第百六十一集 頭が高い
1月20日 11:20 東福寺
誰だ…あいつは…
「どちら様でしょうか?勝手に血界に入って来るとはいい度胸をしてらっしゃいますわね。」
「あぁ?俺を知らねぇとは教育が行き届いてねぇな。まあ所詮は人形、行き届いてる方がおかしいか、俺が悪かった。それはともかくだ、人形。」
男は一瞬で天守閣まで飛び込み、その勢いで天守閣と天守閣の目を破壊した。
「誰に向かって口聞いてんだ、頭が高いぞ。」
男は長壁姫の頭を掴み、そのまま姫路城の底まで叩きつけた。
天守閣の目が消えたことにより、光も消失し、血界も消滅し始めた。
「助かった…のか…」
(この臭い…奴めか…)
(酒呑様知り合い?)
(あぁ…気持ち悪い奴よ…)
気持ち悪いって…
(以前妖気を解き放った時があったであろう、その時に吐き出した妖気の主が奴よ。)
(じゃあ佐曽利さんに妖気を渡したのも…)
(奴であろうな、だが決して手は出すでないぞ、人間がどうこうできる奴ではない。)
さすがに気迫だけでわかる、長壁を片手だけで押さえつけられるようなやつだ、俺らが束になってもどうこうできねぇだろうな…
「あなたは…いいえあなた様は…まさか…」
「思い出したか?それとも想像ついたか?ならば手を離してやろう、俺は優しいからな。」
手を離した、次はこっちに来るか…!
「そこの人間ども、右の角ありを残して全員失せろ。あと人形、お前もだ。10秒やる、すぐに動け。」
右の角ありって…俺か…慈心かなって期待したけど俺だ…
てか慈心いねぇじゃん!いつの間に逃げたんだよあいつ!くそぉせっかく釣れたのに…いやでも今はそんなこと気にしてる場合じゃねぇな、目の前にもっとやべぇのがいる。
「俺に用があるらしいから、とりあえずみんなは一旦逃げて。」
「わかりました、皆さんは私が連れていきます、何かありましたら、すぐに連絡してください。」
吉留は全員を連れて、その場から離れた。
「くっ…全く…坊主を逃がしてしまいましたわ…でもあなた様が介入したと知れば、玉藻前様も黙ってはいないでしょう…」
「早く失せろ。玉ちゃんに伝えとけ、俺からは手出しすることはないが、そっちが俺の邪魔をするなら容赦なく殺すってな。」
「えぇ…一言一句違わず伝えておきますわ…」
長壁姫はそう言い残して消えた。
「おいガキ、やっと2人になれたな。」
「俺に何の用だ。」
「はっはー!!さすがおっさんが宿ってるだけはある!態度はいっちょ前だな!」
おっさん?まさか酒呑様のこと言ってんのか?
「おっさんと変われよ、心配するな、さっきの人形みたいなことにはならん、俺は優しいからな。」
(酒呑様、こいつこう言ってるけど、信用できるの?)
(俺が知ってる奴のままであれば問題なかろう、だが随分と様子が変わっておるな。まあいい、変わろう。)
丑崎と酒呑童子は入れ替わり、丑崎の姿から酒呑童子の姿へと変わった。
「おお久しぶりだなおっさん!!」
「おっさんと呼ぶな、本題に入れ。」
「本題もなにも、挨拶しに来ただけだ。ガキがあの人形にやられそうだったから血界壊して入ってきた。本当にそれだけだ。」
「そうか。して貴様、その姿はなんだ、力が弱くなったとは思えん。随分と小さくなったでは無いか。」
酒呑様の知り合いなら妖魔なのは間違いないだろう。ただ姿は人間にしか見えん、優しく話しかけられたら普通に返事してしまうくらいには好青年だ。
「玉ちゃんは隠れ、おっさんは封印され、俺だけ残っても面白くないだろ?だから人間の姿に化けてずっと人間のように暮らしてきたのさ。それも1000年以上だぜ?すげぇだろ!」
「つまらんな。まあよい、ひとつ聞こう。佐曽利とやらに妖気を渡したのは貴様か?」
「佐曽利?あぁあのヒョロガリか、困ってたから手を貸してやっただけだ。なんか迷惑だったか?」
「多少はな、それもまあよい、気まぐれな貴様らしい。」
「おっと迷惑かけちまったか、それは俺が悪かったな。」
こいつ、意外と話通じるやつだな。話し相手が酒呑様だからかもしれないけど。
「ところでおお…」
「おっと待った、今の俺の名前は武本だ、武本大吉だ。」
「わざわざ名前を変えておるのか、名前などどうでも良いというのに…」
「俺の野望の為だ、まだ今動くべきじゃないから本当の名前を名乗る必要も無い。あんまし俺の事言いふらすんじゃねぇぞ?優しい俺でもおっさんを殺すのはさすがに気が引ける。」
「ほう?ならばここでやってみるか?」
おいおいここでおっぱじめんのはやめろって…
「はっはー冗談冗談!でも九割は本気だ、今回は挨拶で済ませるけど、次に俺が俺の意思で動いた時、その時は玉ちゃんもおっさんも殺すぜ?俺は優しいからな、先に教えておくよ。」
「貴様…」
「またなおっさん!殺されたくなけりゃ元の力取り戻せ。せっかく妖気あげたってのに吐き出しやがって。」
え、じゃああの時妖気を吸わせたのは意図的に…
「カカッ!すずめの涙程度の妖気を寄越したとこで何も変わるまい。貴様が動いた時を楽しみにしていよう。」
「はっはー!楽しみにしてくれ!とんでもねぇおもしれぇことが起きるぜ!じゃあな!」
武本は地面を蹴り、空へ飛んで行った。
(魁紀よ、戻るぞ。)
(おう。)
酒呑童子と丑崎が入れ替わり、丑崎の姿に戻った。
(それで、あいつ誰だったんだ結局?)
(察しが悪いぞ馬鹿者、女狐のことを玉ちゃん、我のことをおっさんと呼べるやつなど、この世で探しても1人しかおらぬ。)
玉藻前と酒呑様と同格ってことか、それなら…
(大嶽丸か。)
(そういうことだ、だが奴のことは誰にも話すでないぞ。我はともかく、お前の身に危険が及ぶかもしれぬ。)
(それはそうだな、わかった。ところで酒呑様、気持ち悪いって言ってたけど、めちゃくちゃいいやつっぽくなかった?)
(馬鹿者、何を考えてるかわからぬのが気持ち悪いところであろうが。)
(それもそうだな…)
(このことは頭の隅に置いておけ、それと鍛錬を怠るでないぞ、奴が動き出せば、また日ノ本が変わるのかもしれぬからな。)
そこまで影響力があったのか、大嶽丸…
(我も力を蓄えよう、その時が来るまでな。)
(うん、俺も鍛錬頑張る。)
玉藻前に大嶽丸、そんで酒呑様、日本三大妖魔が現代に集結してしまった。玉藻前はもう既に色々と動いている、大嶽丸はまだまだ動きそうにないけど、今後どこかのタイミングで動くと予め教えてくれた。
慈心の問題もあるってのに、またとんでもないのが来ちまってよ…