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でも、あなたじゃない

作者: 小沢 純

タイトル:でも、あなたじゃない

ネーム :小沢 純


1999.10.8 1999.9.151999.9.11

1175文字 

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 最近は、短縮授業で早く帰れるの。理系だから女子は少なくて、

いつもは一人で帰るのだけれど、今日はめずらしく、進学コースが

同じ男子と話ながら駅まで帰ってきたの。


 私の家と逆方向行きの電車がホームに入ってきた時、ガクランの

ポケットに両の手を入れた松下君が急に言い出したの。


「行こうよ。動物園」


 彼は、私の答も待たずに電車に乗ちゃった。そして、

「行こう」と電車の中から私を呼ぶの。

 彼の帰り道も逆方向なのに。ちょっと迷ったけど。結局私、電車

の扉が閉まる寸前に飛び乗った。彼はそれが当然かのように、うな

ずいただけ。すました奴だなって思った。


 その動物園は、二つ目の駅で降りた小高い丘の上にあった。私も

幼い頃に来たことがあると思う。入口のキリンをかたどった門に見

覚えがあったから。門をくぐるとと下り坂になっていて、最初にペ

ンギンのプールがあった。水の中をジェット機みたいに泳ぎ回るペ

ンギン達。凄いスピードだね、と二人でしばらく見とれていたわ。


 私は、もう泳ぐには寒いだろうにと思った。でも、考えてみれば

ペンギンにとっては、これでも暑いうちかもしれないと気付いた。

だって、ペンギンって南極に住んでいるのよね。


 ペリカンが曇り空の下でうずくまるように、大きなくちばしをピッ

タリ体に押しつけてじっとこちらを見ていたの。松下君は、相変わ

らず両の手をポケットに入れたまま、適当な間合いを取って動物達

を見て廻ってる。女の子を誘っておいて手を繋ごうともしないの?

と、ちょっぴり不満になったわ。でも、いざとなったら断るくせに、

私ってへんなの。


 シロクマ君はノイローゼなのかと思うくらい同じところを行った

り来たり、同じ動作を繰り返していたの。平日の午後の動物園、私

達以外に、ほとんど人はいない。動物のほうが数が多い。もしかし

たら、私達が動物を見てるんじゃなくて、動物達に私達が観察され

てるのかもしれない。そんな考えが過って、少し不安な気持ちがし

たの。


 家に着いて受験勉強をと思ったけれど、便箋に手紙を書いた。


『 青木君へ


 今日、授業が早く終ったので動物園へ行きました。どんより曇っ

た冬の空の下で、ペンギンはジェット機のように飛び回り、ペリカ

ンは物想う詩人のように私を見つめていました。


 本当は、あなたといっしょだったら嬉しかったと思います。

あなたも時間が足りないのだろうけれど…。私は逢いたいです。


 勉強すすんでいますか? では 』


封をし、明日、青木君に渡そうと鞄に入れた。


 数学の参考書を開く。置換積分…か、身が、はいらないや。

 冬に向かう日本で、ペリカンは南の故郷を想っていたのかな。淋

しそうな瞳をしていたっけ。もしかしたら今の私も同じかもね。

 そう思ったら思い切って、声に出して言ってみる気になれた。


「私はあなたに誘って欲しいの。

 でも、誘ってくれるのは、あなたじゃない」


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