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干支十二家妖魔日記  作者: りちこ
半妖の破戒僧編
187/193

第百七十六集 隠殺童子 捌

  1月22日 9:05 稲荷山 一ノ峰


  なんだ、急に自分の頭を掴んだぞ。


  「お前、お前ぇ!なんでまだいるんだ!」


  「拙僧の精神力無くば、お主が法術を使うことなど叶うはずもない…すなわち、法術を使うのであれば、拙僧の精神力を呼び起こさなければならぬ…なれば、拙僧の意思が戻るのも必然…!」


  慈心の意思が帰ってきたのか!


  「(わっぱ)…いいえ、丑崎さん。拙僧がまだこやつを抑えられるうちに…早く!」


  「わ、わかった…!」


  「おい丑崎!お前にできるのか?このままトドメを刺せば、この坊主も死ぬんだぞ?」


  「くっ…」


  丑崎は隠殺童子の言葉により、足が止まった。


  「こやつの言葉を聞いてはなりません!拙僧はもはや生きてはならぬ身、このままこやつごと一思いに!」


  「いいか、お前は今まで当然のように妖魔を殺してきたが、人間に手をかけたことはねぇよなぁ?他の4人が相手したのは分身体だから特に気にする事はなかっただろうがお前は違う!中身は俺でも身体は坊主だ!現に坊主の意思も帰ってきた、つまりお前がここで坊主を殺せば、お前は人殺しになるんだ!」


  「人…殺し…」


  考えたこともなかった…妖魔は害になるのであれば倒すのが当たり前だけど。人間は違う…人間を裁くのは法であって俺ではない…これだけは越えてはいけない一線だ…俺は人を…慈心を殺せねぇ…


  「丑崎さん…」


  「ははー!まだまだ精神があまちゃんだな!!すっこんでな坊主!」


  隠殺童子は自ら左腕を引きちぎった。


  「殺意のねぇやつは、殺しの場から消えろ!魔妖術・殺戮(さつりく)(やいば)!」


  新たに真っ黒な左腕を生やし、赤い刃が全身から浮かび上がる。


  「今度こそさよならだ!殺されろぉ!!魔妖術・鏖殺刃(おうさつじん)!!」


  隠殺童子が両腕を振ると、無数の回転する赤い刃が放たれた。


  赤い刃は気づけば丑崎を完全に囲み、逃げ場が完全に無くなっていた。


  「ははー!これで残りはガキ4人!分身体に手こずって弱ってるだろうから楽勝だぜ!」


  「慈心は殺せない。だからと言って、てめぇを倒さないという話にはならない!丑火獄砕(ぎゅうかごくさい)!」


  丑崎は一回転して周囲を薙ぎ払うと、広範囲の爆発が起きた。


  「なんで、なんでだなんでだ!!なんで潔く殺されねぇ!殺意がねぇやつは、殺意あるやつに潔く殺されるべき存在なんだ!!」


  「そんなやつは存在しねぇ!殺されていいやつなんて存在しねぇんだよ、てめぇの価値観を押し付けんじゃねぇ!」


  「お前こそ、お前こそそうだ!そんな甘ったれた価値観を俺に押し付けるな!殺し合いにおいて、結果は殺すか殺されるだけだ、それ以外の何が存在する!殺さなきゃ終わらねぇ、殺されなきゃ終わらねぇんだよ!だから!俺はお前らを(みなごろし)にする、1人残らずな!」


  「やってみろ、俺を殺せるもんならな!」


  丑崎は再び童子切を抜き、酒呑童子と丑気のオーラを同時に纏った。


  「そうだ、そうだ!お前の殺意を、俺に見せてみろ!!」


  「勝手に言ってろ!!何を言われようとも、俺は人を殺さねぇ!!」


  「はあああああああああ!!!」


  「うおおおおおおおおお!!!」


  無数の斬撃、そして打撃、両者一歩も引くことなく時間が過ぎていく。


  そして、その瞬間は唐突に訪れる。


  「魔妖術・隠鎖殺(いんささつ)!」


  ここで消えんのかよ…!


  丑崎は攻撃の勢いでバランスを崩した。


  「殺意がねぇやつが、相手の殺意に気づけるわけねぇよなぁ!」


 「殺意に気づく…?」


  考えたこと無かったけど、殺意か…俺に向けてくる強い意思ってことだよな…それをどう感じるんだ…


  「魔妖術・鏖絶滅轟殺刃(おうぜつめつごうさつじん)!!」


  それは斬撃というより、衝撃波だった。血界を破壊するかの如く破壊的な衝撃波が、丑崎を襲う。


  目を閉じて、視覚以外の感覚を研ぎ澄ませ、俺にも分かるはずだ、あいつの殺意が。


  聞こえる、空気が振動する音が。


  感じる、些細な妖気の動きが。


  「そこかぁ!酒呑妖術(しゅてんようじゅつ)酔狂羅生門(すいきょうらしょうもん)!」


  丑崎は攻撃が来る方に向き直し、童子切と刻巡でそれを相殺して見せた。


  「なんで、なんでわかった!!」


  「さっき教えてくれただろ、てめぇの殺意に気づいたんだよ!」


  地面を蹴り上げ、全速力で隠殺童子に向かった。


  「酒呑妖術・鬼哭修羅(きこくしゅら)!」


  童子切と刻巡を後ろに構えて振り上げると、蒼い炎の斬撃が放たれる。


  「クソがぁぁぁぁぁぁ!!!」


  斬撃は完璧に隠殺童子に当たり、隠殺童子は地に落ち、血界が消え始めた。


  「はっ…ふざけた妖魔だ…」


  酒呑童子と丑気のオーラが消え、丑崎もまた地に落ちた。


  「ふざけた妖魔だと…?ふざけてんのはてめぇだ…殺意を感じねぇんだよ…!こんなので俺が殺されるわけねぇだろ…!」


  まだ喋る元気があんのかよ…


  「いいえ…これで良いのです…」


  「クソ坊主…!てめぇまだ…!」


  「今度こそは…今です丑崎さん…尻尾が現れました、切断するなら今しかありません…!」


  「っざけんな…!俺はまだ…殺されてねぇ…!」


  立ち上がらねぇと…何度も倒れたままじゃいられるか…今度こそは…!


  刻巡を使って、丑崎はなんとか立ち上がった。


  「隠殺童子、お前の話すことは何一つ納得できないけど、殺意だけは、よく理解した。」


  「なっ…ははー!殺意がねぇやつが殺意をよく理解しただ?ふざけんのも大概にしろよ丑崎魁紀!いいか…お前がこっちに来るまで、毎分毎秒お前を殺すことだけを考えて過ごしてやる、せいぜい惨めな殺され方をしねぇ事だなぁ!」


  「お前がそっちで長くいられたらな。」


  丑崎は刻巡で尻尾を突き刺した。尻尾は(ちり)となって消え、隠殺童子の意思も慈心から消えた。


  「これで終わりだ…はぁ痛てぇし疲れた…」


  丑崎は刻巡を手放し、仰向けになって倒れた。

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