第百七十二集 隠殺童子 肆
1月22日 9:00 バス停 稲荷神社前
吉留が荷物を漁ると、無線から午上の声が聞こえてきた。
「午上さん!こちら吉留です!そちらは大丈夫ですか?」
「やっと出た…って!それはこっちのセリフだよ!ずっと呼びかけてんのに返事なしとかありえないんですけど。」
「それはすみません…こちらに分身体がやってきたもので…」
「えっ!?激ヤバじゃん!大丈夫なの?」
「はい、先程知らない方に助けて頂きました。あれ…?さっきはまだそこにいたのに…」
吉留が振り返ると、そこにはもう誰もいなかった。
「誰かいたの?」
「はい、ですがもういませんね…一体誰だったんだろ…」
「大丈夫ならおけ、今すぐそっちに行くから待ってて!!」
「いえ、私は大丈夫ですので、丑崎さんたちの援護を。」
「声からして亜香梨ちゃん大丈夫じゃないんでしょ?大人しくそこで待ってて、今どこら辺?」
「今バス停の稲荷神社前の近くにいます。コンビニがありますので、それを目印にしてください。」
吉留はそう言って、無線を切った。
とはいえ、吉留は右手の小指と薬指を失っている。マントの者の妖気で止血はされているが、痛みがないわけではない。
「痛い…指が痛い…なんとかしないと…」
吉留は自分の荷物から救急箱を取り出し、簡単な応急処置を始めた。
「機械をいじるのはいいけど、こういうのは苦手だよ…」
泣きながら手に包帯を巻くが、とても綺麗に巻けてるとは言えない。
「うぅぅ…痛い…」
「亜香梨ちゃんみっけ!大丈夫?って指2本ないじゃん!亜香梨ちゃんにこんな酷いことを…あいつー!!!」
「はっや!?いえさすがに速すぎませんか!?」
「そりゃすぐ駆けつけるに決まってんじゃん、こんだけ一緒にいたらもうダチなのも同然っしょ。ダチの窮地に駆けつけねぇやつなんざいねぇよ!」
午上もボロボロながらドヤ顔をしていた。
「それで本当に大丈夫?卯道さんちならすぐ連絡できっから。」
「大丈夫です…まだ他の皆さんの戦いが終わってないのに、私だけいなくなる訳にはいきません。」
「そっか、それならあたしも一緒にいる。2人なら問題ないっしょ。」
「ありがとうございます、ですが無茶だけはしないでください。」
「当然、任せな。」
そして、吉留はドローンでの監視を再開し、午上は周辺の警戒を始めた。
8:45 稲荷山 三ツ辻
三ツ辻では、申喰と小戌丸両名が血界に囚われ、苦戦を強いられていた。
「「魔妖術・隠鎖殺!」」
「くっ…!」
「なんでや、なんで見えへんねん!」
小戌丸と申喰は、見えていたはずの分身体が見えなくなっていた。
「ははー!そりゃそうだ、この血界は俺たちが殺しやすいようにできたもんだ!俺たちの存在も、攻撃もお前らには見えねぇんだよ!」
「ははー!見えない俺たちの攻撃に怯えながら、良い悲鳴上げて殺されろ!」
「そういうことでしたら、もうモノクルは意味が無いですね。」
「吉留はんがせっかく作ってくれはったのに、厄介な奴らや。」
小戌丸、申喰はモノクルを外し、ポケットにしまった。
「とうとう諦めたか?」
「じゃあとっとと殺されな!魔妖術・絶殺刃!」
「これは…!猿!避けてください!」
小戌丸は申喰を突き飛ばし、見えない斬撃を代わりに受けた。
「がはっ…!」
「おい犬!!」
小戌丸の右腕が斬撃に当たってしまい、まともに動かせなくなった。
「オイラは問題ありません…不本意ですがなんとなく攻撃が来る匂いがして体が勝手に動いただけです。」
「そうかい、不本意やが助かったわ。」
「ははー!惜しいな、もう少しでそっちの猿顔を殺せたのによ。」
「無駄な真似はもうやめるんだな、この血界内じゃお前らは何も出来ねぇ!」
小戌丸は右腕の状態を見て、考え始めた。
「猿、オイラの右腕はもう使えません。左腕でも攻撃はできますが、猿頼みになってしまいます。もしまたあいつらの攻撃に匂いがした時、攻撃の匂いがした方向をオイラが判断しますので、それに従って避けてください。」
「はっ、気に食わんがそうした方が勝てそうやな。ちゃんとしたツーマンセルは初めてやったな?」
「えぇ、2度目は遠慮したいものです。」
「そりゃこっちのセリフや、行くで犬。」
申喰は両手を、小戌丸は左手を胸の前で構えた。
「申神の大日猴よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の誓い!」
「戌神の無寿戌よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の勇み!」
申喰は猿、小戌丸は犬のオーラを纏い始める。
「遊べ!申気!」
「正せ!戌気!」
犬猿の仲、ここにて共に本気の姿になる。
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!