第百四十七集 後夜祭
10月31日 15:00 任田高校 1年5組教室
文化祭2日目もほぼほぼ終了、残されたイベントはあと後夜祭だけ。
だがその前に、もう1つイベントを挟むことになった。
「大谷さん、一応皆さんを集めましたが、これから何かするのですか?」
15時に教室に集まるように五十鈴から連絡が来た訳だが、どうやらそれは大谷からのお願いだったらしい。
「ありがとう琴里、まあちょっとした罰ゲーム、的な!」
だいたい予想がついた、ニヤニヤしながら観戦するとしよう。
少しザワつく教室に、1人の男が入ってきた。
「みんな!ちょっと静かにしてくれ!大事な話がある。」
その男とは…そう、本日退院した田口龍太郎である。
「朋実、前に出てきてくれ。」
「うん…」
おっと、これはこれはやはり病室での続きが見れると言うやつですかな?
「龍太郎頑張れ!!」
「なんだかよくわかんねぇけど行けぇ!龍太郎!」
「龍太郎くんがんばー!!」
「「龍太郎がんばれー!!」」
丑崎、新井、南江に続いて、クラス全員が謎の応援を始めた。
「静かに!!」
田口が片手を上げて叫ぶ。そして静まった教室の中、教壇の上で互いに見つめる大谷と田口。
「朋実、ずっと言えなくて、ごめん…ちゃんと全部終わったから、今みんなの前で覚悟決めて言うよ…」
「うん…」
「ガキの頃からずっと好きでした、いつも俺を支えてくれて、いつも隣にいてくれて、何事も1番最初に駆けつけてくれて、ありがとう。」
「うん…!」
田口の言葉を聞き、大谷は少し涙を流した。
「俺と、付き合ってください…」
田口は頭を下げ、大谷に手を差し伸ばす。
「うん…!!遅いよバカ!!」
大谷は泣きながら田口に抱きついた。
「「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」」
「よくやった!龍太郎!!」
「いよ!!龍太郎かっこいいぞぉ!!!」
「朋実ちゃんもおめでとう!!」
龍太郎は凄いな、ちゃんと覚悟決めて思いを伝えられたんだもんな。それに比べて俺は…2人…いや3人か…3人を待たせてんだもんな…
「盗み聞きするつもりはなかったんじゃが、よう言うた、龍太郎。」
「な!?葉月先生も聞いてたんすか!?」
ガラガラとドアを開けて、葉月が教室に入ってくる。
「んなもん教室が騒いちょったら嫌でもわかるわ。ほんじゃめでたいこともあったわけじゃ、明日は休み、今日の後夜祭が終わったら、わしの奢りで討魔酒場で飯じゃあ!!」
「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」
うおぉぉぉ!!ありがとう龍太郎!!ありがとう大谷!!ありがとう葉月先生!!
「そしたら後夜祭の前に片付けじゃ!できる所まででいい、終わらせられるならなおよし!かかれ!」
「「わかりました!!」」
こうして、大谷と龍太郎は晴れてカップルとなり、クラスのみんなに祝福されるのであった。片付けも葉月先生のおかげで順調に進み、後夜祭が始まる時間前になんとか終わらせることが出来た。
そして迎える後夜祭。
16:30 体育館
後夜祭はクラスで並ぶとか、整列して並ぶ必要が無く、基本的に自由席である。
俺はめちゃくちゃ騒ぎたいやつらとは混ざりたくないから、こうしてステージから1番遠い反対側の壁側に立っている。
と見せかけて実は楽しんでるみんなとは別で後ろで腕組んで壁に寄りかかって、ふっ、楽しそうでなによりだって呟きながら見ようと思ったんだけど…
「ねぇ、魁紀は前に行かないの?」
「俺はここがいいんだよ。」
「恵のライブ次いつ行けるか分からないのよ?今なら私がついていってあげるわよ?」
「だから大丈夫だって。」
「魁紀!前に行こうよ!」
「だから……なんでお前らわざわざここにいるんだよ!」
羽澤に鬼寅に鷹取…なんで3人してここに…
「前で見たかったら3人で行ってきていいんだぞ?」
「魁紀と2人で見たいなー。」
「魁紀と2人で見たいのよ…」
「魁紀と2人で見たい!」
うんんんんんんんんんんん………
「わかった、ここで見る。」
「じゃあここにいるね。」
「じゃあここにいるわ。」
「じゃあここにいる!」
うーん……
まあ、もういいや…だいたいこうなってるの俺のせいだし…
「お、そろそろ始まるぞ。」
「皆さん!お待たせしました!これより、後夜祭を始めます!なんとなんと!かの歌姫、相馬恵さんが来てくださいました!相馬さん!よろしくお願いします!」
最後に相馬に会ったのはもう5日前になる、あれから特に何事もなく、前に進められたらいいんだけど。
「はーい!皆様!こんにちはーー!!」
「「こんにちはーー!!!」」
「相馬恵です!今日は任田高校の皆様に会えて、私とても嬉しいです!」
パッと見元気そうだな、よかった。
「諸事情でしばらく活動休止していましたが、本日を持ちまして活動復帰です!」
「「おおおおおおおお!!!!」」
「復帰って言ったってどうやって?」
サポートスタッフとかは大丈夫としても、亡くなった佐曽利さんの代わりになる人はなかなか見つからないでしょ。
「それなら問題はないわ。十二家のそういう分野が得意な方が恵のバックにつくことになったわ。」
「なんなのその話知らないんだけど…」
「魁紀はそういうの興味ないからじゃないかしら。」
「そうかも知んないけど今回のこと俺関わってるし…」
でも本当にそうなら安心だな、俺たちが間接的に相馬をサポートできる立場になったってわけだ。
「これも私を助けてくれた色んな方やファンの皆様がいてくださったからです、本当にありがとうございます。」
気のせいなのか、相馬は俺たちの方に向かって頭を下げたように見えた。
「では早速!行っきますよー!!君に。」
「♪私は、何をしていたんだろ」
「♪私は、何か君にしてあげられたんだろうか」
「♪君は、私のために尽くしてくれた」
「♪君は、私にたくさん与えてくれた」
「♪私が、君にできることは」
「♪君の、そばにいること」
「♪数え切れない君との思い出」
「♪君が欲しい、君が好き、君を愛してる」
「♪君に…ありがとう」
「ねぇねぇ魁紀!今恵ちゃん私たちのこと見て歌ってなかった!?」
サビの最後のところで、確かに相馬の視線を感じたような気がする。
でもきっと気のせいだ、タダで相馬の歌が聞けるんだ、もうこれ以上感謝されることはないよ。
ただどうしても1つ言いたい。
「やっぱ相馬かわいいな。」
「バカ。」
「アホ。」
「魁紀。」
「魁紀は悪口じゃねぇだろ。」
後夜祭はまだまだ続く、盛り上がるみんなとは反対に、俺たちはただ静かに見守った。
相馬はまたここから新しい歌生活を始めた、龍太郎と大谷もまたカップルとしての生活を始める。
俺も彼ら彼女らを見習って、この3人とちゃんと向き合う生活を始めなければならない。情けない話だが、俺にはその義務がある。龍太郎が覚悟を見せたように、俺も…ああ、考えるだけで嫌になってくるな…でも頑張ろう。
血濡れの歌姫編は以上で終了です!
今回の話だけで終わるまでほぼ2年もかかってしまいました…
今後はまあ…ちゃんと頑張ります…!
次の話もお楽しみにしてください!