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干支十二家妖魔日記  作者: りちこ
半妖の破戒僧編
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第百七十八集 償い

  1月27日 12:15 洛陽刑務所 面会室


  少し日が経ち、比較的に軽症だった巳扇は一足先に沖縄に帰った。残ったメンバーは吉留と共に慈心の面会に来ていた。


  「この度は、ご迷惑をお掛けして大変申し訳ございませんでした。拙僧はここで残りの人生をかけて、償っていく所存です。」


  隠殺童子の尻尾を切った時は気にしてなかったけど、角が消えてるな。後遺症が残ると思ってたけど、何も無くてよかった。


  「言うてまだ刑期は決まってないやろ。」


  「それはその通りなのですが、子供に警官を殺した罪、そして脱獄はそう生ぬるいものではございません。」


  「でもやったのは隠殺童子っしょ?なら刑くらい軽くなるっしょ。」


  「偉い方たちがどう考えるかですね、オイラたちの声を聞いてくれるならありがたかったのですが…」


  妖魔が関われば法律も変わってくるのが今の日本だけど、妖魔が人間を乗っ取ることを前提にした法律はない。そもそも妖魔が人間を乗っ取るなんて歴史を遡っても数件しかない、でも可能性があるならそういう法律もあって欲しかったなぁ…


  全員が悩む中、誰かの電話がなる。


  「すみません、電話出てきますね。」


  吉留は面会室を後にした。


  「それにしても、どうにかならないもんかなぁ。」


  「事情知っとるやつからしたらこんなんただの巻き込み事故やで。」


  「テレビやネットで大々的に報道されちゃいましたし、簡単に釈放もできないでしょう。何も知らない方々からすれば殺人犯がまた世に放たれるわけですからね。」


  「おい犬お前どっちやねん、助かって欲しいんか?欲しくないんか?」


  「オイラはただ現実を言ったまでです。」


  「こんなとこで喧嘩するなし、テンサゲじゃんか。」


  「皆さんお待たせしました!」


  吉留が面会室に戻ってきた。


  「良い知らせと悪い知らせがあります、どっちから聞きますか?」


  やけに吉留さんニコニコしてるな、これは悪い知らせはあるけどそれ以上に良い知らせがあるってことだな。


  「良い知らせや。」

  「悪い知らせでお願いします。」


  こいつらほんとにもう…


  「こういうのは先に悪い知らせ聞いとくっしょ、亜香梨ちゃん、お願い。」


  「じゃあ悪い知らせから、慈心の刑期が無期懲役となりました。」


  「不幸中の幸いってとこやな。」


  まあ死刑じゃないだけマシだろ、これで死刑になるなら決めたやつ殴りにいくぞ。


  「それで良い知らせです。無期懲役ですが、妖魔討伐の任務が出た場合、優先的に慈心を連れていくことが許可されました。」


  「ここは大阪ですが隣は京都、京都で発行される妖魔討伐任務数は日本1位。つまり制限はかかりますが、実質無期懲役なんて無いようなものってことですね!」


  任務が始まれば討伐するまでは基本刑務所の外、おまけに監督役が付いてるから何かやらかした時もすぐに報告を受けられる。よく考えたなこんなこと。


  「良いのですか…?拙僧が…裁きを受けなくても…」


  「去年の4月、任田高校の根本洋海が茨木童子に乗っ取られたこと、そして9月の藤原家当主の妖魔使役をきっかけに、法律の見直しが行われたそうです。悪い意味で人間と妖魔が関わりすぎたとのことで、事件に妖魔が関わった場合、状況に応じて可能な限り人間側の刑を軽くするという方針です。」


  政府の人間に人の心が残ってくれてて嬉しいよ、根本先生の死がここにも繋がってたんだな…


  「なのでこれがあなたにとっての裁きです、よろしいですか?」


  「はい…はい……!」


  慈心はただ頭を下げ、泣いていた。


  「では早速ですが、来週討伐任務に行きますので、よろしくお願いしますね。」


  何がなんでも早速すぎるだろ。


  「え…いえ、お供させていただきます。」


  ほら困ってるじゃん。


  「実はですね、皆さんのおかげで私の評判が上がったみたいなんですよ!監督役の予定がどんどん入るようになりましてね!」


  「おいおい鼻伸びすぎて天狗になってもうてるで。」


  「ですが調子に乗ってるつもりはありません、右手も指2本なくなったわけですし、まさに猫の手、いえ、指も借りたいところです。」


  「猫!」


  「正黙れ。」


  「ついに猫って文字に反応するようになっのか…」


  次ににゃーちゃんに会った時やばそうだな…


  「そこで慈心、あなたには私の右手になって頂きます。もちろん他の監督役の依頼が来たら行って頂いて構いません。ですが私が依頼した時は、誰よりも優先してください。正直に言います、これは私のわがままです。私の初めての監督役で捕まえた人ですのでもちろん思い入れもあります、せっかく連れ出していいなんて良い条件を頂いてますので、貪欲に使わさせて頂きます。私と一緒に日本を守りましょう!」


  吉留はテーブルを両手で叩きながらそう語った。


  こりゃあ、将来とんでもない監督役になりそうだなぁ。


  「返事は、どうですか?」


  「断る理由なんてありません、必要としてくれるならば、それに応えるのが拙僧の役目。」


  慈心は椅子を後ろに下げ、地面に膝をついた。


  「この慈心、全力であなた様に仕えさせて頂きます。どうぞ、よろしくお願いします。」


  そのまま、手と頭も地につけた。


  「はい!よろしくお願いします!」


  吉留もまた、慈心に対し、深く一礼をした。


  「丑崎さんたちもですからね、何かあったら呼びますから!」


  「近くにいたらいつでも来ますよ。」


  近くにいても行きたくない、めんどくさい。


  「猿ならすぐに近くですし、いつでも来れますよね?」


  「おい犬、わしを暇人かなんかと思っとるんやないやろな?」


  「あ!亜香梨ちゃんあとで連絡先ちょうだい!ご飯とかも行きたいし!」


  「そろそろ面会時間終了ですので、退室の準備をお願いします。」


  もうそんな時間か、思ったより短かったな。


  「皆様、お達者で。またどこかで会えたら、次は肩を並べて戦いましょう。」


  「もう妖魔なんか食うんじゃないぞ。」


  「次を楽しみにしたるわ。」


  「お元気で!」


  「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)!」


  それ使い所間違ってるだろ。


  吉留以外のメンバーは最後に一言ずつ言いながら退室していった。


  「慈心、これからは頼みますね。」


  「はい、ではまた。」


  吉留も他のメンバーに続き、退室した。


  「命を懸けて償いましょう、未来ある子供たちのために。」


  その後、若き新人監督役と元脱獄犯という世にも奇妙なタッグは、近畿を拠点にして任務にあたるようになる。


  冴え渡る指示と、圧倒的な妖魔殲滅力を持って、その名を日本中に轟かせることになるが、それはまだ先の話。


  14:00 新大阪駅


  全ての予定が終わり、丑崎、午上、小戌丸が帰路に着くところ。


  「改めまして、この度は本当にありがとうございました!どうか気をつけてお帰りください。」


  「これわしまで着いてくる必要あったんか?」


  「見送り1つすらできないんですか、猿?」


  「丑崎はんと馬はともかく犬の見送りなんざ真っ平御免や。」


  「あんたらお別れくらいできないの?藤十郎も正もいい加減仲良くやればいいのに。」


  「嫌やな。」

  「嫌です。」


  仲良いな。


  「ほなもええやろ、わしもう帰るわ。」


  「ちょ、申喰さん!」


  「期末試験あんねん、赤点取ったら鳥にキレられてまうから勉強せなあかんねん。」


  酉脇も大変だな…


  「じゃあ仕方ないですね…では3人とも、お気をつけて!」


  「吉留さんも、頑張って下さい!」


  「猿のことこき使って大丈夫ですから!」


  「ご飯行こうね!絶対だよ!」


  これにて一件落着だな、帰ったら期末試験の勉強もしなきゃ…


  「あ、そうだ、丑崎さん!ちょっと戻ってきてい!」


  落着させてくれ…なんで俺だけ…


  「何ですか?」


  「全身マントを羽織った方をご存知ないですか?」


  「それなんの特徴にもならないのですが…」


  「あっ、それもそうでした…強さが異常で、分身体を一撃で倒していました。」


  分身体を一撃?なんだよその化け物は。


  「丑崎さんの知り合いかって聞かれまして、はいって答えたら、ちゃんと生きてるのか、ならいい。って言ってました。」


  俺の生存確認…味方なのか敵なのか…


  「あとはそうですね…あっ、笑い方が特徴的でした。」

 

  「どんな笑い方してました?」


  「クハハッ!って感じでした。」


  その笑い方…やつしかいねぇ、茨木童子だ…!


  「でもそいつ、吉留さんを助けてくれたんですよね?」


  「はい、分身体を倒していただいて、傷がこれ以上悪化しないように止血もしてくれました。」


  そうだとしたら、本来の茨木童子なのかもしれない。でも確信は持てない…そもそもなんで(よみがえ)った、なんでここにいたんだ…


  「とりあえず伝えておかなきゃいけない事でした、呼び止めてすみません。」


  「いえいえ、ありがとうございます、とても重要なことでした。ではまた。」


  「はい!」


  茨木童子…なんで…


  茨木童子が蘇ったという事実を知った丑崎、茨木童子が何を企んでいるのかは分からないが、果たしてそのことがどう今後を影響するのか。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、


評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。


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