第百四十四集 お化け屋敷
10月30日 8:00 自宅
今日は文化祭1日目、地獄のダンス特訓に耐えて耐えて耐えて、俺たちは凄まじいダンサーになった…に違いない…なってるはずだ、そうでないとおかしい。そうでないとこの体の疲れに説明がつかない、ええい!まったく動かんぞ!
今日と明日もういいよな、文化祭本番サボって後夜祭だけ誰にも気付かれないように出席して相馬の歌を聴いたら速攻で帰る、これで行こう。
まずは羽澤と鬼寅が起こしに来るだろうから、体が痛いから動けな〜いって言って何がなんでも休まさせてもらおう。
「魁紀ー、朝ご飯だよー。」
「おお、先に食べてて。」
「どうしたの?元気ない?風邪?」
「体が痛いから動けねぇ…だから今日学校休むわ…」
「へーそれは大変だね、ご飯も食べれる状態じゃないだろうからあーんしてあげるね。それで飲み込むのも大変だと思うから喉の奥までご飯を突っ込んで食べさせてあげるね!楽しみだなー!」
羽澤はルンルンな気分で部屋を出て行った。そして同時に、丑崎は自分の命の危険を感じて、物凄い速さで布団から出た。
「おまたせしました、ちゃんと自分でご飯食べます。」
怖すぎるだろこいつ、マジでやる目してたぞ。
「あれ?せっかく食べさせてあげようと思ったのに、残念。」
残念じゃねぇよ、あと変に笑顔なのもやめろ、笑えねぇんだよこっちは。
「早く食べてね、今日は準備すること多いから。」
「え?なんかやることあったっけ?」
「え、魁紀聞いてないの?私たちの出番最初だからちょっと急がないと時間に間に合わないよ?」
初めて知った…
「さては遥ちゃん何も言ってなかったなこりゃ…まあそんなわけだから、食べたらすぐに行くよ。」
「了解だ…」
「そういえば真由ちゃんのクラスなにやるの?」
そういえば聞いてなかったな、なんやかんや色々付き合ってもらってるけど、2組が何をやるか何も知らないな。
「私たちはお化け屋敷よ、魁紀、一緒に回る約束だったこと、忘れてないわよね?」
「約束というか回る権利を与えるとか言ってなかったか?」
一方的な約束は約束とは言わないんですよお嬢様。
「いいから一緒に回るのよ!うちのクラスのお化け屋敷で存分にビビりなさい!」
これは行かなきゃダメな流れだな…
「わかったわかった、出番終わったら行くよ。」
どうせ他にやることもないし、いっか。
9:00 任田高校 体育館
「皆さん、今年もいよいよ文化祭が始まります、年に一度の祭りですので、思う存分楽しんでいってください。3年生の皆さんは最後の文化祭となります、毎年言っていますが、問題が起きない範囲で、文化祭をお楽しみください。」
問題が起きない範囲ってなんだよ、まるでいつも問題が起きてるみてぇじゃねぇか。
「校長先生、ありがとうございました。続きまして生徒会長、辰仁さん、よろしくお願いします。」
「はい、私からは1つ。3年生諸君はお分かりになっているでしょうが、毎年3年生が楽しみすぎて怪我人が出ています。何故かはわかりませんが、何故かそうなってしまっているのです、諸君もこのことを肝に銘じて文化祭に臨むように、以上です。」
マジでなんでだよ、怪我するほど盛り上がることあるのか?
「辰仁さん、ありがとうございました。では!これから文化祭が始まるわけですが、その火蓋を切るのはこのクラスです!」
さてと、今までどこにいたかと言うと…そう、ステージ裏だ。
「どうも皆さん、おはようございます、1年5組の五十鈴琴里と申します。早速ですが…皆さん!準備はできてますか!」
五十鈴から出たとは思えない声量、あいつそんなタイプのキャラだっけ??
「「うぉぉぉぉぉおおおお!!!!」」
「文化祭を盛り上げる態勢を整えましたか!」
「「うぉぉぉぉぉおおおお!!!!」」
「では私たちのダンスで、是非盛り上がっていってください!ミュージックスタート!」
冬のおかげで最初と比べてらだいぶ様になったな。高校での初めての文化祭で初めて踊るダンス、しかも大勢の人の前で…緊張はするけど、なんだかんだ楽しいな。踊ってれば疲れたよりも、楽しいって思えてくる。たった数分間のことかもしれないけど、一生の思い出になるなこれは。
文化祭がようやく始まる。ダンス開始と同時にクラスへ戻り、準備を始める者もいれば、そのまま体育館に残り、ダンスを楽しむ者もいる。皆はそれぞれ、将来の自分のための思い出作りを始めていくのであった。
10:00 任田高校 1年2組教室前
だが、必ずしもいい思い出になるとは限らない。丑崎もまた、その1人になるのかもしれない。
「なぁ鬼寅、本当に入らなきゃダメなのか?」
「そうよ、コースは私が案内してあげるから、感謝しなさいよね。」
これじゃビビるの俺だけじゃん…こいつコース知ってるってことはどこがビビるポイントなのかも分かるってことじゃん、単に俺が恥を晒すだけになってしまう…
「ほら、次入るわよ。ビビりすぎて漏らさないでよね。」
「漏らさねぇよ。」
でもビビるもんはビビる、こういうの苦手だし…
「はい次!お、カップル入りまーす!」
誰がカップルじゃ。
「カカカ、カ…カップル…」
少し受付の言葉が気になる2人だが、そのまま暗い教室、もといお化け屋敷に入っていった。
ちょっと、暗すぎやしませんか?なんも見えないんだけど?
「え、なんで、知ってるコースと違うわ!」
「うっそだろお前、記憶違いなだけじゃないの?」
「そんなことないわよ!本当に昨日用意されてたコースと違うのよ!」
えぇ…
「とりあえずどうする?一旦出るか?」
「ヒッヒッヒッ、そうはいきませんねお客様方、一度入りましたら、終わるまで出られないのがルールでございますので。」
暗い中で子浦の声がした。なるほど、さてはこいつらが黒幕だな?
「だってよ。ほら鬼寅、行こうぜ。鬼寅?」
「な、なんで…こんな…」
泣いてる!?嘘でしょ!?
「ちょちょ、おい大丈夫か鬼寅、らしくねぇじゃねぇか。」
「う…うるさいわね!」
「まさかお前、こういうの苦手だろ。」
「う…うん…」
やっぱりかぁ…よりにもよってお化け屋敷苦手なやつ2人でお化け屋敷回るとかホラーだろ。
「んじゃほら…手出せ。」
「え…?」
「え?じゃねぇよ、こっちも恥ずかしいんだから。手繋いでおけば多少は心強いだろ?だからほら、早く。」
「うん…」
丑崎は鬼寅の手を取り、前に歩き始めた。
「マジで暗いな、足元気をつけろよ。」
「きゃっ!!」
「どうした!?」
「あ、足を掴まれたわ…」
やめてくれよ…そういうのが1番怖いんだって…
「そうか、まあとにかく早く進もうか。」
多少走ってもいいでしょこれ、鬼寅には悪いけど早くゴールするぞ。
「おい、お化け屋敷の中で走ってんじゃねぇよ、打たれてぇのか?」
暗い中から午上の声がした。
んだよ対策してくんなよ…
「鬼寅?進めそうか?」
「うん…大丈夫…」
大丈夫じゃなさそうだけどな…
したら次は曲がるのか?てか分かれ道だな、どっちに行くべきか…
「右に進むのです…右に進めば、あなた方に幸運が訪れるでしょう。」
この声は小戌丸か!助かる!やっぱ信用できるのは小戌丸だけだ!
「鬼寅、右に行くぞ。」
「うん…」
完全に意気消沈モードだな、さっきあれだけ生き生きしてたのに。
「う、うらめし、やーー…」
「うわぁっビックリしたぁ!!」
「す、すみません…」
「なんだ卯道か…」
リアル貞○3Dだろこんなの、どこまでリアルさ追求したらこうなるんだよ。それより小戌丸のやつ、何が幸運が訪れるだ、もう二度と信用しない。
「真由ちゃん、頑張って。」
「ま、まさか結菜、これ全部豪がやったんじゃないでしょうね!」
「真由ちゃんには何も言わないでって言われてるから、何も言えないかな…」
それ答えてるようなもんだぞ…それよりやっぱり豪か…
「あいつぅ!!」
「落ち着け鬼寅、とりあえずゴールまで行くぞ。」
「う、うん…」
鬼寅は両手で丑崎の手を握った。
「あの、手繋ぐの片手で大丈夫だと思うんだけど。」
「うるさいわね、私がこうしたいからこうしてるのよ!」
「あ、はい…」
両手だとこっちが歩きづらいんだよな…少しはこっちのことを…考えてくれるやつじゃねぇな…
2人はしばらく歩いていると、少し広い場所に出た。
「そろそろゴールか?」
「あっはっは!!待っていたぞ!姫を連れ出そうとは、飛んだ不届き者であるな!」
真っ暗だった部屋が突如明るくなり、変なマスクを被った怪しい者、もとい辰仁豪が腕を組んで立っていた。
「おい豪、何してんだ?お化け屋敷だろ、明るくしてどうすんだ。」
「我らから姫を奪うなど言語道断!ここで切り捨ててくれる!」
「おい待て待てそういうノリじゃないだろお化け屋敷は!」
「問答無用!切り捨て御免!!」
朝に姉が話してたこともう忘れたのかこいつ、問題を起こすなって言ってただろ!しかもこんな狭い場所で刀振り回すとかどういう神経してんだ!
「鬼寅ちょっと下がってろ!」
切りかかる辰仁に合わせて、丑崎もまた大太刀を抜き、応戦する。
「やるな!しかしまだまだ!」
「なんなんだよお前!」
辰仁は更に切りかかるが、丑崎に押し返される。
「うああああ!!見事だ…その実力なら…姫はお前に任せられる…バタッ……」
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