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「異界の乙女など、どこにもいないではないか」


 世界を救う聖女が現れる伝承のある神殿。しかし今は誰も居ない。大臣はいらいらとした顔でこちらを振り向いた。


「いるじゃないですか、ここに」


 私はヒロインではなくモブのケット・シーだが『異界から来た乙女』のカテゴリーにはギリギリ入るだろう。


「なん……だと?」


「あなたの悪事はお見通し。先ほどの発言も全てマジックアイテムによって録音してあるし、王子の呪いは進行しない。あとはあなたをぶっ潰して、洗脳を順次解いていくだけ」


 ぱっとケット・シーの姿になると大臣は顔を歪めた。


「妖精郷が介入しているだと?」

「ごくごく個人的な理由でね」


「ふん。いかな上位存在とはいえ、戦いにおいては非力。興味本位で下界に降りた我が身の愚かさを嘆くとよい」


『四天王 焔のダルジャンナがあらわれた!』


 大臣は人間の擬態を解き、本来の魔族の姿を現した。魔力で毛がびりりと逆立つ。

 

 ホイホイ騙されてここまでやってきたハゲのくせに、真実の姿を表すと後半の敵キャラだけあって強敵感がすごい。 


 と言うか皆さん今レベルいくつ? と思っている間に、神殿の床を砕いて現れた炎の柱に吹き飛ばされ、アベラールは視界からいなくなった。


 そういえば、城内での大臣戦の後にはモブことアベラールは画面に表示されなくなってしまうので、プレイヤーの間では巻き込まれて死んだことになっているんだった。


 王子二人はお子ちゃまで戦力になるのはクラウスしかいない! のだが、彼は王子たちのために防御魔法を張るのに忙しい。


 しかし案ずることはない。脳内の『使える魔法一覧』には攻撃魔法があるのだ! ヒロインが使うゲーム中で最強の威力を誇る伝説の魔法。基本ステータスはクラウスの方が高いけれど『もうこれを連発してたらボス死ぬよね』ってレベルなのだ。


『えーと。我は妖精郷より出でし妖猫。異界の光よ、呼びかけに答え、悪しき闇を打ち払え……!』


 本当は絶対もっと長かったはずだけれど、なぜかどうしても詠唱文が思い出せない。それっぽい台詞で適当に魔力の塊を作り、ぶん投げる。


「くらえ!」

「な、なぜお前がその魔法を……!? ぐああああー!!」


 今となっては使い古されて陳腐な、いかにも悪役なセリフを残して、大臣は霧のように消え失せた。神殿が壊れたけどゲームでもそうだったから別に弁償しなくていいよね?


「や……やりましたか!?」

 

アベラール、そのフラグはやめて。てか生きてたのか。丈夫だな。


『大臣を倒した!』


 クラウスはレベルが上がった! リチャードはレベルが上がった! デュークはレベルが上がった! アベラールはレベルが上がった! 脳内でそんな音声が流れたような、流れないような。ちなみに私のレベルは上がらない。


 しかしやべえ、いきなり四天王筆頭を倒してしまったぞ。いや、リチャードのフラグを折ったからこれで二人か。上から強い方二人を倒したから、四天王が補充されたところでたかが知れている。


 もうあとは人類だけでなんとかなるよね? と、皆が喜んでいる所でボスドロップの火の魔石を拝借する。これは人間たちに渡してしまうには惜しい。


「それじゃ失礼。皆様がた、末永くお元気で」


 マジックバッグををリチャードの手からひったくり、全力で疾走する。あまりここに長居すると、なんだか面倒くさいことになりそうな予感がひしひしとする。


「待って、ミヤコ! 僕を置いていかないで! 一人にしないで!」


 後ろからリチャードが追ってきた。そういう事をされると、後ろ髪引かれると言うか、冷たくしきれないのよね……。


「今は一人じゃないでしょ。家族がいる」


「そうだけど。もし、また、力が暴走したら……?」


 大臣を倒した所で、リチャードの体を蝕んだ呪いが消えてなくなる訳ではない。彼の戦いはこれからも続く。


「苦しいとき、困った時は助けてあげる。でも、あなたは人間、私はケット・シー。一緒にいないのが普通」


「……普通じゃなくていい。今度は僕から、会いに行ってもいい?」


 魔の森、出会い頭に即死攻撃とか仕掛けてくる敵が出たり、ランダムで恐竜とか飛び出してくるからやめたほうがいいよ。と言っても聞かないんだろうなあ。


「うーん、まあ、大きくなって、それなりに強くなって、まだ幸せじゃなかったらね」

 

 さっきのでめっちゃレベルが上がったし、私の眷属となったことで魔力も増えたし、白虎の力はそのままだしで、将来的に魔王討伐のメンバーに入っても大丈夫だろう。


『リメイク版ではリチャード救済仲間入りルートをお願いします!』


 私の公式へ送ったお願い事は、次元の壁を超えて叶うはず。


「うん、わかった。ありがとう、君のことも、約束の事も、絶対に忘れない。必ず会いに行く」


「待ってるよ」


 さすがにこの体験を忘れる事はないだろうけれど。彼は王子なので、色々な責務をこなしているうちに、私の事は思い出になっていくだろう。


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