第百四十集 佐曽利勇生 弐
10月25日 21:30 日本武道館 ステージ上
「何をするつもりだ!」
佐曽利は徐々に掴む力を強めていた。
「丑崎さんたちがいけないのですよ!私たちを追い詰めたあなたたちが!」
「自分が今何してるか分かってんのか!相馬が死んだら元も子もねぇだろ!」
「うるさい!!いいですか?近づかないでください。これ以上近づけば恵がどうなるか、もちろんお分かりですね?」
佐曽利は徐々に後ろに下がっていく。
「結局てめぇの独りよがりじゃねぇかよ。」
「同感っす、やっぱゴミはゴミ、ちゃんと片付けねぇとスッキリしねぇな。」
丑崎の後ろから田口と新井が歩き出す。
「近づくなと言っている!!恵がどうなってもいいのですか!」
「そりゃこっちのセリフだ!恵ちゃん無しでてめぇに何が出来る!」
「恵ちゃんがいないてめぇなんざゴミ以下の存在だってことを教えてやる!」
「恵のファンごときが、付け上がるなぁ!!魔妖術・怪吊人形!!私のために戻ってくるのだ!恵!!」
佐曽利はもう片方の手を上げて、相馬の頭を掴んだ。
「これ以上はやらせねぇ!酒呑妖術・酔牙狂突!」
首を掴んでる手さえ弾ければ…!
「くっ…!貴様ぁぁぁぁぁ!!!!」
丑崎の攻撃は佐曽利の手を弾いた。
「悪いな佐曽利さん、相馬はこっちで預からせてもらう!」
「返せ…!恵を返せ!私には…恵しか…!ふざけるな…ふざけるなああああああああぁぁぁ!!!」
叫ぶ佐曽利を中心に、黒い妖気が溢れ出る。
「なんだ!今度はなんなんだ!」
「魁紀さん!恵ちゃん!!」
今度はなんだよ!これ以上まだなんかあんのかよ!
(魁紀よ、彼奴の妖気が暴走しておる。時間が経てば人間に戻れなくなるぞ。)
(まじかよ…せっかく相馬を助け出せたのに今度は佐曽利さんかよ!)
(カカッ!!今更のことよ。気をつけよ魁紀、彼奴の妖気に、奴の臭いがする。)
(奴?玉藻前のか?)
(話は後だ、構えよ。)
気になることが増えるなぁ…
妖気は晴れ、晴れた所には少しだけ佐曽利の形が残った何かがいた。
「ウォォォォォォ!!!」
「随分と様子が変わったな、佐曽利さん。」
「魁紀!大丈夫か!」
「こっちは大丈夫!それより佐曽利さんから目を離すな!正気が残ってねぇ!」
妖気の暴走、人間の妖気が暴走した時、場合によっては妖魔になることがある。今の佐曽利さんがその状況だ、見た目はどう見ても妖魔のそれだが、辛うじて人間の形を残してるところもある。
妖気が暴走して妖魔になった人間が人間に戻れた事例は少ない、だからと言って諦める訳にもいかない。相馬が目を覚ました時にちゃんと人間としての佐曽利さんに合わせてやりてぇからな。
「龍太郎!冬!相馬を頼んだ!」
そう言って丑崎は相馬を2人に投げた。
「おーい投げるな!!」
「恵ちゃんをなんだと思ってるんですか!任せてください!!」
許して!
「オオオオオオオオオオ!!!!」
「暴走してるせいか、理性の欠片もないな。」
ただひたすら暴れ狂う佐曽利、丑崎を追いながら周囲を破壊していった。
これじゃまだ理性残ってくれてた方がやりやすかったな、攻撃避けるので精一杯だ。
「ここだ!酒呑妖術・酔丑斬!」
だが、丑崎の攻撃は弾かれた。
「うっそぉ!がはっ!!」
攻撃が弾かれた隙に、丑崎は殴り飛ばされた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
いてててて…あんなに硬くなるかよ普通…
(カカカッ!!してやられたな魁紀よ。)
(笑ってる場合じゃないでしょ!)
(笑うとも!もっと盛大に笑ってやるともカッカッカッカッ!若い、若いぞ魁紀よ。)
(そらまだ15だからな!)
(ならば1つ教えてやろう、もっと頭を使え。)
(そんな余裕あるわけないじゃん!)
(だから貴様は若いのだカッカッカッ!!まあそうであろうな、だが実践を伴わない成長なぞありはせん、やってみせよ。)
頭を使えって言ったってどうすりゃいいんだ?攻撃避けるのも割と苦労するのに!
まあいいや、やってやるよ。今は何で攻撃が弾かれたんだ?妖気を纏ってなかった?違うな、童子切を使ってる時点で纏ってないわけは無い。じゃあ向こうの妖気纏が1段上を行ってるのか?いや違う、妖気はさっきよりだいぶ禍々しいけど、そんな感触じゃなかったな。
だったらなんだ?わからんぞ?うーん…
(相手が水タイプなら、草タイプの技を使わないと!!)
唐突に南江の言葉を思い出した…でも理にかなってるな。斬撃で弾かれたなら、鈍器で殴れば多少は良くなるんじゃないか?
佐曽利の攻撃を避けながら、丑崎は童子切を鞘に収めた。同時に、酒呑童子の力も収まっていく。
そして大太刀の刻巡を背中から抜き出す。
「物は試しだ!」
イメージはこう、大きな金槌の様な妖気を纏う感じ…
そうして、刻巡の周りが徐々に妖気が纏って、大きな金槌となった。
「よしできた!くらえ!ただ妖気を纏った殴打!!」
「オアアアアアアア!!!」
「おっと効いてるな!効果はバツグンってとこか?もっかいだ!!」
「オアアアアアアアアァァァァァ!!!」
(酒呑様!佐曽利さんの妖気を吸ってくれ!)
(カカッ!!上出来ではないか、我に任せよ!)
佐曽利が怯んでいるうちに、丑崎は再び童子切を抜き、佐曽利に切りかかった。
「頼むぜ佐曽利さん、あんたは根は悪いやつじゃねぇはずだ!元に戻ってくれ!」
童子切は佐曽利の胸を貫き、佐曽利の妖気を吸い始める。
「ガアアアアアアアアア!!!」
上手くいってくれ…!
(この妖気の臭い…やはり…)
(酒呑様?どうかしたか?)
(いや、なんでもない。)
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