第百七十三集 隠殺童子 伍
1月22日 8:55 稲荷山 三ツ辻
「猿、適当に突っ込んで来てください。」
「ほなお言葉に甘えて。」
申喰は小戌丸の言う通りに、何も無いところに突っ込み始めた。
「なんだなんだ?猿みたいな見た目になって頭おかしくなったか?」
「さっきみてぇに邪魔も入らねぇ、とっとと殺されろ!魔妖術・絶殺刃!」
「猿!右後ろです!」
「そこか!ほんでその妖術、タネはこれやろ!」
そう言って申喰は右後ろに振り向き、自分を守るように双刀を左上に構えた。
すると双刀に何かが弾かれた音を発し、絶殺刃は消えた。
「危ないところやったで、申気の状態でやっと反応できるってとこやな。」
「何故だ!何故防げるのだ!」
申喰家の申気は、身体能力強化はもちろん、使用者の反射速度を上昇させる。それによりどんな行動に対しても、見て、感じてから直ぐに反応することができる。
「自分のその妖術、飛ぶ斬撃って言うより、遠くで斬って近くで斬撃が発生するパターンやろ。せやったら気づいたタイミングで構えれりゃ防げる、簡単な話や。」
「それを言うならオイラの指示に感謝して欲しいんですけどね。」
小戌丸家の戌気は、五感の強化。生まれつきの鼻の良さだけでなく、視覚や聴覚なども強化され、それだけで妖気の流れを感知することができる。
「うっさいわ犬、わしの反応のおかげや。」
「ま、まぐれだ、まぐれに決まってる!」
「ほなもういっぺんやってみ、結果は同じや。」
「殺してやる、殺してやるぞ!」
「「魔妖術・絶殺刃!!」」
今度は2体同時に絶殺刃を繰り出す。
「猿!今度は!」
「犬、なんも言わんでええ、こういうやつらのやりたいことは大抵こうや。」
申喰は両手を横に広げ、斬撃を弾いた。
「単細胞すぎるんや、優位に立っとるやつらは大抵歯茎出して攻撃が大雑把になる。そないな攻撃がわしに通じるわけないやろが。」
「バカな!俺たちの血界内だぞ!」
「クソがァ!何故大人しく殺されねぇんだ!」
分身体は怒りのあまり、姿を現した。
「なんや、自ら出てくるとは有難いのう。申喰二刀流・猿捕茨!」
申喰は片方の分身体に向かっていった。
「そんな攻撃!」
だが申喰の攻撃は片腕で防がれた。
「それでええ、次はお前や!申喰二刀流・猿捕茨!」
「お前ぇぇ!!!」
「なめてんのかてめぇ!!」
「おっと、オイラを忘れられては困りますね。」
先に攻撃を受けた分身体がすぐさま反撃に出るが、小戌丸が片手で受け止めた。
「邪魔だぁぁ!!」
「さすがに左手だけじゃ力不足ですか…ですが!哮天絶吠!!」
小戌丸は剣を地面に突き刺し、分身体を吹き飛ばす程の衝撃波を放った。
「片手でようやるやんけ犬、ちょうど効き目が出るところや。」
「何故だ…!体が動かねぇ…!」
「何故そうなったんかは、死んで考えとくんやな!申喰二刀流・双猿轟牙覇!」
申喰は空中に飛び上がり、一回転しながら双刀で薙ぎ払った。
「くそがっ…」
「覚えておけよ…お前ら…」
分身体たちはそう言い残して、塵となって消えた。
「雑魚みたいなセリフやなぁ、歯茎出した自分らを呪え。」
「よかったです…猿…」
小戌丸はなんとか立っていたが、出血多量のため、その場で倒れた。
「せやけどようやったで犬、っておい犬!!この出血量…無茶しやがって、また貸し1つやな。」
申喰はそのまま小戌丸を背負って、稲荷神社前へと向かった。
8:45 稲荷山 四ツ辻上空
四ツ辻上空では、血界内で巳扇と分身体が空中戦を繰り広げていた。
「ちっ、相性が悪ぃな女!」
「それはこちらの台の詞です、近くに来て頂けないので決め手に困っております。」
分身体の姿と攻撃は見えないが、巳扇の神楽による石化が当たれば勝機は見えてくる。だが結局姿が見えないから、無闇に動くことも出来ない。
それを分身体はわかっている上で斬撃を飛ばすが、斬撃すらも石化してしまうため、巳扇に攻撃を当てることが出来ない。
「はぁ…あまり自ら攻めるのは好みではありませんが、行きますよ、数珠丸。」
防戦一方の巳扇、攻めの構えに出る。