第百七十四集 隠殺童子 陸
1月22日 8:47 稲荷山 四ツ辻上空
巳扇が攻めの構えを取ったのと同時に、神楽によって周りに漂っていた妖気が消えた。
「わざわざ自分の優位性を捨てたか!」
「蛇の舞は同じ時に1つしか使えません。そして私は優れた位に立ったなんて思ってもいません、申喰さんほど自らを信じてはいませんので。」
「そうか、ならとっとと殺されな!魔妖術・滅殺刃!」
「蛇の舞・鬼鈴。」
巳扇が舞うと鈴の音が鳴り、分身体の斬撃はかき消された。
「なんだ、なんで斬撃が消えた!」
「私には見えませんが、斬られるとわかってしまえば対の処は簡と単。私の妖の気より下のものであれば、私の鈴の音にかき消せないものはありません。」
「それなら、妖気の出力を上げるだけだ!魔妖術・滅殺刃!」
先程よりも強力な一撃が放たれる。
「蛇の舞・幻火。」
斬撃は巳扇に当たったが、その巳扇は火となって消えた。
「なんだそりゃ!!」
「幻です。そして、今のでどの位に置かれているかがわかりました。」
「てめぇなんで俺の後ろに!?」
「自ら前にいるとおっしゃって頂けるとは、感じ謝らせて頂きます。蛇の技・纏喉。」
巳扇は予測で分身体の喉を突き刺した。
「い…!息…が…!」
分身体は姿を現し、もがいていた。
「これで呼んだり吸うことはできなくなりました。ですが万が一のこともありますので。」
そう言って巳扇は左手を胸の前に構えた。
「巳神の蛇薩よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の恐怖。」
巳扇が蛇のオーラを纏う。
「律せよ、巳気!」
巳気により、巳扇の蛇眼は更に鋭くなり、身の回りに妖気が漂い始めた。
「あなたと私だけでよかったです、でなければ巳気は使えませんでした。」
「て……めぇ……」
「苦しいですよね、息ができないと想い像るだけで、私も恐れ怖がってしまいます。ですので、蛇の技・幽纏呪。」
巳扇が分身体に突き刺した刀を回すと、蛇の尻尾のオーラが分身体の首を掴んだ。
「次は全ての、感じ覚えられることを奪います。さようなら。」
分身体は全ての感覚を失い、漂う妖気によって石化しながら、塵となって消えた。同時に、血界も徐々に消えていった。
巳扇は静かに刀を収め、少し乱れていた髪を整えた。
「お疲れ様、数珠丸。おっと…妖の気を使いすぎましたね…目が…眩んで…」
長い空中戦を経て、勝利した巳扇だったが。浮遊に巳気、妖気の使いすぎにより、そのまま四ツ辻に落ちたのであった。
8:40 稲荷山 一ノ峰
一ノ峰では、丑崎と隠殺童子本体が戦っていたが、隠殺童子は飛ばした丑崎を探していた。
「おいおいどこだ?あんなんで簡単に殺されるこたぁねぇだろ?早く出て来いよ、早く殺させてくれよ!」
くそが、簡単に殺されなくても痛いもんは痛いんだよ。
さてどうしたもんか、今は森が隠してくれてるけど、気づかれるのも時間の問題だ。
まず妖気が見えなくなった、これは大問題だ。相手が見えなきゃ戦いようがない、だが見えないなら見えないなりの戦い方はある。例えば音…
「そこにいたか!!」
「来んの早いんだよめんどくせぇ!!」
「魔妖術・滅殺刃!」
さっきの背中の感覚からして、大きい斬撃のはずだ、これは大きく横に回避!
丑崎が回避すると、元いた場所の木々は尽く斬られていた。
「避けるんじゃねぇよ、避けたら殺せねぇだろうが!」
なんも見えねぇけど、声を聞いて避けることならできそうだ。
「手間掛けさせんじゃねぇよ。」
そう言って、隠殺童子は姿を現した。
「もうどこにも逃げられねぇようにしてやるよ、妖術血界・隠殺深域。」
「血界持ちかよ、めんどくせぇな。」
暗黒の血界が、丑崎と隠殺童子を包み込んだ。
「この血界の中なら、お前は俺に勝てねぇ!じじいの力諸共殺させてもらうぜ!!ははー!!魔妖術・隠鎖殺!」
また消えやがった、今度はどこから来る。
「魔妖術・滅殺刃!」
声がした、でもどこから…って考えてる暇がねぇ、見えないんだったら無理やり相殺するしかねぇ!
「丑火鬼炎!」
丑崎は身の回りに分厚い炎の壁を張った。
これならどこから来るかわかる!
その瞬間、滅殺刃は左側の壁に当たる。
「そこか!!丑火凄斬!」
「ははー!ずっと同じところにいるわけねぇだろうが!魔妖術・轟殺刃!」
「そんなことだと思ったよ、どうせここだろ!」
丑崎は後ろに振り向き、すぐさま構えた。
「てめぇ!!」
「丑火赫衝!!」
大太刀刻巡による炎の突きが、隠殺童子の胸を貫く。