第百六十八集 愛の無いムチ
1月22日 8:41 稲荷大社 千本鳥居
午上が隠殺童子の分身体を引き受けて、先へ進んだ他の丑崎一行。千本鳥居を走り抜け、三ツ辻を目指していた。
「こっからは山道や、遅れるんやないで!」
「言わなくともわかってますよ!」
「少し嫌な予めに感じることがあります。」
「なんかわかるのか巳扇?」
「足を止める分け身が一つの体だけなのか、ということです。」
確かに…足止め、それか戦力分散させたかったらもっと分身を出すはず…ならこの後もっと分身が出てきてもおかしくないな。
「こちら吉留、皆さんの前方に妖気反応が2つ!気をつけてください!」
「嫌な予感が当たったようやな蛇。」
「そのようですね。」
申喰と巳扇が前を見ると、隠殺童子が2人待ち構えていた。
「ははー!!待っていたぜ!殺す、殺す時間だ!!」
「殺せ!殺し尽くせ!ははー!!」
2体か…順当に人数が削られてしまう。それならここは俺が…
「犬!やるで。」
「思考だけは被りますね、猿!」
申喰と小戌丸が1歩先に行き、2体の分身体と戦闘を始めた。
2人とも…いや、やるって言ってくれたんだ、先に行かせてもらう!
「蛇!丑崎はん!本体は譲ったるわ!」
「時間限られてるんで足は止めないでくださいね!」
「ありがとうございます。さあ、丑崎さん、行きましょう!」
「おー!」
8:06 稲荷山 四ツ辻
時間がもったいないな、飛んで行った方が速そうだ!
「巳扇!飛んで行くぞ!」
「わかりました。」
このまま一ノ峰に直行だ!
「おっとぉ?なんで飛んでんだお前ら?まあそれはいいけど、近道はいけねぇな!!ははー!!」
こいつ、空中にも!!
「丑崎さん!!」
丑崎に襲いかかった隠殺童子の分身体を、巳扇が間一髪で刀で受け止めた。
「巳扇!」
「私は大の丈で夫です!先に行ってください!」
「ありがとう!!」
よく分かんなかったけどありがとう!!
「ははー!1人逃がしたが、お前だけでも、お前だけでも殺させろ!!」
「よく喋りますね。今、黙らせて差し上げます。今の日もお願いしますね、数珠丸。」
8:09 稲荷山 一ノ峰
「はぁ…はぁ…来てやったぞ、出てこいよ。」
奥の森から、隠殺童子が出てくる。
「10分経つ前に来るとかつまんねぇなぁ…1人も殺せねぇじゃねぇかよ!どうしてくれんだ!!」
「知らねぇよ、お前が自分で決めたことだろ、自分で責任取れよ。」
「それもそうだな、じゃあどう責任取るか、お前を殺してから考えるぜ!!ははー!!」
隠殺童子は丑崎に襲いかかった。
8:10 稲荷大社 本殿
稲荷大社本殿では、午上と隠殺童子分身体の戦いが続いていた。
「10分経ったね、上から何も出てきてないってことは、藤十郎たちは間に合ったんだね。」
「間に合ったところで何も、何も変わらん!お前らは俺たちに殺される、殺されるんだ!」
「俺たち、ねぇ、まだ分身体がいるんだね。まああたしらには関係ないけどね!縛馬!」
午上はムチで隠殺童子を縛った。
「白銀蹄!!」
そのまま隠殺童子を引き寄せ、白く光る蹴りを放った。
「足癖が悪ぃなぁ、女。」
だが隠殺童子は特にダメージを負った様子がなかった。
「ほら、もっと踏んであげるから頭下げてねだってみなよ。」
「ははー!!殺しがいがあるぜ!!魔妖術・死殺刃!!」
分身体は両手に赤黒い刃を纏った。
「魔妖術・連殺刃!」
分身体の両手の刃から斬撃が連続で放たれる。
「今のあたしの状態じゃ守りの技は使えねぇ、なら前に走るだけっしょ!蒼馬奔流!」
午上はムチを振り回しながら斬撃を弾き、分身体に向かって走り出した。
「血迷いやがったか!女ぁ!!」
「蒼馬閃光!」
ムチとは、動物を打つための道具であり、種類も用途によって変わる。牛を追い立てる時、馬に乗る際に馬を制御する時などで使われる。が、拷問や懲罰で人に使う時もある。(大昔の話)
並の人間が使っても痛いくらいで済むが、達人に使わせると、打撃の瞬間の速さは音速を超える。その打撃は人の皮膚を裂き、骨をも露出させてしまうほどに強烈である。
これは妖魔にも同じことが適応され、並の妖魔であればまず打撃に反応することすらできない。そして簡単には再生できない傷跡を残す。
今午上が放った蒼馬閃光は、妖気によってさらに強化されたムチによる超音速の打撃である。
「いってぇぇぇぇぇぇ!!」
「痛いでしょ?愛の無いムチは。」
隠殺童子はその場に倒れ込み、打たれた肩を抑えた。
「痛えぇぇぇ!!なんで、なんでだ!!」
「やっと頭を下げたか、ウケる。ほら、ご褒美に踏んであげるよ。」
午上は隠殺童子の頭を踏んづけた。
「とっとと消えろよ、分身体なんだろ?」
「殺す、殺してやるぞ女ぁ!!」
「こいつっ!まだ全然元気なのかよ!」
隠殺童子は午上の足を掴んで投げ飛ばし、周囲に黒の斬撃を乱発した。
「魔妖術・隠鎖殺。」
分身体は妖術で姿を隠した。
「あいつ、どこに行きやがった!って、見えてんだよ!蒼馬閃光!!」
「女ぁ…!なんで俺の居場所が!」
「女の勘よ!!」