第百六十三集 散り歩み、訓え練る
1月21日 6:00 湯の宿・京 505号室
変な時間に目が覚めてしまった、6時…冬だからまだ外は暗いし、二度寝しようかな。
いや散歩しに行こ、ついでにどっか人のいない所があったら昨日酒呑様に教えてもらったことを実践してみよう。
「うっ…さっむ…」
やっぱ布団戻っていいかな…ダメかな…ダメだね…
6:05 湯の宿・京前
「あら、朝の散る歩みですか、丑崎さん?」
「お前こそ散歩か、巳扇?」
まさかまさかの巳扇、こんな朝早い寒い時間だってのによく起きれるな。
「私はいつもこの時の間に起きるのですよ、私だけでなく巳扇家の皆さんもそうなのです。」
「なんか理由があるのそれ?」
「いえ、小さい頃からそう教えられてきた事ですので、理の由は特にありません。」
巳扇家全員6時起きとか軍隊かなんかかよ。
「折りに角ですので、共に散る歩みましょうか。」
「一緒に散歩しようかって意味でいいんだよな?」
「はい、その通りです。」
「お、おけ、わかった。」
折りに角…?ああ折角って言ってたのか!会話してるのに1回頭の中で解読挟まないといけないの面倒すぎるでしょ。
6:15 鴨川付近
「こうして共に散り歩むとは思いませんでした、悪い夢でも見ましたか?」
「悪夢で目が覚めたわけじゃねぇよ…単純に起きちゃっただけだ。」
「そうですか、昨の日は大いに変わってましたからね、あまり寝るに付けなかったのでしょう。」
ダメだ…理解できん…
「丑崎さんは、慈心についてどう思いますか?」
「どうって言われてもな、被害を出してないことを考えると、少なくとも人間の敵という立ち位置じゃないと思う。今のところ妖魔を目の敵にしてるし、何より俺たちを長壁から守ろうとしてたからな。」
童がどうとか言ってたし、子供好きでもあったんだろうけど。
「私もそう思います。ですが務めは果たさなければなりません、感じた情けで動いてはなりません。」
「大丈夫だよ、ちゃんと捕まえて帰るさ。」
「ここから、何の事も無く、終わるといいんですけどね。どうも何か起こる気がするのです。」
「女の勘ってやつか?それ言うのってそれなりに歳いった女の人…」
「誰がおばさんですって?」
「そこまで言ってねぇよ!」
その目やめろ、一瞬光ったぞ、絶対石にしようとしてただろ。
「でもそう思うのです、すごく嫌な感じです。」
「それならそのために準備しとかねぇとな、ちょっと人のいないとこに行ってくる。」
「何かするおつもりですか?」
「ちょっと教わったことを試したくてな。」
あそこにちょうどいい公園あるし、ちょっとだけやってみようか。
6:25 屋形町公園
ちょうど誰もいない、ここなら問題ないだろ。
「教わったこととはなんでしょうか?」
「まあ見てなって、俺も完璧にできるわけじゃねぇけど。」
足元に妖気を溜めるイメージ、妖気を濃く溜めて、自分を浮かせる。
「え、浮いてるじゃないですか!すごいです!どうやってできたんですか?」
「妖気を足元に溜めるイメージでどんどん妖気を流して纏わせて、そうすると妖気の圧力に押されて体が浮くらしい。」
「私もやってみます!」
巳扇は丑崎に言われた通りに足元に妖気を溜めた。
「本に当たりです!少しずつ浮かび上がっています!ですがこれでは、妖の気が持ちません…頭がくらくらします…」
「結構慣れが必要っぽいから、ずっと続けない方がいいぞ。」
「いいえ、限りある界を迎えるまでやってみます。」
「よくわかんねぇけどやるな、休め。」
「ですがこれさえできていれば、長壁姫との戦いでも少しは戦えてたかもしれませんね。」
そもそもそんな妖気の使い方知らなかったしなぁ…
「良き勉めを強くできました、ありがとうございます。それでこのことは誰から教わったのですか?」
「酒呑様だ。どうも人間の妖気の使い方が全くなってないらしくてな、それでほんの一部を教わった。」
「なるほど、私も妖の気について勉めを強くしなくてはいけないようですね。では丑崎さん、浮かんで遊ぶだけでも良いですので、しばらくここで訓えて練りましょう。」
「浮遊をここで練習しようでいいのか?」
「はい、その通りです。」
「おーけーだ。」
頼むから、ちゃんと日本語喋ってくれ…同じ日本人だろ…なんで解読が必要になるんだの…
ただの朝の散歩の予定であったが、流れで浮遊の訓練をし始める2人であった。
8:00 屋形町公園
「これは…流れる石に…妖の気が切れちゃいますね…」
「1時間も妖気放出してたらそりゃそうなるよ…なんで休まないんだよ…」
「やるからには…本の気で…巳扇家ではこう教わっていますので…」
さすがにそれは本気の使うところ間違ってると思うんだよね。
「ですが…良き時の間でした。ありがとうございます。慈心を捕らえるまで、機が会う時があればまたお願いします。」
「こちらこそ、相手がいると捗るから助かる。」
試したいことそれなりにあるしね。
「では戻りましょうか、休む日なので、ゆっくりして行きましょう。」
「そうだな、とっとと帰ろう。」
汗かいたからシャワー入りたい。
そんな感じで、2人は帰路についた。
8:00 稲荷山
「黙っていなさい…あなたが出てくる必要など…」
稲荷山にて、慈心が誰かと話していた。
だがそこにいるのは、慈心1人だけだった。
(いい加減受け入れな?殺せ!殺せ殺せ殺せ!全てを殺せ!お前が守りたい童など、殺し尽くしてしまえ!)
「もしそうなるようでしたら、拙僧が腹を切るまで…あなたの願いも叶わぬでしょう…」
(いいや、もはや時間の問題だ。あーあ、監獄で大人しくしてりゃ済んだのになぁ。またお前のせいで童が死ぬ!見物だ、見物だな!)
「黙りなさい…くっ…!意識が…!ですが忘れることなかれ、拙僧はあなたの思い通りにはならぬことを…」
慈心はその場で意識を失い、地面に倒れ込んだ。
(ちっ、しぶとい奴だ。まだ明け渡さねぇってのか、でもまあもうすぐだ、もうすぐで殺せる!殺戮だ!)