第百八十一集 手段を選ばない
4月7日 10:05 購買部前
「子浦じゃねぇか、盗聴とは感心しないな。」
「これはこれは失礼なことを、たまたま通りかかっただけですとも。それより、先程のお嬢さんは三日月の行方を知っているとのことでしたな?」
まあ同じ十二家だし、話しても問題ないか。
「そうだ、でもどこにあるかは教えてくれなかった。」
「なるほど、これはこれは、面倒なことになりそうですね。」
「それに関しては同意だ、ついて行くと決めたのはいいけど、面倒事がいろいろ絡みそうでな。」
「いいえそちらはどうでもいいのですが。」
どうでもいいって言うなよ…
「少し場所を変えましょう、一般の方々に聞かれるべき話ではありませんので。」
「あ、あぁ、わかった。」
周りに聞かれちゃいけない話ってなんだよ。
10:08 任田高校 屋上
うちにもこんなところあったんだな、今度ここで弁当でも食いてぇな。
「さて、早速ですが、天下五剣についてはご存知ですね?」
「あぁ、鬼丸、童子切、大典太、数珠丸、そんで三日月の5振だな。」
「その通りです。鬼丸は辰仁豪、童子切はあなた、大典太は小戌丸正、数珠丸は巳扇律。幸い今のところの4振は全て十二家が所持しています。」
幸い?やっぱ十二家以外の人間が管理するとまずいのか?
「天下五剣にはそれぞれ示す理があります。鬼丸は最強、大典太は忠誠、数珠丸は規律、童子切は例外として酒呑童子。」
「三日月は?」
「三日月は天下五剣の中でも更に例外、千変万化。持ち主の力次第で何にでもなれる1振です、正義の心の持ち主ならば正しき力、邪悪の心の持ち主なら悪しき力を発揮します。」
まさに千変万化だ、さっさと回収しなきゃいけない理由もわかるような気がしてきた。
「私は三日月が欲しいとは思いませんが、得体の知れない方に渡ってしまうくらいならこちらで早めに回収しておきたいのですよ。そして妥当な十二家の方に持って頂きたいのです。」
「例えば誰だ?」
「自分で言うのもあれですが私は無理です、そして性格的に鬼寅真由、午上蘭、申喰藤十郎、亥尾真琴の4人も無理ですね。」
まあ…言いたいことはわかる…
「残りは卯道結菜、未口遥乃、酉脇湊ですが、3人とも剣を扱わないので誰が持ってもそこまで意味がありません。」
「それじゃ既に天下五剣を持ってるやつに持たせるってのは?」
「それはいけません。十二家の力の均衡は絶対的なものです、万が一を期してこの均衡は保たなければなりません。」
「なんか、失礼だけど、いろいろ考えてんだな。」
「ヒッヒッ、よく言われますよ。ですので1家が2振を持つことはいけません。そうしますと私的には、卯道結菜に持たせるのが上策かと。」
卯道か、でもあいつ戦闘するタイプじゃなくないか…?
「先程言った通り、三日月は持ち主次第で千変万化する剣です。残った3人で今後1番有益になるのは、卯道結菜たった1人です。」
「卯道になんか思い入れでもあるのか?」
「そんなものではないですよ、我々人間にとって、妖魔のような自己回復ができないのは大きなデメリットです。そこにもし三日月を持った卯道結菜がいれば、そのデメリットは消えます。」
「その道具扱いのような言い方は気に食わんな。」
「私は勝利のためでしたら手段は選びません、今までも、これからもです。賛同を得るつもりはありませんが、邪魔もさせませんよ。ではでは、話に進展があれば教えてください、次は卯道結菜も連れてきますので。」
子浦はそう言い残して去っていった。
手段は選ばない、か…悪い方向に行かないならいいんだが…
それにしても、天下五剣にそんな裏話があったとはな。そもそも俺は例外だったから知らないのも無理か。
連れてくるつっても、卯道が乗り気じゃないならそういう訳にもいかないでしょ。だいたいこっちもレオナが許してくれるかどうかわかんねぇし。
「おい魁紀、こんな所で何しとるんじゃ。」
考え込んでいるところに、葉月がやってきた。
「は、葉月先生!?」
「もうすぐ授業じゃ、はよ戻れ。」
「は、はい!」
面倒事の所に更に面倒事が重なってしまったなぁ…めんどくせぇ…
13:00 2年5組教室
さてと、昼飯昼飯。
「魁紀さん、お昼一緒にどうですか?」
ん????
「いいけど、な、なんで?」
「こちらではお弁当を友達同士で食べると聞いたのですが、違ったのでしょうか?」
やめろ、その妙な目遣いはやめろ。そんで前のやつもやめろ、睨むな。
「じゃあ丑崎君机くっつけばいいじゃん、私もくっつけるから。」
小学校の時を思い出すな、4人くらいで机くっつけて食べてたな。
「じゃあ私もくっつける。私は幽奈、改めてよろしくね、レオナ。」
「ええ幽奈さん、こちらこそよろしくお願いしますわ。」
目線だけでバトルするな、もう因縁できちゃってるよ。
「じゃあせっかくだ、俺もくっつける!俺は菊池、菊池月臣!」
「じゃあ私も!私は西城灯凛、よろしくねレオナさん!」
羽澤の隣から菊池、さらにその隣からは西城が机をくっつけた。
なんかやけに第三班の面子多いな、あと青木と渡辺でコンプじゃん。
「こんなにくっつける必要あったか?」
「これを機にレオナの戦い方を聞いておこうと思ってね。」
次こそはと思ってるねぇこの人…
「他は。」
「「ノリ。」」
うーんこの…
「で、レオナはあの銃弾、どうやって放ってるの?」
「大したことはしておりませんわ、銃弾は発射されたあとに妖気で操作しています、弾速は発射された弾速に妖気を合わせて加速させたり減速させたりしていますわ。ですが両手で構えなければ使えないのが難点ですわ。」
ボナパルトはカバンから銃を取り出し、みんなに見せた。
近くで見るとデカいな、これの反動に体が慣れてるとなると相当鍛えたんだろうな。
「それはなんて銃なの?」
「これはデザートイーグルMark.XX、おじい様に頂いた大事なものですわ。」
おじいちゃんから頂いたものか…
「弾数は8発、毎度ちゃんとリロードしないといけませんわ。ですので8発以内で戦いが終わるようにしていますの。」
「それで私は6発でやられたってことね。」
「はい、でなければもっと強い弾を撃たなければなりませんでしたわ。」
どうしても8発以内で決着付けたいんだね。
「みなさんの戦い方も教えていただけませんか?私も知りたいですわ。」
「私は陰陽、自分で編み出した雀呪符を使うよ。」
「だからあの時麻雀牌が出てきたのですね、面白いですわ。」
「それはどうも。」
だから機嫌悪くするなって。
「俺は対妖魔槍術、一般的な槍使いだ。」
「私も陰陽、主に光系統を使うよ。」
「幽奈と灯凛と一緒で私も陰陽、水系統が得意かな。」
というより第三班菊池以外みんな陰陽だろ、前衛1人負担もりもり班。
「魁紀さんは?」
「俺は大太刀と妖術の組み合わせだ。」
「それだけですか?」
「まあ、そんだけと言われればそんだけだな。」
「そこに置いてる刀は使いませんの?」
グイグイ来るなあこいつ…
「場合によって使うってとこだな。」
「ふーん。」
「なんだよ。」
「いいえ、なんでもありませんわ。」
ボナパルトは微笑んで、ご飯を食べ続けた。
なんなんだ、鬼寅とか羽澤の時のような寒気がしない。かと言って何も無いっていう訳でもないこの、なんだ?わからん!飯が進まない!
「ご馳走様、ちょっと食堂行ってくる!」
せっかく羽澤が作ってくれた弁当を食べないわけにはいかない、だから食堂で続きを食べるしかない!
「ちょっと!魁紀!」
丑崎は教室を飛び出し、食堂へと向かった。
13:14 食堂
はぁ…やっぱお嬢様は苦手だ…
「あっ、魁紀さん。」
丑崎に声をかけたのは、1人でご飯を食べている卯道結菜だった。
「卯道か、奇遇だな。」
「息が少し上がっているようですが、どうかなさいましたか?」
「あぁ大丈夫だ、ちょっとな。」
さすがにお嬢様から逃げてきたなんて言えないや。
「どうぞ座ってください、私は1人なので大丈夫ですよ。」
それはお前が大丈夫でも俺がな…まあ向かい側に座るか…
「お弁当なのですね、少し意外です。」
「作ってくれる優しいやつがいるんだよ。」
「それは…恋人ですか…?」
「ち、違う!」
とんでもねぇこと平気で言ってくるなこいつ。
「そ、それは失礼しました…」
そういえば、卯道は三日月の話を聞いたのかな。
「なあ卯道、子浦から三日月の話は聞いたか?」
「はい…ですが私は剣の才能はないから断りました…」
まあそうだよなぁ、戦闘するような人間じゃないもん。
「でも…!みんなの役に立つなら、いいかなと思いました…なので慧さんの話に乗ることにしました。」
「それ、無理してないか?」
「いえ、これは私の意思です。いつも豪さん、真由ちゃん、蘭ちゃんに任せっきりでしたので、前線に出れなくても、何か役に立てれるようになりたいなと…」
回復してくれるだけで十分ありがたいんだけどね、俺も前に回復してもらったし。
「無理してないならよかった、子浦のやつが無理言って卯道に三日月を持たせようとしたんじゃないかと思ったよ。」
「慧さんは見かけと言っていることは確かにキツい人ですけど、優しい人なのですよ。口では十二家のためだとか、勝利のためなら手段は選ばないと言っていますが、ちゃんと認めた人に敬意を持って接しますし、困ってる人にも手を差し伸べたりするのですよ。」
意外すぎる、あんな狡猾そうな顔してるのに優しいやつだなんて。
「この1年間でかなり変わったのですよ、特に任田祭で田口さんと当たった時から。」
「表面上はあんま変わってないけど、根は少し変わってきてるってことだな。」
「そうですね。」
卯道の表情を見るに、子浦が変わってくれたのは嬉しいんだろうな。
「じゃあこっちの話に進展があったら子浦に連絡する予定になってるから、そん時はよろしくな。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。でも痛々しいことは無いようにお願いします…」
「ははっ、まあそうならないように祈ろう。」
そのまま2人は、ご飯を食べ終えるまで、世間話を続けるのであった。
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