第五十八集 先生
6月26日 14:50 洛陽闘技場
根元先生…みんな…
あいつか…またあいつの仕業かぁ!!
「申喰!お前はみんなを連れて逃げろ!あとは私が!」
「そんなこと言うてる余裕ないやろ!分かるやろ!あいつの妖気のレベルはわしらとどえらい違うんや!負傷者連れて全員逃げるんや!!」
3年生の2人でさえどうにもできないレベルなのか…だったら俺らにどう逃げろってんだよ…
「茨木童子ぃ…お前が母さんと弟を!」
「クッハハ!久しぶりだな羽澤、元気なようで何よりだ!クッハハハハハ!!」
羽澤はいつもと違い、怒り狂っていた。ただ足が震えていて、何かをしようにも出来ないように見える。
「茨木…貴様…我らを騙したな!」
「まだ生きてやがったのか、しぶとい奴らだな。さすがは四天王と言ったところか。」
「答えろ茨木!貴様は何が目的だ!」
「騒ぐな豚が、いい機会だ、お前ら全員に教えてやるよ、冥土の土産ってやつだ。」
ダメだ、動けねぇ…動いたら死ぬかもしれねぇとビビって動けねぇ…
「隙ありッコ!!」
「お前か、さっきからずっと隠れてたのは。隙ありなのはてめぇだよ。」
「ガハッ……」
酉脇が茨木童子の背後から現れ、隙をついて茨木童子を突き刺そうとしたが、逆に突き刺されてしまった。
「鳥!!」
「酉脇さん!!」
酉脇…酉脇が助けてくれようとしたのに…俺は…!
「あのハゲぇ…ぶっ殺したるわ!!」
「あーはいはいうるせぇな、少しは俺の話を聞けって。もうお前ら全員這いつくばって動くな。」
「「なっ!?」」
前と同じだ、動けなくされて話を聞かされる…
「俺が今まで動いてきたわけを話してやるよ、全ては玉藻前様の為だ。」
「玉藻前やと?」
「三大妖魔の一柱じゃないですか!」
「じゃあ茨木貴様、酒呑様はどうした!」
「脳みそまで豚かてめぇは、見ての通り俺が吸収してやったよ。」
酒呑様を…吸収した…?なんでだ、茨木童子が酒呑様の妖気に耐えれるはずが…
「あれほど酒呑様に忠実だった貴様が、我らが嫉妬するほど酒呑様に信頼を置かれていた貴様が!なぜこのようなことを!」
「酒呑様酒呑様うるせぇな、酒呑童子が頼光にやられて、俺は玉藻前様に拾われた、そして俺は玉藻前様に忠誠を誓った!」
伝承通りとは少し違うが、間違ってはいない。酒呑様の1番忠実であった配下、茨木童子は頼光一行に襲撃された時、1番最初に逃亡した。だがその後に玉藻前に仕えたなんていう歴史はない、なぜだ…
「そして酒呑童子の力は童子切に封印され、三大妖魔のバランスが偏った。そこでだ、玉藻前様は童子切の力を手に入れようと考えた。ただ頼光が死んだ後、童子切がどこにいったのかは調べようがなかった。」
確かに、頼光が童子切をうちに預けたのは秘密裏に行われていた、外部に漏れるわけがない。
「だが、どこかのアホが、童子切を抜いたおかげで、すぐに童子切の居場所が分かった。でも玉藻前様はすぐには動かなかった、酒呑童子の力は強大だから、その力を制御できる人間が出てくるまで待つことにしたのだ。」
それで…
「それで、丑崎、お前が出てきたという訳だ。クハハッ!まさか中一で酒呑童子の力を制御出来るとは!」
それで俺に狙いをつけてきたということか…
「いきなり奪いに行く、という考えもあったが。1番邪魔だった当時の丑崎家当主、丑崎順国を殺した。あいつは勘がいい男だったからなぁ、お前が童子切を制御出来た日から密かにお前を守るように動いていた、強くはあったけど、最後は呆気なく死んだがな!クッハハハハハ!!」
待て…まさか…じいちゃんは…
「待て…お前今なんつった…お前が…じいちゃんを殺ったってのか!!国順を折っただけでなく、じいちゃんまでお前が!」
「ああそうさ!遺言を伝えてやろうか?魁紀…ごめんね…だとよ!クッハハハハハ!!」
「お前…お前お前お前お前お前ぇぇぇぇ!!!!」
「耳を貸すな…丑崎さん…」
根元…先生…?
「てめぇ、なんで動ける。」
「さあな、気づいたら動けるようになった。お前の妖気が俺の体に残ってたからかもしれねぇな。」
「死に損ないが、死ね。」
「いや、まだ死ねない。」
茨木童子は根元先生に向けてなにかの術を放とうとしたが、根元先生は茨木童子に剣を向けると、つむじ風が走り、術は不発に終わった。
「なにをした。」
「覚えてるか、お前が風神の力を手に入れてたのを。あれはな、お前が強くて風神の力を手に入れた訳では無い。俺の妖気がお前に通っていて、俺の妖気を通じてお前が風神の力を手に入れたのだ。何が言いたいかわかるか?」
まさか、根元先生が風神の力を…
「俺の力が実はてめぇの力だったって言いてぇのか。ほざくな!」
「いいや現実さ、信じれないってなら、今から見せてやるよ。」
根元先生は剣を地面に突き刺し、両手を合わせて構えた。
「ここにいる任田高校生1年5組の生徒!よーく聞いておけ!これが俺がお前らにする最後の授業たわ!」
「根元先生!そんなこと言わないでください!」
「五十鈴さん、クラスのみんなをお前に託すぞ。」
「根元先生!!」
根元先生の周りに風が吹く、そして風はやがて暴風となる。荒れているはずの暴風なのに、穏やかで、心が落ち着くような気分になる。
「妖術血界。」
妖術血界…?初めて聞く言葉だ。
「天嵐神風迅!」
根元先生と茨木童子の足元に結界のようなものがが現れ、その結界内だけ暴風が吹いてるのが見てわかる。
「お前!何をしやがった!」
「妖術血界、俺の血と妖気を媒介に作り上げた結界だ。ここには俺とお前しか入れない、そして出ることもできない。どっちかが死ぬまで、この結界は続くぞ。」
「クハハッ!なら簡単じゃねぇか!お前を殺してとっとと出てやるよ!ガハッ…はぁ…はぁ…なんだこれは…」
「刃となった風だ、痛てぇだろ。結界内でつけられた傷は、例え妖魔だろうと治ったりはしねぇ。無論、俺も例外ではない。」
諸刃の剣というわけか…でも、それなら茨木童子にも傷を負わせられる。
「こんなんで俺を止められると思ってんなら、頭の中は飛んだお花畑なんだろうな!俺を誰だと思っている、童子切を、そして酒呑童子の力を手に入れた!茨木童子様だぁ!!はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「無駄だ、お前の気迫がどんだけ強かろうが、この結界は敗れたりしねぇ!」
「クソがァァァァ!!」
「だが、俺もただ待ってやるほど、お人好しじゃないのでな。」
根元先生が結界内で再び構える、今度は剣を両手で握りながら。
「な、なにをする!」
「秘技・乱塵颱風!!」
結界内で風が舞い上がり、やがて何も見えなくなった。ただ斬撃のような風が細かくなにかを切り刻んでるのは見える、そして血しぶき。
少し経つと、結界が少しずつ消えていった。見える影は1つ、ただそれは、俺らがよく見る影ではなかった。
「じゃあな根元洋海、中々楽しめたぜ?クッハハハハハ!!!」
「グハッ……」
茨木童子の童子切が…根元先生を貫いた…
「「根元先生ぇ!!!!!」」
根元先生…根元先生ぇ……そんな……
「すまんな…お前ら…なぁ…俺がしつこく言ってることを覚えてるか…」
「先生!もう喋らないでください!血が…」
「五十鈴さん…お前がみんなを導いてやるんだ…お前にはそれが…出来る…」
「根元先生…」
「全力で…楽しめよ……お前ら……」
先生ぇ……
「俺は…もう楽しめたから…なっ…!」
「とっととくたばれ。」
最後の先生の表情は、笑っていた。自分の信条である全力で楽しむことを全う出来たんだろう…
だけど…
自分の中で…知らない力が湧いてくる…先生が求めたような力とはまた違うような力が…
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