第百五十九集 宵闇城郭
1月20日 10:10 東福寺
空から舞い降りる華麗な女性、丑崎は見た瞬間、いや見るまでもなくすぐに気づいた。
「長壁…!」
「覚えててくれて嬉しゅうございますわ、丑崎様。」
なんで今こいつがここに…!玉藻前の差し金か!
「今丑崎はん、長壁言うたんか…?」
「長壁と言えば長壁姫ですね。」
「姫の路の城に棲む妖ですね。」
「そんなやつがあたしらに何の用?」
今ここにこいつが来たってことは、俺ら全員をここで始末することくらいか…!
「急ぎ上層部に連絡します!」
「それはさすがに困りますわ、妖術血界・宵闇姫路城。」
長壁姫はすぐさま妖術血界を使い、その場にいた7人全員を包んだ。
「ようこそ私の血界へ。」
長壁姫の血界は血界と言うより、小さな世界のようなものだった。紫色の空、枯れた木々、そして丑崎たちが今立っている場所が。
「姫路城の天守か…ここ…」
「博識でございますわね、左様でございますわ。」
「通信が…繋がりません…!」
電波も遮断すんのかこの血界…血界に囚われた以上簡単に出ることはできねぇ、しかも長壁の実力は完全に未知数、無闇に動けばやられるのはこっちだ。どうすれば…
「丑崎様とそのお仲間がいらっしゃるのは予定外でしたが、ここで葬り去るのもやぶさかではございません。ですがせっかくですので、そこの坊主共々一緒に付いてきていただきましょうか。」
「坊主?お前あいつのこと知ってるのか?」
「ええ、左様でございますわ。そこの不格好な笠を被っている者こそあなた方が探している慈心ですわ、隠れるのが随分お上手で、探すのに苦労しましたわ。」
やっぱりそうだったのか、まあ薙刀まで出されたからさすがに気づいたけど。
「そちらの坊主を連れて帰るのが当初の目的でしたが、サンプルは何人増えても問題ないでしょう。」
「サンプル?何言うとんねんお前。」
「猿は猿でも秀吉様ほど頭が回る猿でございませんわね。」
「なんやとぉ!」
「お喋りが過ぎましたわ、そろそろ目的を果たしましょう。魔妖術・宵桜爪。」
長壁姫が放った宵桜爪、突如空から舞い落ちる桜の葉が鋭い爪の如く、丑崎たちを襲う。
「下がっていなさい!童たちよ!」
大男は丑崎たちの背後から先頭へ瞬時に動き、全員の壁となった。
「おい!あんた!」
「心配ご無用、目的が拙僧であるのならば、拙僧が前に立つのは道理。童たちは逃げることを考えなさい!」
「んなこと言ってる場合ちゃうやろボケ!お前が死んだら元も子もないねん!」
「その通りです、失った礼を申し上げます、蛇眼!」
巳扇は大男の肩を蹴って飛び上がり、空中から蛇眼を桜の葉に向かって放って石にした。
「魔妖術・宵月幻。」
血界内に月が現れ、長壁姫の姿が徐々に消えていく。
「あたしから逃げれると思うな!縛馬!」
午上のムチが長壁姫の腕を捕まえ、幻となるのを防いだ。
「ナイスです蘭さん!行きますよ大典太、犬牙烈破!」
「どうせ玉藻前の差し金だろうが、とっとと失せろ!丑火激損!」
小戌丸の牙のような烈破、そして丑崎の炎の衝撃波が同時に長壁姫を襲う。
「頭が回らない猿にやられた感想をあとで聞かしてくれや!申喰二刀流・猿煌!」
2人の攻撃に合わせて、申喰の雷を纏った斬撃が追い打ちをかける。
「こんだけ当たりゃさすがに無事じゃ済まんやろ。」
「いけません!衝破!」
大男は謎の力で申喰たち全員を後ろに飛ばし、盾になるように全員の前に立った。
「魔妖術・宵桜爪。」
「何しとんねんボケ!」
「ぬぅぅぅぅぅんんんんんん!!」
そんだけ攻撃を受けたらさすがにただじゃすまねぇぞ…!
でも待てよ…いくらなんでも丈夫すぎないか?鍛えてるだけじゃ説明つかねぇぞ。
「さすがによく耐えますわね、そのしぶとさ、妖魔を食っただけありますわ。」
大男の被っていた笠にヒビが入り、そして壊れて落ちた。
「童たちの未来を…壊させはしません…!」
本物だ、本物の慈心だ。写真通りフードに角、おまけにイカつい。
「あら、お怖いですわね。魔妖術・宵夢囁。」
「無駄です、拙僧は破戒僧なれどもとは僧侶、妖魔の精神攻撃など通じることはありません。」
「そういえばそうでしたわね、まったく殺さないで連れ帰るというのは難しいですわね。ですが死ななければ問題はございません、何がなんでも連れて帰らさせていただきますわ。」
サンプルにするって言ってたな、一体どういうサンプルにするつもりだ。
「どんな手を使おうとも、拙僧をどうにか出来ると思わぬよう、参られよ!!」
「ふふふ、それはそれは楽しみでございますわ!魔妖術・宵闇城郭。」
なんだ、揺れてるぞ。
「人間ごときが、私に勝てると思わぬことですわ!」
姫路城が激しく揺れ始め、それにより丑崎たち全員が外に投げ出される。
「おい!なんで城が浮いてんねん!!」
「そんなことよりここ空中ですよ!さすがにこっから落ちたらひとたまりもないですよ!」
俺に浮遊できる術さえわかってりゃ…!
「皆様、さようならですわ。魔妖術・宵闇城郭妖絵巻。」
姫路城の天守閣に大きい目が生え、妖魔のように変化した。