第百四十八集 冬休み
12月20日 15:30 任田高校 1年5組教室
「明日から冬休みが始まるわけじゃが、各々鍛錬を忘れんように。任務成績上位者は特に、冬休みじゃろうが任務依頼は来る、常に任務に行けるように準備しておくんじゃ。」
ようやく始まる冬休み、相馬の一件以来割と平和に過ごすことができた、めでたしめでたし。
「一応任務成績上位者の発表もしとくか、上から魁紀、幽奈、琴里、遥、龍太郎、茉己、夏、圭、朋実、寿寧の10人じゃ。2ヶ月前の歌姫事件と3ヶ月前の貴族事件に関わったやつらが多少評価が高めじゃが、魁紀、幽奈の2人は特に2つの事件と通常任務でも色んな人から評価を貰っちょる。それに比べ琴里は2人以上の任務評価を貰っちょる。卒業後の進路に関わるもんじゃから、他のみんなも頑張るんじゃ。」
事件はまあ、なんか知らんけど巻き込まれて、流れで活躍できただけだからただ単に運がよかった。それに比べて羽澤と五十鈴は単純に通常任務の評価がめちゃくちゃ高いんだろうな、人当たりもいいし、妖魔討伐だけじゃなく他の任務でも相当活躍したんだろうな。俺知らない人に声かけたりとか苦手だから尊敬するよ。
「ほんじゃ以上じゃ、冬休みであってもハメ外しすぎんようにのう、解散!」
「魁紀!帰ろ!」
「おう。」
17:00 自宅
冬休みはどうしよっかなぁ、特にこれといって予定も無いし、やりたいこともない。うーん、引きこもってゲームでもするか。
「魁紀!あっそぼーあっそぼー!」
「鷹取、もう学校見学とっくに終わっただろ、なんでまだうちにいるんだよ。」
鷹取は文化祭が終わって、退院した後はしばらく中学の方で報告やらなんやら色々あったけど、結局気づいたらまたこうして戻ってきていた。
「そんなの…花嫁修業に…決まってるじゃん…」
ちょっと照れながら言うのやめろこいつ。
「自分の学校の方はいいのかよ。」
「こっからそんな遠くないし大丈夫!むしろ実家より近いから逆に嬉しい!でもそんなことよりも魁紀と一緒にいられるからもっと嬉しいな!」
「左様でございますか…」
来年からこいつもうちの学校に入学するだろうから、もうこの家から出ることないんだろなぁ…
「ところでさ魁紀、冬休みは何も予定はないの?」
「ないな。」
「じゃあ24日デートしようよ!」
「「待った!!」」
鷹取の言ったことを聞いた瞬間、羽澤と鬼寅が丑崎の部屋に飛び込んできた。
「その話、私も考えてたんだよねぇ。」
「わ、私もそうだわ、魁紀と行きたい場所があるんだもの。」
あぁ…また話がややこしくなってきた…
「私が1番早く魁紀のこと誘ったんだもん!だから私が1番優先されるの!!」
「いいやそんなことないよ、魁紀はまだ返事してないから。」
うーん、ここは俺が何かまとめられそうなことを言えたら…あっ、あそこでいいじゃん、4人ならちょうどよく遊べるし。
「じゃあ俺から提案だ、テイスニイランドに行こう、俺たち4人で。これなら文句ないな?」
「「異議なし。」」
よし、今どきのJKとJCならテイスニイランドという単語に引っかからないわけが無い、ちょうど俺も久しぶりに行きたかったし一石二鳥、いや、一石四鳥くらいはあるな。
「じゃあ決まりだ。当日楽しもうぜー。」
「たまにはいいこと言うじゃん。」
「見直したわ魁紀、楽しみにしといてあげるわ。」
「2人っきりでデートしたかったけどテイスニイランド行くなら仕方ないね!」
そして3人はなんやかんや楽しそうに話しながら部屋を出ていった。
「最初からそんな感じで仲良くしてくれりゃ楽なのに。」
「「なんか言った?」」
「何も言っておりません。」
今の小声で聞こえるとか地獄耳すぎるだろ3人とも。
でもまあ、これを機に覚悟を決められると、俺もまた成長できるのかな。
12月24日 8:00 東京テイスニイランド
迎える当日、早朝も早朝の時間に起こされて出発し、さらには現地で2時間も待ち、今やっと列が動き始めた。
「楽しみだね!」
「テイスニイランドとかいつぶりかしら。」
「まずはスペースギャラクシーに乗ろう!」
「人多くね…?」
いや確かにクリスマスイブだし、冬休み中だから学生も多いし、家族連れも多い。にしても多すぎねぇかこれ、早く起こされた理由が何となくわかったわ。
「人が並びそうなところからとりあえず乗ってこう。」
「そうね、仕方ないから最初はスペースギャラクシーに乗ろうかしら、仕方ないから。」
「大丈夫だよまゆちん!無理しないで待っててもいいんだよ?」
「そ、そんなことないわよ!ほら、行くわよ!」
あいつ、本当に強がってるだけなんじゃ…お化け屋敷であんな感じだったし…
8:20 東京テイスニイランド スペースギャラクシー
早めに来たおかげですぐに乗れそうだ、乗れそうなんだが…
「鬼寅、なぜ手を握っている。」
「ああ!まゆちんだけずるい!私も握る!」
「あっ、私も握りたかった…なんで魁紀腕2本しかないの?」
「そら2本しかねぇだろ。ていうかこの状況どうにかしてくれ、歩きづらい…」
「ふーんだ、しーらない。」
なんで拗ねてんだよ…
「おい鬼寅、もう乗るぞ、そろそろ手離してくれ。」
「うう…」
やっぱ怖がってるじゃねぇか、さっきの勢いはどこに行ったんだ…
「しょうがねぇ…鷹取、羽澤と先に座ってってくれ。」
「仕方ないね、ゆなゆな!一緒に座ろー!」
「うん、今回は譲るね、真由ちゃん。」
前にいた鬼寅と丑崎が後ろに下がり、羽澤と鷹取が前に出た。
「怖かったなら無理して乗らなくてもよかったのに。」
「し、仕方ないでしょ…あんな風に言っちゃったんだから…怖くても、やりたいことがあるのよ…」
「そうか。じゃあちゃんと安全バー掴まってなよ。」
「嫌だ、魁紀の腕掴まってる。」
こりゃ引き下がりそうにねぇなこいつ…
「わかったよ。」
お化け屋敷での一件以来、普段の鬼寅とは違う一面を見たからか、鬼寅が時々かわいく見えてしまう。普段はあんなにツンツンしてるのに、実はこんな弱々しい一面もある、これってもしかして俗に言うギャップ萌えってやつか…つまり俺は鬼寅に萌えを感じてると…いやないない、さすがにない。ただなぁ、それじゃこの前の心拍数は説明できないんだよな、やっぱある程度は鬼寅に対して好きって感情があるのかな。
ただこれで言うなら羽澤に対しても同じなんだよな、普段からめっちゃ世話になってるし、助けてくれるし、ほっぺに…ああああああやめだやめだ!!
「どうしたのよ魁紀、頭抱えちゃって。」
「あっ、大丈夫だ、少し頭が割れそうになっただけだ。」
「ふん!やっぱり私が手を握ってあげないとダメそうね、感謝しなさい。」
「へいへい。」
調子がいいやつめ。
この後、丑崎は予想だにしないだろう、鬼寅が思ったよりも阿鼻叫喚になることを。