第百七十一集 隠殺童子 参
1月22日 8:32 バス停 稲荷神社前
午上と分身体の決着が着く少し前、吉留は稲荷大社から少し離れたところでサポートをしていた。
「丑崎さん!こちら吉留、他の皆さんとの通信が繋がりません!応答願います!」
「吉留さん、みんなは多分血界に入ってます。みんなを信じましょう、きっと大丈夫です。」
「…わかりました、丑崎さんも気をつけてください。」
吉留はみんなの心配をしながら、自分に何ができないかと考えていた。
「皆さんが血界に閉じ込められたのでしたらもう私に何も…いいえまだ何かあるはず!私の周囲を観察するのに使ってるドローンを皆さんに回して、妖気だけじゃなくその場の状況も確認できるように。そうすれば敵の位置をいち早く知らせることができる!でもドローンで血界の中に入れるのかな…悩んでても仕方ない!とにかくやる!」
吉留は試しに1つのドローンを午上のところの血界に飛ばしてみた。
「これはダメそう…ドローンが壊れる…なんなのこの血界!硬すぎるでしょ!そしたら他に方法は…」
「こんな所に隠れて何してんだ女ぁ?」
いろいろやっているうちに、2体の分身体が吉留の元にたどり着いてしまった。
「あ、あなたたちは!」
「おっと、静かに、静かにだ。騒いだら人が寄って来るだろ?そしたらそいつらも殺す羽目になる、そんなことは嫌だろ?」
「それは…確かに…」
「そうだ、それでいい。さあ、どう殺そうか!まだ若いからいい悲鳴を上げてくれるだろうな!」
「俺はじっくり殺してぇ!ちょっとずつ苦しんでゆっくり殺される顔が見てみてぇ!!」
2体の分身体は吉留をどう殺そうかと楽しそうに話し合いをしていた。
それに対して、吉留はただ震えることしかできなかった。
「それじゃあじっくり殺そう!まずは切り落とされても痛くねぇところからちょっとずつ切り落として行こうか!」
すると片方の分身体が吉留の両腕を掴み、持ち上げた。
「最初はそうだなぁ、指、指がなくても生きていけるもんなぁ!」
「指だけはやめて!他のとこでもいい!だから指だけは!」
「ほう?指は切り落とされたくねぇようだが?どうするよ?」
「そう懇願されちまったら、切り落とすしかねぇよなぁ!」
吉留の願いが通じるわけもなく、片方の分身体が吉留の手を無理やり開かせた。
「せっかく10本もあるんだ、1本ずつ行こう!」
「手が終わったら次は足だ!楽しみだ、楽しみだなぁ!」
「やめて!」
「まずは1本!!」
分身体が指を弾くと、吉留の右小指が切断された。
「あああああああああああ!!!」
「いいね、いいねぇ!その調子だ!!」
「2本目行くぞ?ははー!!」
もう一度指を弾くと、今度は右薬指が切断された。
「いやあああああああああああああ!!!」
「いい悲鳴だ!これだから殺しはやめられねぇ!」
「少し休憩をさせてやろう、このまま失神されてもつまらねぇからな、ほら、ゆっくり深呼吸でもして息を整えろよ!ははー!!!」
分身体は吉留を放し、吉留はその場に倒れた。
「痛い…!!痛ああああい!!指が…!指がぁ…!!」
「ははー!!いいねいいね!」
「ずっと片手だと痛いもんなぁ!次は左手行くぜぇ!!」
分身体は吉留の左腕を掴み、持ち上げた。
だが吉留は痛みをこらえて、分身体を睨みつけた。
「私をこんだけいたぶってる間に…本体がやられる心配はないのですね…」
「なーんだまだ喋る余裕があんのか、それじゃあ面白くねぇよなぁ…指はやめて、左手ごと切り落とそうか!」
「私をいたぶっても、殺しても!必ず丑崎さんたちがあなたたちを倒します!だいたい私を殺しても、なんの意味もありませんけどね!」
吉留はそう言っているが、体の震えは止まらなかった。
「強がんなって!死にたくねえって体が言ってるぜ?」
「そこまで言うなら、今すぐに殺してやるよ!魔妖術・滅殺刃!」
「みなさん…ごめんなさい…」
「クハハッ!!強い女だ!だが、その願いは叶わねぇ。」
突如、空からマントを羽織った何かが降りてくる。同時に、片方の分身体を妖術ごと消し飛ばした。
「くっ…!誰だ貴様!!」
「おっと、久しぶりだから力の加減ができてねぇな。まあいい、そこのお前、相手してやるからかかってこい。」
「誰だか知らんが!魔妖術・絶殺刃!」
「お?何もしてねぇのに斬られたな、せっかくのマントが台無しだ。まだ姿は隠してないといけないからな、これ以上はやらせねぇぞ。」
マントの者は先程と同様に、一瞬にして分身体は消し飛ばした。
「さて、久しぶりの戦いだがこんなもんか。」
「あ、あの!助けていただき、ありがとうございます!」
「女、丑崎魁紀の知り合いか?」
「は、はい、そうですが。」
「そうか、ちゃんと生きてるのか、ならいい。」
マントの者は少しだけ笑っていた。
「女、俺の妖気で止血だけはしてやる、あとは自分でどうにかしろ。」
マントの者は吉留の手に手をかざし、妖気を纏わせた。
「あ、ありがとうございます!」
「礼はいらん、さっきそこから声が聞こえたぞ、行け。」
「は、はい!」
吉留はマントの者が指さす自分の荷物の山に向かった。
「まさかこんなことになるとは思わなかったが、今度こそは。」
すると、マントの者はどこかへ消えた。