復興とこれから
「リザちゃん大丈夫かい?」
「ジ、ジークお兄ちゃん…」
ジークは彼女の下へ駆け寄る。
残りの雑魚は当然片付けた。
「怪我は?」
「家から、連れ去られた時に、お、お腹を蹴られました…」
それは大変だ。
彼女みたいな体型では、大の大人に蹴り飛ばされるなど、かなりのダメージがあるのではないだろうか。
これは急いで確認する必要がある。
何も下心は無い。
「じゃあ、ちょっと失礼するよ…」
彼女の着ていた上着を、腹部だけが見えるようにずらす。そして彼女の腹を見ると、そこは無残なほどに腫れていた。
酷い内出血。
おそらく、何度も強い衝撃が加えられたのだろう。
ジークにはポーションがある。
完全には治せないと思うが、打撲や骨折はポーションが有効なのは確認済み。
残った傷は家で安静にすれば、自然回復で治るし痕も付かないだろう。
女の子の身体に傷痕を残させる訳にはいかない。
「少し痛いかもしれないけど我慢してね」
ジークは彼女の腹部にポーションを浴びせる。
「うっ…!」
「大丈夫!?」
「だ、大丈夫です」
ポーションの効果が発揮されているのか、強打して青黒く変色した箇所は次第に薄くなっていった。
彼女も少し楽になったのか、ひどく苦しんでいた顔も少しだけ落ち着きを取り戻した。
「どうしようかな…」
ここからが問題だ。
彼女をどうやって家に運ぼう。
自力で歩くことは出来ないし、おんぶしようにも、お腹を痛める危険性がある。
お姫様抱っこがいいかもしれないが、俺は紳士。
少なくとも、自分では紳士だと思っている。
だから、無闇勝手に淑女の身体に触るのはあまり良くはない。
好色では裏の支配者の名が泣こう。
何かは良い手はあるものか…。
今度はカッコつけずに手の甲を顎に当てて、考えてみる。
とにかく、俺が触らなければ問題ないのである。
そうだ!!
良い方法を思いついたぞ!!
「リザちゃん、今から君をお家に運ぶよ。
ただ運ぶのは俺じゃなくて、別の者だけどね」
「えっ…?」
「いでよアンデッド」
ジークは指パッチンをしてアンデッドを召喚する。
創り出すのはデュークゾンビだ。
こいつのステータスを以前確認したら、高貴な公爵家の領主と書いてあった。
だから、たとえゾンビだとしても、そこまでおぞましい者が出てくるわけではないだろう。
召喚したことは一回も無いが。
地面から土を掘り返すように化け物が出現する。
当然現れたのはデュークゾンビ。
そのゾンビは、他のアンデッドより奇妙な衣装をしていた。
その見た目は、中世の貴族そのもの。
トップハットと言われる、貴族が被る上に高く伸びた帽子、黒スーツに赤ネクタイ、漆黒色のステッキをついている。
これが、名前にデュークといわれる所以だろう。
果たしてリザちゃんはどんな反応をするだろうか。
自分としては、まぁキモいっちゃキモいけど、かろうじて、女性を運ぶには及第点…かな?
そのぐらい。
アンデッドを見慣れたジークですら及第点。
女性が、しかも少女であるリザちゃんが、それを許せる訳もなかった。
彼女の方を見ると、彼女はひいていた。
というか、怯えていた。
あ…ダメなやつだ……。
反応を見ただけでわかる。
これは絶対にアウトだと。
せっかく召喚したのだ。
彼女に直接聞かなければ本心はわからない。
これで良いですよ。
という可能性もあるのだ(多分ない)。
「リザちゃん。
これが君を今から村の場所まで運んでくれるんだけど、どうかな…?」
その言葉に応じて、ゾンビは貴族がするようなお辞儀をした。
……なんだこいつ?
「ジ、ジークお兄ちゃんが運んでくれた方が嬉しいかな…」
「そうなんだ…。なるほどね…」
彼女は絶対に嫌という目でこちらを訴えてきた。
まだ、俺の手で運ばれた方がマシということだろう。
しかしよく考えれば、こんな年端もいかない見た目の少女をお姫様抱っこできるのだ。
ここは喜んで受けさせてもらうべきだろう。
「じゃあしっかりつかまっててね」
俺は彼女を軽々と持ち上げる。
「帰ろっか、俺たちの故郷に」
「うん!」
少女を抱っこした青年の後ろに、訳の分からない化け物が付随する。
その光景は、側から見ればもはや誘拐にしか見えなかった。
△△△△
そのあと自分達は家に帰った。
エイラは、おじさんとおばさんの介抱を一生懸命していた。
そして俺たちはあそこで起きた事を皆んなに伝えた。
みんなが驚いていたし、悲しんでいたこともあったが、あの問題は自分達だけの問題では無い。
村全体の問題なのだ。
家族を知らぬ間に失った人もいる。
この事を村中に知らせると、そこから数日間の間、村全体で大規模な葬儀や追悼式が行われた。
幸い俺たちは誰も失ってはいないが、リザちゃんはあの宗教によって祖父母も両親も喪った。
彼女の痛みは計り知れないだろう。
自分もこの村の両親を亡くしていたが、もし俺が前世の記憶がないままだったら、どうなるか分かったものでは無い。
彼女は行く当てを失った。
だから、おじさんとおばさん、エイラと俺の、全員一致の意見でこの家に住ませようという事になった。
彼女にその事を伝えたらとても喜んで、これからよろしくお願いします!!と、みんなに言っていた。
とても可愛いかった。
――――
それから3週間後。
時刻は10時。
俺の部屋に5人が集まっていた。
メンバーは俺とエイラとリザ。
そして2体のアンデッドである。
これから会議が始められようとしていた。
「では、これから第2回ブラック・ヴァルキリーによる会議を始める。
会議長は、この組織の創立者たるこの私、蒼翠のフェンリルが担当する」
俺は人ができる最高のカッコ良さの限界点に昇り詰めるような仕草と声を使って、開幕の宣言をする。
これは、なかなかに裏の支配者としてのポイントが高い演技だ。
「開幕早々だがエイラ、お前に新顔を紹介する。
リザ、自己紹介を」
「私の名前はリザ・ルーンと申します。
これからよろしくお願いします、フェンリル様、エイラさん」
リザは丁寧に頭を下げた。
「――いや…別によろしくも何も、さっき部屋に入る時リザとは一緒に入ってきたし、なんなら一緒に住んでるのよ…」
エイラは的確なツッコミを入れる。
なんでリザはそんな早く適応してるのよ…。
むしろこの会に慣れていないのはエイラの方だった。
それは言わないお約束でしょ?
俺は心の中で呟く。
闇の集会が、お遊戯会みたいな事には決してなってはいけないのである。
「それで今日の議題だが、まず初めに先日の謎の宗教との一件を話そう。あの時は諸君らのお陰で連中を殲滅することが出来た、非常によく働いてくれた、感謝する」
ジークは頭を下げないでそう言う。
そう、これは闇の支配者の感謝の仕方だ。
たとえ自分が悪かった、もしくは味方の活躍があったとしても相手に簡単に頭を下げない。
頭を下げる回数が多いほど、格式が高い者はその高貴さを失っていくのである。
特に王が頭を下げれば、他の者に軽んじられる。
なぜこんな事を言えるのかといえば、ライトノベルでそのような事を読んだからだ。
ペコペコ頭を下げるのは日本人の悪い癖だ。
……とは言いつつも、前世での石田圭は何かにつけて頭を下げていた思い出もある。
それは多分気のせいだろう…。
「それについてお前たちに褒美をやろう。
2人とも前に来い」
上座のジークから見て、前方の左右の椅子に座っていた2人はこちらへと近寄って跪いた。
「まずはエイラだ。お前にはこれを与えよう」
後ろのスケルトンが漆の板を差し出してくるので、そこから目的のものを手で持った。
「お前に似合った真紅の宝石のネックレス。
受け取るがいい」
跪いている彼女の首にかける。
赤髪の彼女には非常に似合っていた。
「あ、ありがとう。
じゃなくて…ありがとうございます」
それから彼女は、"うそ、こんなものいいの…?"
と、呟いていた。
「次にリザだ。
よく頑張った、そしてこれからもよろしく頼むぞ」
ふたたびスケルトンから品物を受け取る。
「右手を出してくれ。
…‥これで良しだ」
リザの人差し指に指輪をはめた。
左手にしなかったのは、勘違いされるであろうからだ。
「あ、ありがとうございます!
おにい、じーく…フェンリル様!!」
何度も言い間違えていたが、聞かなかった事にしよう。
裏の支配者は寛容なのだ。
彼女が、左手の薬指に指輪をはめ変えていたのも、見なかったことにしよう……。
………。
で、できるぁ!!
なんでそこに指輪嵌め直してんだよ!!
おじさんとかに見つかったらどう言い訳すんだよ!!
俺たち結婚しましたとか言うの!?
おじさんドン引きするよ!?
しかしジークは突っ込まない。
そ、そうなのだ。
う、裏の支配者は寛容であり、リアクションが薄いのが鉄則なのだ…。
「と、とにかくよく頑張った。
お前たちには非常に期待している。
今後ともよろしく頼むぞ」
なんだかんだでその後も話が続き、やっと会議が終わった。
今、この部屋にいるのは主たる自分だけだ。
「お前らも下がれ」
両手を叩く事でスケルトン2体を消滅させる。
これからどうするか…。
組織は成り立ったものの、戦力不足か。
この村を出る前に、出来るだけ準備した方がいい。
そうだ。
あの2人を訓練してみるか。
ジークはひとりでに面白い案を思い浮かべるのであった。
今日も読んでいただき、ありがとうございます。
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