第百八十二集 親子喧嘩
4月7日 19:00 自宅
昼に卯道とご飯を食べた後、特に何も無く授業が終わり、家に帰った。
羽澤はイライラしながらご飯を作って、鬼寅と鷹取は何やら楽しそうに話をしていた。
俺は…疲れて寝てた。そして気づいたらこんな時間になった。
「体の疲れというより、精神の疲れだな、これは…」
本当に…何度お嬢様に悩まされればいいんだ俺は…
ていうか見た目がお嬢様なだけで本当にお嬢様かは知らんけど…
「魁紀、そろそろご飯食べて、もうとっくに冷めちゃってるよ。」
「あぁ…いつもありがとな…今食べに行く…」
「もう…」
ご飯は食べないといけない、何より羽澤を怒らせるのは一番いけない、というわけでさっさと食べに行こう。
丑崎はベッドから起き上がり、食卓へと向かった。
「すまん、寝てしまった。」
羽澤もまた、丑崎の目の前に座った。
「レオナにいっぱい絡まれてたもんね、魁紀はお嬢様に好かれやすいのかな。」
「嫌なこった、お嬢様は鬼寅と相馬だけでおなかいっぱいだ。」
「今私のことなんか言った?」
「何も言ってません。」
怖い、地獄耳過ぎて怖い。
「あぁ、うめぇ。なんでこんな美味いご飯作れるんだ?」
「そりゃ美味しいって言われたいから…だよ…」
なんだか羽澤の様子がいつもと違うな、落ち着きがないというかなんというか。
「ねぇ魁紀、私レオナに負けたじゃん?失望しちゃった?」
なんだ、そんな事で悩んでたのか、やはり慰めなきゃいけないのかもしれない。いや俺には無理だな。
「失望なんかしてねぇよ。銃を持つ相手なんか今までいなかったわけだし、弾6発使わせてまだ立っていられたんだから上出来でしょ。」
「でも負けたことに変わりはない…つまり、私にはまだ伸び代があるってこと、やり方考えながら試行錯誤するしかない。」
もう十分強いよ…?将来どこ目指してんだよ、守護大学で入るのか?
「ちゃんと訓練付き合ってね、これ絶対だから。」
「はいはい、わかりました…」
「はいは1回!」
「はい!」
頼むからもう寄ってくるな、目のやり場に困る…
「今見たね。」
「何をでしょうか…」
「胸…」
「見てはない…映ってきた…」
「それを見たって言うんだよ!」
綺麗な音と共に、丑崎の顔にビンタが炸裂するのだった。
不可抗力じゃんこんなん…
「ちょっと幽奈、何してるの?」
「すっごい音したよ!ゆなゆななんかやったの!?」
「然るべき処置をしただけだから、気にしないで!」
「なんで魁紀の顔に手の跡が残ってるのかしらね…」
「ゆなゆなやることえぐい…」
もう嫌だこの家…誰も助けてくれない…
4月8日 8:50 2年5組教室
「魁紀さん、何かありましたでしょうか?顔が腫れてるようですが。」
「なんでもないよ、然るべき処置を受けただけだ。」
「そ、そうなのですね…」
羽澤のやつ手加減してくれてもいいだろうに…クソ痛え…
教室のドアが開き、葉月が入ってきた。
「おはようおまんら、全員準備しろ、任務の時間じゃ。」
全員?クラス総出の任務とかどんな任務だよ。
「全員言うても全員が同じ任務じゃない、順番に言うてくぞ。第一班、千葉県千葉市内にて妖魔発生、数、実力共に不明。被害は負傷者47名とマンションが倒壊、慎重に行け。」
「はいよ!俺の筋肉で片付けて来るぜ!」
「あまり調子に乗らないでください、夏。」
マンション倒壊とか尋常じゃ無さすぎるだろ、夏たちだけで行けんのか?
「この任務には2組の辰仁と小戌丸が同行するから、気を引き締めてけ。」
豪と正がいるなら大丈夫か。
「第二班、山形県酒田市の集落に妖気の渦が発生。至急調査じゃ。」
「ちょっと待てどこ?どこ?」
「大丈夫だよ龍太郎、新幹線は確か通ってた、いや通ってたかな…通ってないかも…」
「そこは自信もって言ってよ圭…」
マジでどこだ…東北だから上の方なのはわかる、でもそれだけだ…
「第四班、群馬県草津町に出張予定の卯道陽葵さんの護衛じゃ。」
「はい、でも何故わざわざ十二家の護衛を私たちが。」
「卯道家は特殊でのう、治癒能力があっても戦闘能力はほぼ皆無じゃ。そして卯道家の治癒能力もこの国随一のものじゃ、じゃから万が一に備えて遠出する時は必ず護衛を付けとるんじゃ。」
「わかりました、頑張ろうね、にゃーちゃん。」
「にゃー!」
かわいい。
「第三班と第五班、そしてレオナは残れ。第一、第二、第四班は詳細を受け取ってすぐ出発じゃ。」
あれ、何故居残りなんだ?任務あるんだよな?
第一、第二、第四班が教室から出ると、葉月は再び話し出す。
「さて、残ったおまんらじゃが、極秘の任務じゃ。」
「極秘!?やったーー!待ってたよこういうの!」
「あんまはしゃぐな遥、おまんらの任務はだいぶ特殊じゃ。」
「どういうことですか?」
「まず任務内容じゃが、天下五剣のうちの1振、三日月を入手してもらう。」
三日月!?なんでここで三日月が出てくる、レオナが探してるはずじゃ…
「この任務に関しては、私から話そう。」
教室のドアが開き、1人の外国人の男性が入って来る。
誰だあのおっさん、どことなくレオナに似てるような…
「父様…何故ここに…」
「「父様!?」」
「どうも皆さん初めまして、私はレオナの父のレジス・ボナパルトだ。今回の任務の依頼人でもある。」
依頼人がまさかわざわざフランスから来た人とはな…それで、この人がなんで三日月を求めてる。
「今回の任務を依頼した理由だが…」
「お断りしますわ。」
「レオナ、くだらない意地を張るつもりか。」
「くだらなくありません。三日月は父様には渡しませんわ。」
お互いに三日月を手に入れたい、そしてお互いに渡したくないと来たか…2人の話を聞いておきたいな。
「お前が三日月を手に入れてどうするつもりだ、お前も王位継承権を手に入れているが、まだ今は時ではないのだ。」
王位継承権!?待て待て、お嬢様どころかお姫様じゃねぇか!
「そんな物に興味はありません。私はただ証明したいだけですわ。私に不可能はないと。」
「ははっ!ナポレオンの再来と呼ばれたことが随分と嬉しいようだな。だがどう証明するつもりだ、任務は私が依頼している、そしてお前は依頼される立場だ。この状況をどう覆す!」
なんだなんだ、ナポレオンの再来とか何の話してんだ?
「そんなこと、簡単でございますわ。」
ボナパルトは席を立ち、父を睨みつけながら話し出す。
「私から皆さんに依頼します、私が三日月を手に入れる手伝いをしてくださいませ。報酬は…私の全てですわ。」
「はははははっ!!面白い!やって見せろ!お前にどれだけ不可能が無いのか、この父に証明してみせろ!だが、私はこれで引き下がる訳ではない。勝負と行こう、お前と私、どちらが先に三日月を手に入れるか!」
「望むところでございますわ。」
「では、私は他を当るとしよう。かの任田高校の2年5組の力をこの目で確かめるチャンスだったが、これも一興。」
ボナパルトの父は教室ドアを開き、立ち止まる。
「だがレオナよ、三日月を欲するのは私たちだけでは無い。肝に銘じておくのだ。」
「言われずとも、わかっていますわ。」
「はははははっ!今日はいい日だ!!」
ボナパルトの父が教室を出て、静寂だけが残った。
おいどうすんだこの空気、親子喧嘩に巻き込まれただけじゃねぇかよこれ。
「何が何だか訳分からんのう…とりあえず、おまんらはそれでいいんか?レオナの任務を受けるっちゅうことで。」
「私は問題ない!依頼された任務は断らないのが第五班のポリシーだから!」
いつからそんなポリシーがうちの班に出来たんだよ。
「幽奈、おまんはどうじゃ。」
「私も問題ありません、借りを返さなければならいけませんので。」
羽澤はボナパルトを優しく睨みつける。
「第三班も、レオナの任務を受けます。」
「皆さん、くだらない親子喧嘩に巻き込んでしまい、申し訳ございませんわ。ですが、皆さんに損はさせません。このボナパルト家長女、レオナ・ボナパルトが保証しますわ。」
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