きっかけ
会場内に入った私たちに注目が集まる。
それもそのはず、私たちはいろんな意味で有名なのだ。
「またあの方をお連れなのですね」
「婚約者など、今は名ばかりだという事を皆が知ってますもの。それに、あの様子じゃあねぇ…」
周りの令嬢たちがひそひそと喋っている。
会話の内容は聞こえないが、おおよその予想はつく。どうせ、婚約者の同伴がない、という事だろう。
「今日のパーティー、無事に終わると良いのですけど…」
「エリザベス嬢、今朝からそのことを気にしていましたね。気にしなくとも、いつもと変わりませんよ。危険なことなど起こらないでしょう」
「ええ、そうなればいいわね。さ、また私たちで注目を集めましょう!」
「分かりました」
参加者がそろったのだろう。音楽が一度止まり、この国の王太子であるリオン・フリージアが出てくる。
この後の予定では、リオンが開会のあいさつをし、その後はダンスパーティーが行われる。
リオンは今年で卒業のため、いつもより盛大なパーティーになっていた。
保護者でもないのに大臣がいたり、その他お偉いさんが来ていたりするのがちらほら見えたが、そのためであろうと予想がつく。ちなみに、そのために警備もいつもより厳しめになっていた。
だからこそ、何かが起こるとは考えられなかった。
「あの子…」
私のつぶやきに目を向けたユキが「あぁ」とつぶやく。
チラリとユキを見ると、眼を鋭くしていた。
「婚約者であるエリザベス様を放っておいてあんな女をエスコートするとは、民の見本である事を忘れているのか、この国の王族は」
「ユキ、崩れてるわよ」
「あぁ、すいません。つい気持ちが昂ってしまって…」
「いいのよ、どうせ聞こえてないだろうし」
そう、エリザベスの婚約者とは、この国の第1王子のリオン・フリージアである。
リオンは、婚約者であるエリザベスのエスコートを断り、あろうことか別の女をエスコートしていたのだ。
このことに対し怒らないのは、これが初めてではなく常習だからである。はじめは怒っていたが、最近は怒りを越して呆れがある。
しかもその相手がシャロン・ユクレール公爵令嬢である。
ユクレール公爵家は、デュノア公爵家と敵対しているのである。
あのシャロンがリオンに引っ付いているのは間違いなく父親の指示であり、政治的な思惑がある事も想像に難くない。
だというのに、私を放ってあの女のそばにいる。それは、リオンがよほどのバカであるか罠にはめようとしているかのどちらかである。
「今日は、私たち卒業生のためにこれだけの学園生徒が集まってくれて感謝する。本日をもって私たちは卒業となる。在校生たちも話したりない事もあるだろう。今日は先輩後輩なく無礼講だ。パーティーを楽しんでいってくれ!」
開会のあいさつが終わり、拍手が鳴りやんだところで1曲目の音楽が流れる‥‥と思いきや、一向に鳴らない。
会場も不安に包まれている。と、リオンが話し出した。
「今日は、パーティーの趣旨とは別にとある報告がある!」
「報告?そんなの予定にあったかしら?」
「いいえ、私は聞いてませんよ」
2人で眉を寄せあっていると、とんでもないことをリオンが言った。
「私、第1王子であるリオン・フリージアは、本日をもってエリザベス・デュノア公爵令嬢と婚約破棄を宣言する!」
「‥‥え?」
「は?」
「そして、ここにいるシャロン・ユクレール公爵令嬢と婚約を結ぶことをここに宣言する!」
その言葉に、
「おめでとうございます!!」
「お2人ならお似合いですわ!」
「ええ、この国も安泰ね!」
や、
「さすが王太子、見る目があるな」
「あぁ、デュノア公爵のとこのより見目麗しく、聡明である。これ以上の嬉しい事はあるか!」
と、大盛り上がりである。
はやし立てられているリオンもまんざらではない表情、隣にいるシャロンも嬉しそうに笑っている。
「お待ちください」
そこに、凛とした声で待ったがかけられた。