第百五十八集 大男釣り
1月20日 9:00 湯の宿・京
早速2日前の夜に酒呑様と話したことをみんなに伝えよう。
「5人それぞれ分担する話ですが、上から許可を得ましたので、それぞれ行く場所を事前に私に伝えてください。それとこちらの無線を付けてください、何かあったときすぐに連絡できるように、ボタンを押せば話したい方だけか全員かで切り替えも出来ますので、ご活用ください。」
「その話なんですが、必ず大男を釣り出せるかもしれない方法があります。」
「なんやと!?」
「どういう方法ですか魁紀さん!」
「童子切を使って、俺自身が妖魔になることだ。」
「「……」」
いやなんで黙るんだよ、割と真剣なんだけど。
「丑崎はん、今自身と慈心を掛けてたってことでええんか?」
「いやそういうことじゃねぇよ。」
逆に言われるまで気づかなかったわ。
「なるほどその手があったんやな。」
「ですが大きい男が妖の気に釣られるか、妖そのものに釣られるかはまた不の明ですね。」
「丑崎なら大丈夫っしょ、角生えてるし妖魔って言われたら妖魔に見えるっしょ。」
「さらっと酷いこと言いますね蘭さん…」
「うーーん……」
今までで1番悩んでる顔をした吉留であった。
「わかりました、それで行きましょう。もういちいち上に相談するのも面倒ですので、私が判断を下します。丑崎さんを除いた4人は建物の裏等で待機、私もそれに続きます。」
「で大男が出たら全員で捕縛ね、余裕っしょ。」
「人が多いところで丑崎さんのあの姿を晒す訳にはいきませんので、人が少ないところをこちらで探しておきます。数分いただければ大丈夫ですので、少しお待ちください。」
吉留は急ぎ足で部屋に戻った。
別に今更なんだよな、童子切を使った時の姿が周りに見られるとか、あんま気にならなくなってきたし。
9:10 湯の宿・京
「お待たせしました、本日の目的地は東福寺です。すでに事情は伝えてありますので、気にせず向かいましょう。」
東福寺か、稲荷大社の近辺だったはずだから都合いいな。
「ほな頼むで、丑崎はん。」
「まあ魁紀さんなら問題ないでしょう。」
「やけに信頼してんじゃんあんたら。」
「ですがここは頼る他ないですので、信じましょう。」
「こんなに言われたら頑張るしかねぇな、なんかあったら頼むよ、みんな。」
大男の底は知れてない、油断せずに行こう。
10:00 東福寺
東福寺の僧侶の方々の助力もあって、俺たち以外誰1人いない状況を作れた。
「丑崎さん、決して無理はしないでください。一応こちらで常に監視させていただきますが、何かあったらすぐに無線で連絡をください。よろしくお願いします。」
「わかってますよ、なんかあった時は頼みます。」
さーてと、面倒だけど気張っていきますか。
「行くよ、酒呑様。」
丑崎が童子切を抜くと、酒呑童子の妖気が丑崎を包んだ。
こっからだ、大男を釣り出すまでこの状態を維持だ。
ドーンと、大きな爆発音がする。
「丑崎さん!背後です!舞い上がった土煙の中に大きな影です!」
お?来たなぁ?
「了解、とりあえず引き止めます。」
「京の地を乱す妖魔よ、恨むなら拙僧を恨んでください。南無阿弥陀仏…」
「へぇ、今度は完全武装じゃん。さすがに素手じゃ勝てそうにないって思ってくれて嬉しいな。」
丑崎はゆっくりと大男の方へと振り返る。
この感じ妖気に反応して飛んで来てるな?酒呑様の妖気感じてさすがにやばいと思って薙刀まで持ってきてるじゃん。
「あなたは…!丑崎魁紀…」
「ご名答、釣り出すような真似して悪いが、こっちも任務なんでな。」
「なぜあなたが…酒呑童子の姿を…」
「あれ?知ってると思ってたんだけどな、まあ色々あってな、気づいたらこうなってたよ。」
長話してもよかったけど、俺個人の話は教えられないな。
「十二家め、任務のために童を使うなど…嘆かわしい…拙僧は童と戦うつもりはありませぬゆえ、ここで退散させていただきます。」
逃がすかよ!
「吉留さん、今です!」
「了解、巳扇さん!お願いします!」
「了り、解きました、蛇眼!」
大男の背後から巳扇が現れ、蛇眼により大男は石となった。
「やるじゃん律!お手柄っしょ!」
「いいえまだです、効いた感じと覚えがないです。」
巳扇が言うように、大男の石に少しずつヒビが入る。
「ぬん!」
大男の声と共に、石は砕け散った。
「嘆かわしい…大人がいながら童に戦わせるなどと…」
「わっぱわっぱやかましいわ。あんた一体何が目的や。」
「脱獄までして、何かやりたいことでもあったのですか?」
「清水寺の童たちか。拙僧の目的など、あなた方が知る必要はありません…んんんんんんんん!!あああああああああ!!」
大男が突如苦しみ、叫び出した。
「全員構えろ!何が来るかわからんで!」
「言われなくても!そんなことより猿が仕切らないでください!」
今それどうでもいいだろ…
「ああぁ…ああぁ…はぁ…はぁ…もう時間がないのです…拙僧はこれにて…」
時間がない?そんなことより逃がすか!
「おい待てや!!」
「もう一の度、蛇眼を使います!」
「これ以上関わらない方が身のためです…さらば。」
「あらあら、楽しそうじゃありませんか。私も混ぜていただけないでしょか?」