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干支十二家妖魔日記  作者: りちこ
血濡れの歌姫編
145/193

第百三十五集 花念 弐

  10月25日 20:30 日本武道館外 南西側


  「丑火激損(ぎゅうかげきそん)!!」


  丑崎は大太刀を地面の深くまでぶっ刺し、残った部分を蹴り上げると、丑火損よりも遥かに威力の高い発火を起こした。


  すると罪花はいとも容易く燃えて散ったのであった。


  「武術血界と言ったな、お前が使ってたのは武術血界じゃねぇ、ただの陰陽の派生だ。」


  「なんだと…!彼女は確かにそう言っていたぞ、なぜだ!」


  また彼女か、じゃあこの武術血界ってのもそいつから与えられた物か、だからこんなにも不完全なわけだ。


  「いい加減教えろよ、彼女ってのは誰だ。」


  「黙れ!言ったはずだ、答えるわけがないと。」


  「めんどくせぇな、だったら力ずくで吐かせてやる!」


  丑崎は高く飛び上がり、全力の握力で大太刀を握りしめた。


  「丑火凄斬(ぎゅうかぜいざん)!」


  大太刀の重さと遠心力を上手く使って回転し、広範囲の炎の斬撃を放った。


  「もう一度だ!花妖術・罪花(ざいか)!」


  今度は血界自体から黒い花びらが舞い上がり、丑崎を包もうとする。


  「それじゃもう無理だ、花念。」


  「なに!」


  丑崎の言葉通り、丑火凄斬は近づく花びら全てを燃やしながら突き進んでいた。


  「終わりだ、花念!」


  「クソがああああああああっ!!!!」


  斬撃は花念に当たり、そのまま地面に倒れた。


  同時に、血界も少しずつ消えていくのであった。


  「なあ花念、最後に教えてくれよ、彼女って誰だ。」


  丑崎は倒れている花念に近づき、問いかけた。


  「なんだ…僕が負けたからって…話すと思ったのか…やはり人間は考えが甘い…な…」


  「じゃあ聞き方を変えよう、その彼女ってのは玉藻前か?」


  花念に尻尾は付いてなかった、だからその可能性は薄いかもしれない。だがやはり童子切を狙ってるとすれば、玉藻前は切り捨てがたい。


  「なぜ三大妖魔の名がここで出てくる…まあいい…それには答えよう…違う…」


  「それは本当か?」


  「僕を君ら人間と一緒にするな、嘘は言っていない。」


  だとしたら一体だれが…


  「やはり所詮は下級妖刀、少しでも期待した(わたくし)が馬鹿でしたわ。」


  「誰だ!」


  どこかから女性の声が聞こえた、そして足音も。


  「ははっ…本人から出てくるとはね…人間、彼女とはあいつのことだよ…」


  「お初目にかかりますわ、丑崎魁紀様。(わたくし)は長壁と申します、以後お見知りおきをお願いしますわ。」


  街灯の影から和装の女性が現れる。


  長壁…?長壁ってまさか長壁姫のことか。なんで戦国時代真っ最中で死んだはずのやつが今ここにいる…!


  「私の部下が迷惑を掛けましたこと、誠に申し訳ございませんわ。お詫びにそいつを処分させていただきますので、そこを退いて頂いてもよろしいでしょうか?」


  「あいつ…どの口で…!」


  「断る、どの道花念はもう長くない。乗っ取られた人も助けないとダメだし、花念も回収する。だからお前がやることは何一つない。」


  何よりこいつに近づかせるわけには行かない、こいつの狙いは花念じゃなく、童子切のはず。だから尚更近づかせるのはダメだ。


  「あらら、残念ですわ。それではここで失礼させていただきますわ、ごきげんよう。」


  長壁は俺に一礼をして、後ろに歩いて行った。


  (魁紀よ、代われ。)


  (えっちょ…!酒呑様!)


  酒呑童子の一声により、酒呑童子は丑崎の体を乗っ取り、体に酒呑童子の特徴が現れる。


  「貴様、女狐の手下であろう。」


  え、そうなの?


  「おやおや、これはこれは酒呑童子様、お変わりないご様子で、私も嬉しく思っておりますわ。」


  「女狐の手下がここで何をしておる。」


  「私はただ玉藻前様の目的の為に動いているだけですわ、他は何も。」


  玉藻前の目的、それが童子切を奪うってことか。


  「女狐に伝えておけ、次に貴様から手出しをするのであれば、すぐに我が貴様の首を取りに行くと。」


  「物騒なことをおっしゃいますわね、ですがかしこまりましたわ。一言一句違わず、玉藻前様にお伝えしますわ。では、ごきげんよう。」


  最後に、長壁は酒呑様に一礼をしたが、こっちを見てニヤッと笑ったような気もした。


  (すまんな魁紀、今戻る。)


  (お、おう、それはいいんだけど、酒呑様自分から強引に代われたんだね。)


  (いや、我は強引に代わろうなどと思ってはおらんかった。ただ何故か代われと思った矢先に魁紀と入れ替われた、もしや我の力が戻っておるからそうなったのかもしれぬ。)


  前に言ってたもんな、力が何故か戻ってきてるって。


  (それはそうとすまんことをした、代わるぞ。)


  (大丈夫だ、酒呑様はわざとそんなことしないってわかってるし。)


  (カカカッ!よく分かっておるではないか、では我は寝るぞ。)


  (おう!)


  てかまた寝るのかよ、領域内でやれること少なすぎだろ。


  「貴様…何故庇った…貴様にそこまでされる義理はないぞ。」


  「うるせえ、気に食わなかっただけだよ。長壁は口ではああ言ってたけど、単純に口止めしに来たんだろ、そうだとしても潔く帰ってったけどな。」


  「そんなこと最初からわかってる、あの女の目がそう語っていたからな。」


  彼女呼ばわりはどこに行ったんだろ。


  「それでだ、お前どうしたら体を持ち主に返せるんだ?」


  「教えるわけないだろ…と言いたいところだが、もう今の僕に妖気など残ってはいない。ただ1つ条件がある、僕の願いを叶えろ、そうすれば教えてやる。」


  花念は丑崎の胸ぐらを掴み、真剣な眼差しで語った。


  「わかった、俺にできることならやってやる。」


  「僕と兄さんを…ずっと同じところにいさせてくれ…一緒に…」


  「それは2振とも同じ持ち主という意味でか?それとも同じ刀塚に奉れってことか?」


  「形はなんでもいい…ずっと隣に兄さんがいれば…僕はなんでもいい…」


  「任せろ。」


  なんか前にも同じことあったな。洛陽で茨木の願いも聞いたんだっけな。


  「体を返す方法だが…僕を使って僕を刺せ…そうすれば僕の意思は剣に戻る。」


  「それは体の持ち主に他の影響はないのか?刺したことで死んだりするとか、それじゃ元も子もないぞ。」


  「そこまでは知らん…自分で考えろ…それじゃ僕はここまでだ…約束は…守れよ……」


  そう言い残して、花念は眠った。


  さてと、剣を刺すって言ったってどこを刺すんだ?万が一体の持ち主の人が死んじゃったらどうしよ…


  「ビビっても仕方ねぇや、なんかあったら恨まないでくれよ、ええと桜庭さん!」


  花念の剣を拾い、寝ている桜庭さんに向ける。


  臓器の部分に刺すと危ないだろうし、なんか大丈夫そうなとこないかな…ええいもう知らん!肩だったら大丈夫だろ!!


  そう思って、丑崎は剣を桜庭の肩に刺した。

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