わせる。
するとなんだか彼女の温かい体温が伝わってきて、涼しい夜には心地が良かった。
「ここから北にずっと行った地方で夜になるとオーロラっていう現象を見ることが出来るんだけど知ってる?」
「オーロラ……すまないよく分からないな。
一体どんな感じなんだ?」
「う〜ん。ハッキリ言って俺も見たことが無いから分からないんだけど、夜空に緑色のカーテン、ヴェールが掛かるような感じかな。とっても美しいらしいよ。
とある文献で載ってたんだ」
「おぉそうなのか…!それは是非とも見てたい」
この世界でも同様にオーロラを見ることができるらしい。ただそれにはいくつかの条件が必要でまず北極圏、この世界では何と呼ばれているのかは分からないがずっと北の地方で発生するらしい。
北の地方とは随分曖昧な表現だが、少なくとも王国は南地方なのでかなり離れているだろう。
それでもいつか見てみたいものだ。
そんなことを考えていると、彼女がこちらの目を見てくる。
「じゃあ私からも一ついいか?」
「うん」
「これは魔人界の話なんだが、魔人界のある巨大な森林地帯の真ん中にポツンと小さく開けた場所があって、そこから夜空を見ると剣のように繋がった星が見えると聞いたことがある」
「それはすごいね。メッチャ気になる」
「それでここからが本題なのだが、その星座のようなものを見た者は夜空にあった星座の剣を手にすることが出来るそうだ」
「えぇ…ほんと!?なんか嘘くさいね……」
疑って掛かるのは良く無いが、かなり出来すぎた話なので眉を自然とひそめる。
するとそれを見た彼女は笑って、
「まぁ確かに嘘くさいっちゃあ嘘くさいな。
私も誰も見たわけがないんだし、信じるか信じないかは勝手だ。でも私はジークの言ったオーロラを信じるぞ?」
「そう?じゃあ俺も信じるよ」
「ふふっそうか、それは良かった。
一説によると剣はかつて神々と争っていた魔神が敵に奪われないように隠したらしい」
「それがその開けた場所だった。ていう訳?」
「その通りだ。
実際真実かどうかは分からないがもし本当にあるんだとしたらこの手で握ってみたいものだ。
魔神が隠すほどの剣をな」
「そうだね。
それに魔人の剣だから滅茶苦茶強そうだ。
魔法使いの杖だったらもっと良かったけど…」
「ジークだったらそっちの方が良いだろうな」
目を見合った二人は笑い合う。
涼しく静かな公園にその声は高く響いた。
「こうやってジークと他愛無い話をするのはとても楽しくて、ついつい時間を忘れてしまう。
それと今日私が君をここに連れてきた理由を話そう」
「うん」
なんだか彼女の雰囲気が変わり、緊張した面持ちになった。おそらく大事な話をするのだろう。
こちらとしてもそれ相応の聞く姿勢を取るべき。
そう思ったジークはあえて相手に緊張を与えすぎないようにラフな姿勢は崩さないものの、気付かれないように少しだけ背筋を正す。
そして話の続きを静かに待った。
「全てを打ち明けるのは気持ちの整理がついたらで良いと君は言ったが、隠し事は良くないし白い私がもうすでに打ち明けているのかもしれないので、私の生い立ちを話そうと思う」
「………」
ジークは黙って頭を下げては話の続きを促す。
「私の本名はセレンディバイト・ルーナロイド=レニセウスという、魔人国大伯爵長女の出だ。
しかしそれも10歳の時まで。レニセウス家は魔王の勅令で根絶し私はとある養子で育った。
元貴族の子など虐待されて当然。
しかし驚くべき事に私はその家で酷い扱いを受けずにむしろ歓迎された。裕福なご馳走、着るもの、寝床を与えてくれて、今でも感謝している。
それでもなんだか気持ちが悪かった。ずっと監視されているようなそんな気がして…」
ゼラは星を眺めて話を続ける。
「だから私は14歳の時に家を飛び出したんだ。
幸い私は成長が早かったからその時はもう大人っぽくて国直属の兵士になることができた。
男だらけの兵士の中で女は私一人、すごく異端だったよ。ジロジロと見られたし卑しい視線で見られたりもした。それでもなぜか彼らから暴力や性的な事を強要されたりはしなかった」
なぜだか分かるか?
何も分からないというように自分は頭を横に振る。
「魔王が裏で私の身の安全を保障してくれていたんだ。不思議な話だろう?
魔王は私の家族を殺したり家そのものを潰した。
それなのに私を殺さずお金持ちの家に養子に出したり悪漢から守ってくれた。
そして私が兵士として経験を積んで魔王と直接話をできる間柄になっても彼女は妙に優しくしてくれた」
そしてある時、
「私個人に対して命令を出した。
王国や人間界にいる魔人達の仲介役兼監視役となり、王国を攻めろ。そうすれば家の名誉も回復させてやると。それを聞いた時は違和感しかなかった。
だって私が家を崩壊に追いやった原因が魔王だと知っているように、彼女もまた私に恨まれている事を知っているのだ。普通ならば殺した方が楽、何よりそれで私の家が復興したら魔王自身の立場が危うくなる可能性もあるだろう?」
それでも。
「魔王は私に対して特別扱いをしてきた。
だから私はこの話に乗ったんだ。これが魔王による策略で使い捨てされようとも危険に晒されようとも家の名が回復できるならなんでもやろう。
そう思ってな。そしてその結果が今に至るんだ。
私は今でも魔王を恨んでいる。全てはあの女が始まり。罪償いなのか分からないが、いくら私に優しくしようとも私の家族、家の名誉を汚し潰したあの女を許すことは出来ない。ただそれだけの話だ」
彼女は至って静かに話しているがそれでも心の中では許せないようで拳を固く握りしめている。
だから優しくなだめるようにそっと背中に触れた。
「なるほど」
「それでも…感謝していることもあるんだ。
もしこのような事にならなかったら私はジークに会えていなかった。だからこれは奇跡。
私とジークを繋いでくれた光だと思っている」
「そうだね……まるであの星みたいにさ」
ジークは空に向かって指を指す。
そこには一際大きい星が二つ寄り添うようにして並んでいた。あの星だって何かの偶然と時間帯が重ならなければ近いようには見えなかったはずだ。
そうなのだ、これは奇跡。
そう思うとゼラは嬉しさが込み上げてくる。
「私は決めたんだ。
もう絶対にジークから離れたりしないと…」
だから。
「私を君の隣に死ぬまで置いてくれるか?
もし君が私と同じ気持ちだったら凄く嬉しいのだがっ…」
自分の気持ちに嘘などつけない。
ゼラは顔を真っ赤にして涙を浮かべていた。
だからそれに自分も応える。
「あぁ、俺も同じ気持ちだ。
いやそれ以上。もうゼラが離れたいって言ったって離さないからね、ずっと一緒だよ」
こっちにおいでというように両手を広げてゼラを見つめる。するとゼラが飛びついてきた。
ジークはひたすらに優しく優しく抱擁していって彼女の温もりに包まれる。
そしてゼラもまたジークの温かみを感じていた。
「ジーク大好きだ」
「俺もゼラが大好きだよ」
二人の唇が触れる。
軽いキスはやがて深い深いディープキスとなって、いつまでも互いを求め合っていく。
そんな二人の姿を星々はいつまでも照らすのであった。
続編書いてます!(2022年2月15日現在)
https://ncode.syosetu.com/n8249ib/
詳しくはこの作品名に2、もしくは私の作者名をクリックすると出てきますので、ぜひとも続編の方でもよろしくお願い致します。