第百五十一集 招集
1月9日 9:00 任田高校 1年5組教室
冬休みが終わり、再び始まる学校生活。俺は期末テストの存在を初詣の日に思い出して、その勉強に追われている。
「おはようおまんら、ちょっと大事な話があってのう、ちゃんと聞け。」
始まって早々嫌な雰囲気、面倒事はさすがに嫌なんだけど…
「世間には出回っとらん情報じゃけ、口外無用で頼む。2日前、洛陽刑務所から脱獄者が出た。」
おいおい物騒すぎるだろ、洛陽つったら大阪か、大阪ならそんな近いわけじゃないし、俺らが気にする必要ないでしょ。
「脱獄者の名は慈心、もともとは坊さんじゃったが、戒律を破って破門になった男じゃ。」
俗に言う破戒僧ってやつか、字面だけはかっこいいけどやってる事は普通にやばい人。でも名前が慈心なら優しそうな雰囲気あるけどなぁ。
「破門になった原因じゃが、妖魔を食って半妖になったからじゃ。収監された時はまだよかったんじゃが、脱獄した時はもう人間としての意思が残っちょらんかったらしい、遭遇した時は許可を待たずに討伐にあたってくれ。」
そもそも出会わないだろ、ここ神奈川だぞ。
「そこでじゃ、今回の件で招集がかかっちょる奴がうちのクラスにおる。」
すげぇな、特別討伐依頼ってやつだろ?確か。誰だ?そんなハズレくじ引くやつ。
「魁紀、2組の小戌丸と午上と明日から京都に向かってくれ。万が一期末試験までに帰って来れんくても安心しろ、進級はさせちゃる。」
え…おれ…?
「すげぇじゃん魁紀!」
「うちの魁紀くん凄いでしょ!」
放心状態の丑崎に対して、本気で感服している新井に、妙に自慢気な南江であった。
「先生、それって同伴とかは認められますか?」
「申し訳ないが幽奈、それは無理じゃ。これは十二家で決まったことじゃ、わしですら口出しはできん。」
十二家が決めたこと…?え?なんで俺?豪は?鬼寅は?あと子浦と卯道もいるじゃん。
「そういう訳じゃ魁紀、諦めて明日から京都へ向かえ、監督役の吉留亜香梨さんがいろいろ面倒を見てくれることになっちょる。」
「わかりました…それはそれとして、なんで京都なんですか?洛陽刑務所は大阪にあるんじゃなかったんですか?」
「最後の目撃情報が京都だったからじゃ、宿泊する場所も既に手配済みじゃ、あとは頑張れ。」
あとは頑張れって…そんな他人事みたいに…って他人事か…
「話は以上じゃ、魁紀に関しては今日は好きなタイミングで帰ってよし、明日の為に準備しろ。ほんじゃあな。」
葉月はそのまま教室を出ていき、静まり返る教室。
「ここで丑崎選手、今のお気持ちをどうぞ。」
新井が煽るように丑崎の元へ走っていき、そう訪ねた。
「そうですね…とりあえずストレス解消のため、1発顔面をぶん殴らさせてもよろしいでしょうか?」
「いやー俺も行きたかったなー京都!おいでやすーなんてな!」
「やっぱマジで殴らせろ!いや斬らせろ!!」
「や、やめなよ魁紀くん…!」
「止めるな通!このイライラを今ぶつけなければ!!」
細矢が全力で丑崎を掴んで止めるが、まったく止まる気配はなかった。
「夏。」
「え?」
「炎呪符・焼。」
「ああああああああっつあっつ!!」
五十鈴の陰陽により、新井の体が燃え始めた。
「丑崎さん、失礼しました。これでどうか夏を許してあげて下さい。」
いや、さすがにそれはちょっとやりすぎじゃない?なんか炎も赤色じゃなくて青色だし火力上がってない?死んじゃうよ?
「それはいいんだけど、とりあえず水かけてあげた方がいいと思うよ…」
「ありがとうございます、水呪符・流。」
新井の頭上から水が流れ、無事に消火した。
「あぁ…死ぬかと思った…」
「夏、次はありませんよ?」
「はい…冗談が過ぎました…」
なんだろ、主従関係が成立してしまってる気がする。
「丑崎さん、大変かと思いますが、頑張って下さい。」
「「魁紀頑張れ!!」」
クラスのみんなから応援される丑崎であった。、
「はぁ…ありがとうなみんな、めんどくせぇけど頑張ってくる!じゃあ先に帰らさせてもらうよ!」
「魁紀!」
丑崎が教室を出ようとしたところ、羽澤が呼び止めた。
「どした?」
「頑張ってね。」
ドクンッ
まただ、鬼寅の時と同じ感じの…ただちょっと違うような…羽澤が可愛く見えたとかじゃない、でもなんだ…よくわからん…
「ありがとう!」
いうてまた後で家で会うんだけどな…
「「ひゅーひゅー!」」
やかましいやつらだ…
さてと、とりあえず帰って必要なものだけ準備しようかな。
「丑崎さーん!」
「お、小戌丸!」
「正で大丈夫です!今回はよろしくお願いしますね!」
「俺も魁紀で大丈夫だ!こっちこそよろしく!」
そうか、正も招集かかってるんだったな。
「なんであたしまで招集かかんのよ、めんどくさすぎるっしょ。」
「まあまあ蘭さん、そう言わずに。」
午上もいるんだったな…話すのほぼ初めて…というか怖くて話しかけられない…
「脱獄者なんてとっとと捕まえて早く帰るから、足手まといだけにはならないでよね、あんたら。」
「「はーい。」」
こっわ。
「そんじゃあたし帰るから、またね。」
「はい、また明日!」
「またなー。」
ホントギャルって怖い、金髪にムチとか雰囲気出しすぎだろ。
「じゃあオイラたちも帰りましょうか、明日からはよろしくお願いします!」
「おう!またな!」
さてと、頑張りますか。
1月10日 8:00 新横浜駅
集合時間に新横浜駅に来ると、既に午上と正がいた。
「ちゃんと時間通りに来たな、男にしてはちゃんとしてるじゃん。」
「重大な任務ですからね、遅れる訳にはいきませんよ。」
「そういや今回は俺ら3人だけなのか?」
「もう2人いるのですが、既に現地に到着してるとの事ですので、合計で5人ってことになりますね。」
5人か、そう聞くといつもより少なく感じるけど、少ない人数の方が大事になりにくい、納得。
「では行きましょうか!」
「なんで正が仕切ってんのよ。」
「クラスでもいつもオイラなんですけどね!」
あの5人の中だったら正が1番まともそうだしそうなるだろうな…
そういえば、あと2人いるのか、んで既に現地にいると…待てよ、京都だろ?大阪のすぐ近くだろ?嫌な予感が…
10:15 京都駅
「なんで犬がここおんねん!わし聞いてへんぞ!」
「なるほど…だからもう2人が誰なのか教えてくれなかったのですね…邪魔だけはしないでくださいね猿。」
「あぁん?どの口でほざいとるんやボケ、おどれがわしの邪魔せんように気ぃつけるんや!」
「でしたら邪魔になりそうなので今ここで排除させていただきます!」
「上等やはよかかってこんかい!」
「あなたたち、今すぐ止めなければ、私の蛇眼で石にしますよ?」
まさかのもう2人は申喰と巳扇だった…巳扇はともかく、酉脇無しで申喰と正を組み合わせるのは悪手だろ…
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