第百五十六集 頑張るよ
1月13日 16:00 湯の宿・京 2F 会議室
「お、おつかれやで〜丑崎はん〜!ほな、今日の収穫聞かしてもらおうかー。」
「煽りすぎですよ猿、これでオイラたち無しで魁紀さんがかなりの収穫を持って帰ってきたらどうするんですか。」
「一理あるなぁ犬、やっぱ丑崎はんなんも言わんでええで?な?」
なんなんだこいつらだいぶ仲良くなってきたな、さては喧嘩したら終わりが見えないって気付き始めたな?
「では今日の報告を始めましょう、とても残念ですが、結構歩き回ったのですが、慈心に関する情報も、妖魔に出会うことすらもありませんでした。」
「本当に慈心ってやつ脱獄してんの?」
「そう疑うのも無い理ではございません、まったく情けの報が無かったわけですから。」
そらまあ俺のところのやつが慈心かもしれないんだから、他のところには出てこないわな。
「丑崎さんの方は何かありましたでしょうか?」
「今日も出会いました、先日と同じ大男と。」
「ホンマか!?」
「それはさすがに凄いですね…」
ふーん、俺一人でも何とかなったんだぜ?ドヤァ。
「稲荷山を登っているところ、四ツ辻で一本踏鞴3体現れた時に、その大男がまた突如としてやって来ました。」
「また妖魔が現れた時なのですね、前回住民たちにはなんの被害も出ていなかったことを考えると、妖魔が現れた時に合わせてその大男も現れるのかもしれませんね。」
「それと少しだけ話をしました、俺を一目見ただけで名前が割れたので、こちらの情報はもしかしたら既に握られているのかもしれないです。」
「丑崎はんの場合大抵の人が見てもわかるやろ。」
「猿、今は魁紀さんが報告してくれているのです、しばらく黙っておいてください。」
「なんやと犬休んどったクセに!」
「猿もじゃないですか!どの口で行ってるんですか!」
あぁ、また始まったよ…
「2人とも、静粛にお願いします。丑崎さん、続きをお願いします。」
「これ以上特にないですけど、最後に一言だけ、引き返せ、これ以上は踏み込んではならない、と言われました。」
「やっぱ関係あるやろあの大男!次こそはぁ!」
だが相変わらず断言はできない、そう何人も大男の坊主なんていんのかって話だけど、顔を見るまで確信できない。
「次こそは引き止めて吐けること全部吐かせる。」
「ええやんええやんその調子や丑崎はん!」
「明日からまた頑張りましょう!」
あとは2手に分かれる必要があるかどうかだな、実際1人しかいないんだし、広い範囲で探せる分いいかもしれないけど、対峙した時は人数多い方がいいしな。
「もう慈心探しても出てこないなら妖魔探した方が早いんじゃねー?」
「そうですね、坊の主が妖のいる所に現れるならば、妖を探しに行った方がいいかもしれませんね。」
なんだよ坊の主って。
「では明日は妖魔退治に力を注ぎましょう、京都は毎日妖魔が出てもおかしくない場所ですので、妖魔出現の連絡が来たらすぐに向かうようにしましょう。」
「「わかりました。」」
毎日妖魔が出るって大変な話だな、神奈川じゃ考えらんないや。
21:00 湯の宿・京 505室
(失礼、独り言にございますれば。童よ、引き返すがよい、これ以上踏み込んではならぬ。)
どういう意味だったんだろ、単純に保身のために踏み込むなって言ってんのか、それとも危険だから言ってんのか。
保身のためならまず公の場に出てくる必要はない、逃げてればいい、だから後者の可能性が高い。
危険があるとすれば、慈心は妖魔を食ったって話だったな。どんな妖魔を食ったか知らないけど、半妖になるレベルの妖魔を食ったんだろう。妖魔を食った前例は聞いたことないし、実際にどう変わるのかもわからん。
もう1種類の危険として、慈心の背後には何かしらの黒幕がいて、それに操られて本当のことを話せないとか。これに関しては考えれば考えるほどややこしくなるから考えたくはないが、1つの可能性として頭の隅に置いておこう。
これを全部踏まえた上で考えた場合、現状1番危険なのは慈心本人だな、妖魔を食って半妖になった以上、妖魔の力は必ず持ってる。でも本人はその力を未だに行使してない、だから3日前と今日見た慈心の力は本気ではない。
さらに状況から見ても、2回とも住民の避難が終わってから出てきてる。そのつもりがあるのかはわからんけど、住民への被害も考えているのかもしれない。もしそうなら慈心本人はもともとかなり善人だったってのも考えられる…
うーん…めんどくさい…
こんだけ考えて、拙僧は慈心などではありませんとか言われたら全部台無しだ。
プルルルルル
「!?電話!?俺に電話するとはいい趣味してるな、ちなみに俺に電話がかかってくるのは半年ぶりだ。」
まあそれはいいとして誰だ?羽澤か…さすがに出るか。
「もしもし?」
「お!やっと出たあ!寝るにはさすがに早いんじゃない?」
「考え事してたんだよ。」
「へぇ、考え事なんて魁紀にしては珍しいじゃん。」
うわー1発殴りてぇ…
「で、なんか用か?」
「用がなかったら電話かけちゃいけない?」
「いやそんなことないけど、なんも無いなら電話かけなくない?」
「ふーん、魁紀はそうなのかもしれないけど、私は理由が特になくてもかけたいと思ったらかけちゃうな。」
なんだよそれ…
「よくわかんねぇけど、声からして元気そうで良かったよ。鬼寅も相変わらずな感じか?」
「相変わらずな感じってなによ!」
「ってなんで聞こえてんだよ!」
「あぁごめんごめん、スピーカーにしてた。」
なんだよそれなら最初に言ってくれ頼むから…なんか心配してるみたいで恥ずかしい…
「あ、ありがとうね…気遣ってくれて…」
「真由ちゃんも久しぶりに魁紀の声聞けて嬉しいもんね!」
「そ、そんなことないわよ!もういいわ!寝る!」
「あぁ拗ねて部屋に戻っちゃった…」
仲がよろしいようで何よりだ。
「じゃあ俺はそろそろ寝るよ、羽澤も明日頑張って。」
「うん!ありがとう!魁紀も頑張って!おやすみ!」
「おやすみー。」
唐突にかかってきたのはびっくりしたけど、たまにはこういうのも悪くないな。難しいこと考えてても、声を聞いたら少し落ち着いてきた。
「頑張ってか…頑張るよ。」