第百六十九集 隠殺童子
1月22日 8:10 稲荷山 三ツ辻
三ツ辻では、申喰と小戌丸が2体の分身体と対峙していた。
「そろそろ10分やな、吉留はん、新しい分身体は確認できるかいな。」
「こちら吉留、いいえ、新たな分身体は確認できません。」
「おおきに、間に合ったんやな、あん2人。」
「間に合って貰わないと困りますからね。」
丑崎と巳扇が無事に間に合ったと知ると、申喰と小戌丸の目付きが変わった。
「瞬殺、瞬殺だ!」
「圧倒的瞬殺だぁ!ははー!!」
「随分とナメられとるな、犬。」
「そうですね、随分とナメられてるようですね。」
2人はニヤリと笑う。
「何を笑ってやがる!」
「そんな余裕も、今殺す!!」
「「魔妖術・隠鎖殺。」」
分身体2体は姿を消した。
「聞いた通り隠れるのが得意んやな。」
「ですがバレバレです、行きますよ大典太、裂犬絶光!」
小戌丸は何も無いところに向かって光の刀を振り下ろした。すると刀は止まり、止まったところに分身体が現れた。
「お前、なんでわかる!」
「隠れるのが下手なだけや、そこのお前も見えとんねん!申喰二刀流、猿煌!」
同じように申喰も雷を帯びた刀を振り下ろすと、もう一体の分身体も姿を現した。
「こいつら、人間なのに何故見える!」
「正義の力や。」
「正義の力です。」
「「ふざけるな!!魔妖術・死殺刃!」」
分身体2体は両手に赤黒い刃を纏った。
「魔妖術・連殺刃!」
片方の分身体から斬撃が連射される。
すると申喰は小戌丸の頭を抑え込んで飛び上がり、2人とも斬撃をかわした。
「貸し1つや。」
「そんな事しなくても避けれましたよ!」
「空中じゃ何もできねぇだろ!魔妖術・轟殺刃!」
もう片方の分身体から、1本の大きい斬撃が放たれる。
だが今度は小戌丸が飛び上がり、斬撃をかわしながら申喰の足を掴んで分身体の方に投げた。
「これで貸し借りは無しです!」
「だからって敵に向かって投げ飛ばすアホがおるか!申喰二刀流・猿嵐!」
申喰は飛びながら体を回転させ、回転する斬撃を放った。
「小賢しいガキ共だ!」
「とっとと殺させろ!魔妖術・連殺刃!!」
「犬牙裂破!」
小戌丸の裂破が分身体の斬撃をかき消し、2体の分身体に当たる。
「ざっとこんなもんですね。」
「おい犬、今のわしもろとも殺ろうとしてたやろ。」
「被害妄想が激しいんじゃないですか?」
「もっぺん言うてみろや、次はお前の首はねたろか?」
「おいおいおい、まさか、まさかこれでやれると思ってねぇだろうな!」
「さすがに、さすがに頭の中がお花畑過ぎるんじゃねぇか?」
倒れていた2体の分身体だったが、何事も無かったのように立ち上がった。
「犬、手加減したんちゃうやろな。」
「するはずないじゃないですか、あいつらがタフなだけですよ。」
「タフ?タフで片付けちゃいけないなぁ。」
「お前らの力不足なんだよ、人間のくせに飛べたり隠れた俺らが見えたのは驚いたが、所詮、所詮その程度だ。」
分身体の目は先程より鋭くなった。
「実力の差を見せてやろう。」
「妖術血界・隠殺深域。」
2体の分身体、そして申喰と小戌丸を、暗黒の血界が包み込んだ。
8:25 稲荷山 四ツ辻上空
四ツ辻上空では、巳扇と分身体の戦いが続いていた。
「よく妖気が持つな、女。」
「頑なに張ってますから。」
「なんだ?お前日ノ本の人間じゃねぇのか?何言ってるかわからねぇな。」
「妖と話す舌は持っていません、お気になさらず。」
「そうか、それならとっとと殺されろ!魔妖術・連殺刃!」
分身体から斬撃が放たれる。
「蛇眼。」
蛇眼により、全ての斬撃が石となった。
「厄介な目だなぁおい、まずはその目から殺そうか!!」
「蛇の舞・神楽。」
「何踊ってやがる!隙だらけだ!!」
だが、巳扇に向かって突進した分身体は指先から徐々に石になっていた。
「な、なんだこれは!」
「これは踊りではありません、妖の気を撒きながら舞っているのです。そしてその妖の気を触れたあなたは、触れた場所から徐々に石になるのです。」
「じゃあ触れなければ意味ねぇな!魔妖術・轟殺刃!」
「無駄です。」
大きい斬撃もまた、石になった。
「私が撒いた妖の気に触れたなら、どんなものであろうと石になります。」
「これは少し相性が悪いなぁ、だが殺す、殺し尽くす!妖術血界・隠殺深域!」
「血の界ですか…!」
分身体と巳扇は、暗黒の血界に包まれた。
8:30 稲荷山 一ノ峰
「どうしたどうした!こんなもんか!!」
「ちぃ!!」
一方、一ノ峰では、丑崎が押されていた。
こいつ、手数が無駄に多い上に、場所が狭いせいで大太刀が上手く使えねぇ…!
「魔妖術・轟殺刃!!」
「丑火凄斬!」
無理やり振ったから威力が足りねぇ…!
「他の分身たちは血界を使ってるようだな、さすがは俺の分身、ちゃんと殺そうとしてて嬉しい、嬉しいねぇ!!」
「丑崎さん!こちら吉留、他の皆さんとの通信が繋がりません!応答願います!」
血界の中に入れられたせいで通信が繋がらないのか。
「吉留さん、みんなは多分血界に入ってます。みんなを信じましょう、きっと大丈夫です。」
「…わかりました、丑崎さんも気をつけてください。」
「殺し合いの最中にお話とは余裕だな!!」
すかさず隠殺童子は丑崎を襲う。
「さては他のどこかに誰かいるな?ダメだなぁ、殺し合いに水を差すようなことしちゃ!!」
「何をするつもりだ!」
「こうするんだ。」
隠殺童子は2人の分身を作り出した。
「分身をさらに2体出す、分身がその話し相手を見つけるまでに俺を殺さなければ、お話し相手が殺されるぜ!!」
2体の分身体は姿を消し、吉留を探し始めた。
「お前!!」
「ここからが楽しい殺しの時間だ!お前も楽しめよ!!」
「行くよ…酒呑様。」
怒りとともに、丑崎は童子切を抜いた。