第百三十五集 花念 弐
10月25日 20:30 日本武道館外 南西側
「丑火激損!!」
丑崎は大太刀を地面の深くまでぶっ刺し、残った部分を蹴り上げると、丑火損よりも遥かに威力の高い発火を起こした。
すると罪花はいとも容易く燃えて散ったのであった。
「武術血界と言ったな、お前が使ってたのは武術血界じゃねぇ、ただの陰陽の派生だ。」
「なんだと…!彼女は確かにそう言っていたぞ、なぜだ!」
また彼女か、じゃあこの武術血界ってのもそいつから与えられた物か、だからこんなにも不完全なわけだ。
「いい加減教えろよ、彼女ってのは誰だ。」
「黙れ!言ったはずだ、答えるわけがないと。」
「めんどくせぇな、だったら力ずくで吐かせてやる!」
丑崎は高く飛び上がり、全力の握力で大太刀を握りしめた。
「丑火凄斬!」
大太刀の重さと遠心力を上手く使って回転し、広範囲の炎の斬撃を放った。
「もう一度だ!花妖術・罪花!」
今度は血界自体から黒い花びらが舞い上がり、丑崎を包もうとする。
「それじゃもう無理だ、花念。」
「なに!」
丑崎の言葉通り、丑火凄斬は近づく花びら全てを燃やしながら突き進んでいた。
「終わりだ、花念!」
「クソがああああああああっ!!!!」
斬撃は花念に当たり、そのまま地面に倒れた。
同時に、血界も少しずつ消えていくのであった。
「なあ花念、最後に教えてくれよ、彼女って誰だ。」
丑崎は倒れている花念に近づき、問いかけた。
「なんだ…僕が負けたからって…話すと思ったのか…やはり人間は考えが甘い…な…」
「じゃあ聞き方を変えよう、その彼女ってのは玉藻前か?」
花念に尻尾は付いてなかった、だからその可能性は薄いかもしれない。だがやはり童子切を狙ってるとすれば、玉藻前は切り捨てがたい。
「なぜ三大妖魔の名がここで出てくる…まあいい…それには答えよう…違う…」
「それは本当か?」
「僕を君ら人間と一緒にするな、嘘は言っていない。」
だとしたら一体だれが…
「やはり所詮は下級妖刀、少しでも期待した私が馬鹿でしたわ。」
「誰だ!」
どこかから女性の声が聞こえた、そして足音も。
「ははっ…本人から出てくるとはね…人間、彼女とはあいつのことだよ…」
「お初目にかかりますわ、丑崎魁紀様。私は長壁と申します、以後お見知りおきをお願いしますわ。」
街灯の影から和装の女性が現れる。
長壁…?長壁ってまさか長壁姫のことか。なんで戦国時代真っ最中で死んだはずのやつが今ここにいる…!
「私の部下が迷惑を掛けましたこと、誠に申し訳ございませんわ。お詫びにそいつを処分させていただきますので、そこを退いて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あいつ…どの口で…!」
「断る、どの道花念はもう長くない。乗っ取られた人も助けないとダメだし、花念も回収する。だからお前がやることは何一つない。」
何よりこいつに近づかせるわけには行かない、こいつの狙いは花念じゃなく、童子切のはず。だから尚更近づかせるのはダメだ。
「あらら、残念ですわ。それではここで失礼させていただきますわ、ごきげんよう。」
長壁は俺に一礼をして、後ろに歩いて行った。
(魁紀よ、代われ。)
(えっちょ…!酒呑様!)
酒呑童子の一声により、酒呑童子は丑崎の体を乗っ取り、体に酒呑童子の特徴が現れる。
「貴様、女狐の手下であろう。」
え、そうなの?
「おやおや、これはこれは酒呑童子様、お変わりないご様子で、私も嬉しく思っておりますわ。」
「女狐の手下がここで何をしておる。」
「私はただ玉藻前様の目的の為に動いているだけですわ、他は何も。」
玉藻前の目的、それが童子切を奪うってことか。
「女狐に伝えておけ、次に貴様から手出しをするのであれば、すぐに我が貴様の首を取りに行くと。」
「物騒なことをおっしゃいますわね、ですがかしこまりましたわ。一言一句違わず、玉藻前様にお伝えしますわ。では、ごきげんよう。」
最後に、長壁は酒呑様に一礼をしたが、こっちを見てニヤッと笑ったような気もした。
(すまんな魁紀、今戻る。)
(お、おう、それはいいんだけど、酒呑様自分から強引に代われたんだね。)
(いや、我は強引に代わろうなどと思ってはおらんかった。ただ何故か代われと思った矢先に魁紀と入れ替われた、もしや我の力が戻っておるからそうなったのかもしれぬ。)
前に言ってたもんな、力が何故か戻ってきてるって。
(それはそうとすまんことをした、代わるぞ。)
(大丈夫だ、酒呑様はわざとそんなことしないってわかってるし。)
(カカカッ!よく分かっておるではないか、では我は寝るぞ。)
(おう!)
てかまた寝るのかよ、領域内でやれること少なすぎだろ。
「貴様…何故庇った…貴様にそこまでされる義理はないぞ。」
「うるせえ、気に食わなかっただけだよ。長壁は口ではああ言ってたけど、単純に口止めしに来たんだろ、そうだとしても潔く帰ってったけどな。」
「そんなこと最初からわかってる、あの女の目がそう語っていたからな。」
彼女呼ばわりはどこに行ったんだろ。
「それでだ、お前どうしたら体を持ち主に返せるんだ?」
「教えるわけないだろ…と言いたいところだが、もう今の僕に妖気など残ってはいない。ただ1つ条件がある、僕の願いを叶えろ、そうすれば教えてやる。」
花念は丑崎の胸ぐらを掴み、真剣な眼差しで語った。
「わかった、俺にできることならやってやる。」
「僕と兄さんを…ずっと同じところにいさせてくれ…一緒に…」
「それは2振とも同じ持ち主という意味でか?それとも同じ刀塚に奉れってことか?」
「形はなんでもいい…ずっと隣に兄さんがいれば…僕はなんでもいい…」
「任せろ。」
なんか前にも同じことあったな。洛陽で茨木の願いも聞いたんだっけな。
「体を返す方法だが…僕を使って僕を刺せ…そうすれば僕の意思は剣に戻る。」
「それは体の持ち主に他の影響はないのか?刺したことで死んだりするとか、それじゃ元も子もないぞ。」
「そこまでは知らん…自分で考えろ…それじゃ僕はここまでだ…約束は…守れよ……」
そう言い残して、花念は眠った。
さてと、剣を刺すって言ったってどこを刺すんだ?万が一体の持ち主の人が死んじゃったらどうしよ…
「ビビっても仕方ねぇや、なんかあったら恨まないでくれよ、ええと桜庭さん!」
花念の剣を拾い、寝ている桜庭さんに向ける。
臓器の部分に刺すと危ないだろうし、なんか大丈夫そうなとこないかな…ええいもう知らん!肩だったら大丈夫だろ!!
そう思って、丑崎は剣を桜庭の肩に刺した。
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