第二集 入学式
4月1日 8:50 1年5組教室
「おはよう諸君、俺がこれから3年間お前らの担任になる根元洋海だ、よろしく頼む。」
さっきの人が担任だったのか。紺色の短髪で好青年みたいな見た目、武器は刀1本、スタンダードだな。服装はスーツ、動きにくそうだな…
それより3年間って、クラス替えはないのか?
「あぁそうだ、入学式や学校集会が始まる前にいろいろ話しておこう。できる限り簡潔に話すから寝たりしないようにな。」
そこからは根元先生の説明が始まった。
まず3年間通してクラスは変わらない。ちっ、3年間あのお嬢様と同じクラスとかやってらんないわ…
そんで許可なく校内での妖術や武器などの使用は禁止。これは朝にやらかしてるからまあ分かる、説明の時にめっちゃ先生に睨まれた、原因俺じゃないのに…
妖魔が校内に現れた場合、討伐可能なら妖術などの使用は許可される、不可能と判断した場合はすぐに教師に連絡する。まあこんなとこに現れる妖魔なんてそうそういないと思うけど、万が一って時は自分らでやらなきゃってことね。
最後に、学校にいる時、武器は肌身離さず常に持っておくこと。授業で使うこともあるらしい。
「とまあこんなもんだ、時間はあまりないが質問はあるか?」
静かだ、質問したいことがあったとしてもこういう場ではみんなあえてなにも聞かないもんなぁ。俺だったら解散した時にこっそり1人で聞きに行くね。
「先生、1つよろしいですか?」
「羽澤さんか、どうした?」
「そこに頭に角が生えている奴がいるのですが、あれはなんですか?」
おいおい、まさか俺のことじゃないよなと思って見てみたが、完全に俺を指さしてた。
「丑崎さんのことか、丑崎さんは妖魔の血が混ざってるが人間だ、その言い方はやめてやれ。」
なんで知ってるんだってそうか、十二家のやつが学校にいるくらいだし、教師に情報が回っていてもおかしくないか。
「わかりました、すみませんでした。」
俺に謝れ俺に。
羽澤か、黒髪ロング、清楚系に見えるけどさっきの言葉でそのイメージは一気に消え失せた。武器は持ってない、殴る蹴るタイプか陰陽の使い手ってとこか。
鬼寅程じゃないけど危ない匂いがする。ていうかもしかしたら羽澤だけじゃないかもしれない、人間が妖魔に対してよく思わないのは当たり前のことだ、俺みたいな半端なやつにも強く当たるかもしれない、これは今まで以上に気を使わないと殺されそうだ。
「もう質問がないようだったら体育館に向かうぞ、お待ちかねの入学式だ。」
9:00 体育館
教室から体育館までは意外と遠くなかった、集まってるのは1年生全員と上級生代表、あとは先生だ。1年生は1組から5組、上級生は生徒会役員達、先生はほぼ全員ってとこか。
「では、これより入学式を始めます。最初に、生徒会長の話です。辰仁さん、よろしくお願いします。」
いきなり生徒会長のお出ましか、確かここの生徒会長は辰仁家のお嬢さんだったな。
「お初にお目にかかります、新入生諸君。私が任田高校の生徒会長、辰仁鱗と申します。御入学、おめでとうございます。」
すごい凛々しい、まさに生徒会長って人だ。長いポニーテールで、辰仁家の象徴のような一部だけ金色に輝いている。
そしてなにより…巫女服!薙刀に巫女服とは!わかっていらっしゃる!
「早速だが、みなさんに1つテストを行おうと思う、覚悟を決めてもらおう。」
おっと、興奮してる場合ではなかった。なんだろうテストって、なんも聞いてないんだが。
「なんだろうテストって。」
「何も聞いてないし、特に準備しなかったよ。」
周りもざわざわしてるから、聞いてないのは俺だけって訳では無さそうだ。
「では、始め!」
生徒会長の声と同時に、周りに目に見える妖気が溢れ出した。
これは妖魔が出るな、学校に妖魔を溢れさせるなんて何考えてんだ?
「ぎゃあああああああぁぁぁ!!!」
なんだ今の悲鳴は、っておいおい、 血じゃねぇか!どんな妖魔呼び出してんだ、あれじゃ死ぬぞ!
「あっはっは!まったく、姉上は何を考えているのか全くわからん!だがこのまま見ているだけにはいくまい、参るぞ!龍轟!!!」
あれが1年生首席、辰仁豪か。一振で燃える龍が現れて、周囲を薙ぎ払った。なにあれ、めっちゃ強いじゃん。
「かぁぁぁぁっっっ!」
現れた妖魔は鴉天狗か、普通じゃ出てこないぞそんなもん!しかもどんだけ召喚してんだよ!
「流石にここで国順を抜けば周りを巻き込むな、あんま得意じゃないが、素手で相手してやるよ。」
鴉天狗相手に素手なんて無謀に等しいが、柏井師匠に鍛えられてるんでね、師匠と比べたらなんてことは無い。
「対妖魔格闘術・丑拳!!」
独自で作った技だ、牛の頭突きくらいには痛いぜ。
「かぁぁっ!がぁぁぁ…」
あーあ、素手での格闘は苦手だからあんまやりたくないんだよなぁ。
さて次だ次、出来ることをやらないと、妖魔相手に慣れてない人が本当に死んでしまう。
9:05 体育館
「なんでだ、なんでこんな妖魔が!!ああぁ、ああああああああ!!!」
「やめて!!来ないでぇぇぇ!!!」
本格的にやばいな、入学させといていきなり大虐殺か?この学校のやつは何考えてんだ!
「誰か!!誰か助けてくれぇ!!」
「いやぁぁぁ!!まだ死にたくないよぉぉ!!」
周りが焦ってる時こそ冷静になれ、何をすればいい、近くに助けが必要なやつから助けていくか。それとも一気に全滅させるか…
賭けではあるが、やるしかない。
そう思いながら、童子切を握った。
(ほう、魁紀、童子切を使おうというのか?)
童子切を握ると、御先祖様が話しかけてきた。
(ああそうだ、他の誰でもない、俺のためだ、こんなことで俺の高校生活を荒らされたくないからね。)
(カッカッカッ!!いいだろう、力を貸してやる、ただし気をつけろよ魁紀、この状況を作り出した悪意の塊を感じる。)
(そう言われると気をつけなきゃね、では、力を借りるよ、御先祖様!)
今周りにどう思われるとか、今後どう思われるとか、そんなことは今はどうでもいい。目の前に助けれる命があるのに、放置するわけないだろ。もう俺の知らないところで、自分にとって大事なやつが死ぬなんてごめんだ!
「行くぜ、御先祖様!」
童子切を抜いた、力が溢れてくる、酒呑童子(御先祖様)の力が入ってくる。角が大きくなるのを感じる、そして角が大きくなったことで、被っていたフードが勝手に外れた。
「見ろ、あいつ妖魔だぞ!!」
「でも私たちを狙ってないみたい、助けてくれるのかな?」
「見て、後ろにいるあれ、酒呑童子じゃない!?」
周りの言葉を気にする余裕はない、一気に片付ける。
「断朧!」
童子切を縦に振った、ただそれだけ。すると鴉天狗たちの上に、紫の刀身が現れる。その刀身は全ての鴉天狗を切り裂き、一匹残らず消え去った。
溢れ出した妖気も収まったみたいで、俺は童子切をおさめた。一瞬ふらっとしたがそれほど問題ではない、童子切を使った反動だ。
「いやはや、さすがだ、丑崎魁紀。童子切を上手く使えているようだな。」
「あんたの弟さんを褒めてやってくれよ、俺よりよっぽど活躍してるぞ。」
実際そうだ、よく見れば辰仁の周りの人間はみんな無事だ。それに比べて俺がやったのは、言っちゃえば妖魔の掃除だ、周りの人のことなんてあまり考えられなかった。怪我人もいるし、なんなら今すぐに助けなければ死にそうなやつもいる。
「今回のテストの結果は各教室に張り出される、入学式が終了した後各自確認してくれ。では、私からは以上だ。」
おいおいそんだけかよ、怪我人達の手当てとか状況の説明すらないのかよ。
「姉上!これは一体どういうことですか、説明を求めたい!」
辰仁弟も同じことを思っているようだな。
「同じく説明してくれ、こんなのただの大量殺戮となんも変わんねぇぞ!なにがどうしてこうなったんだ!」
俺も意見をぶつけてみた、あまり届いて無さそうではあるがこれでは納得できない。
「直にわかる。さあ、次は校長先生のお話だ、保健委員の方、怪我をした生徒の手当てを頼む、では。」
さすがに人命救助はちゃんとやるのか、そして何事も無かったかのように校長先生の話かよ、ぶっ飛んでるなぁこの学校、今後が心配だわ。
怪我人の手当てが終了すると、壇上に1人の女性が歩いてきた、あの人が校長かな。
「初めまして、新入生の皆さん、私がこの任田高校の校長、藤原蓮火です。先程のテスト、裏で見させていただきましたが、干支十二家の方々、お見事でした。」
藤原家の人間か、あんまし信用は出来なさそうだな。
そして俺と辰仁弟の話か、あと鬼寅もいたな。
「先程のテストですが、結果内容は皆さんが教室に戻った後に確認していただくとして、テストの意味を説明しましょう。」
やっとか、ただ大した意味はなさそうな感じがする。
「これは言わば実力テストです、結果によって改めてクラス分けされます。1組の妖術科を除き、2組から5組の4クラスを新たに分けます。クラスごとのカリキュラムが設けられ、それに従って勉強していただきます。」
改めてクラス分けか、この感じじゃ成績の優劣で完全にクラスが決まってしまうな、まあ大丈夫だろ、評価基準は分からないけどあれだけ妖魔を倒せば下のクラスに入ることはないだろ。
「それと、例外もありますが、3年間同じクラスで過ごしていただきます。では皆さん、良い高校生生活を送れるよう祈っております。」
校長先生の話は意外とあっさり終わった、実際実力テストであんだけ時間かかったから、早く終わってくれるのは助かる。さて、クラスがどうなったかだけ確認してさっさと帰ろう。
10:00 1年5組教室
入学式にかなり時間がかかった、主に実力テストとその後の治療とかだったけどね。今は教室に戻り、みんながみんな自分の成績がどうなったかとざわざわしていた、もちろん俺もそうだった、だが
張り出された紙に書いてあったのは、丑崎魁紀 0点