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干支十二家妖魔日記  作者: りちこ
血濡れの歌姫編
152/193

第百四十二集 見舞い

  10月26日 10:10 東京兎月病院 病室(男)


  いやはや、俺は朝から何を見せられてるんだ…


  「ここで私に再起不能にさせられるかみんなの前で言うこと言うか選んで!」


  「なんでそんな2択になるんだよ!」


  「龍太郎が約束守らなかったから!」


  この状況において悪いのは龍太郎だ、自分で言ったこと守れてないわけだから、なんなら俺もその場にいて聞いちゃったしな。


  それよりどうしよ、お見舞いに来たのに修羅場に来てしまった、ここはそっと帰るのが正解かな。


  「魁紀君もなんか言ってやってよ!このハゲに!」


  「ハッ…ハゲ……」


  「気付いてたのかよ…」


  「気付かないわけないでしょ、人の気配には敏感なんだから。」


  なんだ、喧嘩に夢中で気付いてくれなくてもよかったのに。


  「それよかハg…じゃなくて龍太郎は大丈夫なのか?」


  「今ハゲって言ったか魁紀!お前に言われる筋合いはない!」


  「うるさいハゲ、怪我人は大人しく寝てて、ね?」


  「はい…」


  うーん、大谷強い。


  「とりあえず2週間は入院するみたい、妖気は花怨にめちゃくちゃ使われてたし、無茶な戦い方してたせいで体のあちこちが大変なことになってるみたい。でも私が付いてるから、龍太郎のことは任せて。」


  「そっか、さっきのやり取りを見るからに2人とも元気そうだしよかった。じゃあ俺鷹取と冬のとこ行ってくるから、またあとでな。」


  「うん、またね。」


  「また…な…」


  声が死んでるんだよなぁ…


  「そうだ龍太郎、1つ言うことがあった。」


  「なんだ?」


  「頑張れよ。」


  ニチャァ。


  「おい!何を頑張れってんだ言ってみろ!にやけてんのが聞こえてんぞ!!」


  「おいハゲ、寝てろ。」


  「お邪魔しましたー!」


  いやー、楽しい、他人事だから凄い楽しい。


  10:20 東京兎月病院 病室(女)


  「おっ!魁紀さん!ちっす!」


  「魁紀ぃ!お見舞いに来てくれたんだ!うれしいな!うっれしいなー!」


  「あ、元気そうならいいや、お大事にー。」


  「「ちょっとぉ!!」」


  やっぱ元気じゃん。


  「なんだ?次相馬のとこ行かないといけないから元気なやつらに構ってる時間はそんなに多くねぇぞ。」


  「あ、それは仕方ないですね。」


  「えぇぇもっと構ってよー!」


  めんどくせぇ…


  「冬はともかく、鷹取、右腕やられてるんだろ?ごめんな、かばってくれたからそんな怪我負わせてしまった。」


  「いいんだよこんくらい!私がそうしたくてやったことなんだから!それとこういう時はごめんじゃなくて、ありがとうがいいな!」


  そうか、謝ってると辛気臭くなるもんな。


  「そうだな、ありがとう、おかげで助かった。」


  「うんうん!どういたしまして!」


  めんどくせぇやつだけど、話してると元気出てくる。


  「じゃあ行ってくる、2人ともお大事にー。」


  「またどこかで!」


  「まったねー!!」


  さてと、問題は次だ。


  10:30 東京兎月病院 病室(特別室)


  「遅くなった、どんな感じだ?」


  「遅い。」

  「遅いわよ。」


  こういう時だけ仲良いなお前ら。


  「丑崎様…」


  「どうした?体の具合とか大丈夫か?」


  「はい…お陰様で体の調子はすごく良くなりました…」


  さすが薬守さん、卯道家随一の腕は伊達じゃねぇな。


  「さっきまでは泣きっぱなしだったんだけど、真由ちゃんと2人で話して、少し治まったところだよ。」


  「むしろ遅くてよかったわ。」


  はいはいすみませんねそれは。


  「で、これからどうするんだ?」


  「わ、私はともかく…佐曽利様は…どうなるのですか?」


  「たぶんこれからずっと警察の世話になるだろう、もう一度相馬のプロデューサーになるってことはない。」


  「そう…ですか…佐曽利様…」


  こういう時、現実を突きつければいいのか、少しでも希望を持つような言葉をかければいいのか、未だよくわかんねぇな。


  希望を持たせて、その後そうならなかった時の絶望は想像できたもんじゃない。だから予め現実を知ってれば諦めもつく、少なくとも今の俺はそう思う。


  「佐曽利様は私と一緒に歩いてくれた光だったんです…幼い頃両親を失った時、佐曽利様が手を差し伸べてくださいました。私も一緒です、よかったら一緒に歩きませんか、と…」


  そういえば佐曽利さんが言ってたな、妻と2人の娘を奪われたって。


  「私は歌うことが好きでした、佐曽利様は私の声をもっと色んな方に届けるべきだと言い、歌手になることを目指しました。いつかは、私たちは恵まれた環境で幸せに生きてきたって言えるように、必死に駆け抜けて来ました。ですがいつの間にか、佐曽利様の目標が変わっていきました。」


  「アンチの排除か。」


  「左様でございます…恵まれた環境にアンチは不要と考えた佐曽利様は、私がアンチの言葉で悩んでいた時に、悩む必要は無い、あとは私に任せてと言って、気が付けばライブ後に事件が起きるようになりました。」


  考えてることは分からなくもないけど、いくらなんでもやりすぎだ。


  「私も当時は嬉しかったのでしょう、佐曽利様が何とかしてくれると思い、何も気にすることなくライブを続けることが出来ました。今思えば、私が少しでも佐曽利様を止めてさえいれば、こうにはならなかったのではないかと…」


  「いや、それは。」


  (魁紀よ、何も言うな。)


  (え、あ、わかった。)


  佐曽利さん自身の意思かどうかはわからないけど、佐曽利さんに妖気を渡したやつが元凶だ。なんてことは、今は言わない方がいいか。


  「それは…?なんでしょうか?」


  「いや、なんでもない。よく考えたら関係ないことだった。」


  「大事な話してるのに関係ない話出しちゃダメだよ?」


  「空気が読めないわね。」


  「まだなんも言ってないじゃん。」


  なんか当たり強くないかこの2人。


  「でも、私知ってたんです。佐曽利様が裏でいろいろやってたことも、鷹取様に任務を依頼していたことも、警察を使って証拠を揉み消していたことも。」


  「全部知ってたのか。」


  「はい、私も共犯です。知っていたのに、何もかも知らないフリをしていました。自首をするつもりです、佐曽利様が捕まるというのでしたら、私も一緒に捕まります。」


  「そうか…」


  覚悟の上ってことだな、まったくすげぇ歌姫様だ。


  「聞きたいことも聞けたし、俺は佐曽利さんの様子見てくる。あとはお2人さんに任せた。」


  「あの、丑崎様。」


  「どした?」


  「短い間でしたが、お世話になりました。一緒に暮らした数日、とても楽しい時間でした。」


  「それはよかった!俺も楽しかった、ありがとう。またな。」

 

  「はい、またどこかで。」


  その後、丑崎は佐曽利の病室に向かったが、警備がいたため面会が拒否されてしまった。


  11:00 東京兎月病院前


  はぁ、どうしたもんかな。


  「難しい顔をしとるのう、魁紀。」


  「葉月先生、なんでここに?」


  いっつも忙しいつっていないのにここで会うなんて。


  「生徒と見学生の見舞いじゃ、担任として当然じゃろ。」


  「担任なのにいつも学校にいないじゃないですか。」


  「それを言われちゃ何も返せんわ、みんな大丈夫そうか?」


  「みんな元気でしたよ、かなり。」


  入院する必要がないくらいにね。


  「そうか、それならよかった。」


  「葉月先生、佐曽利さんと相馬はこれからどうなるんですか?」


  「そうじゃのう、佐曽利は刑務所行き確定じゃが、相馬も刑務所に入るじゃろうが、その後監視付き釈放になるじゃろうな。」


  「相馬だけなんでですか?」


  「相馬が何かをしたっていう証拠がないからのう、昨晩おまんらと戦った様じゃが、妖気を無理やりぶち込まれて戦わされとったなら罪は全部佐曽利が受けることになる。」


  さっきの話は…黙っておこうか。


  「じゃが再び妖魔化する懸念もあるから、今後ずっと監視が付く。」


  四六時中監視付きで生活しなきゃいけなくなるのか、望んでた環境とは随分と真逆な環境になっちまったな。


  「ともかくよう頑張ったのう、おまんら。さすがわしの生徒じゃ。」


  「まあそれなりにですね。」


  「ほんじゃまた学校でのう。」


  「はい、また学校で。」


  葉月は病院へ入っていき、また丑崎は1人になった。

 

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