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干支十二家妖魔日記  作者: りちこ
血濡れの歌姫編
142/193

第百三十二集 新井冬奈

  10月25日 20:10 日本武道館 ステージ上 新井冬奈サイド


  爆発後、新井は吹き飛ばされて倒れていた。そこに相馬は歩んで行った。


  「やってしまいました、ついに私も自分のファンを手にかけてしまいました。どうかお許しください、あなたは何も悪くないのです、全ては私が…」


  「引っかかったな恵ちゃんもどきが!」


  新井は近づいてきた相馬の腕を掴んだ。


  ギリギリで陰陽が間に合ってよかった、軽く火傷はしたが爆発の被害は少ねぇ。そんでせっかく恵ちゃんから近づいてくれたんだ、この手を離すものか!


  「生きていたのですね…!離してください!」


  「嫌だね!もう一度凍ってもらうぞ!氷よ凍てつけ、紅葉散って水は氷り、いざ来たれ冬の日!氷呪符・初時雨(はつしぐれ)!」


  相馬を中心に氷の針が現れ、降り注がれていく。


  「この氷の針にダメージはねぇ、だが当たれば当たるほど凍り始める!」


  言っているうちに、相馬の足が徐々に凍っていく。


  「♪みんながいれば大丈夫、私は寂しくないわ」

  「♪だから隣に居てね、ずっとずっと」


  相馬は両手を重ね、歌い出した。


  「なんだ、今度はどうなる…!」


  すると、ステージにどんどん妖魔が集まってきた。


  「そういうことかよ…!氷よ凍てつけ、我が敵を突き刺せ!氷呪符・寒灸氷柱(かんきゅうつらら)!」


  新井はそう唱えると、目の前に人間大の氷柱が数本現れ、妖魔に向かって発射された。


  「ちっ、数が多すぎる!奥の手だ!氷よ凍てつけ、我が声に宿って轟かせ!氷呪符・寒声(かんごえ)!すぅぅぅ…はあああああああああ!!!」


  声は陰陽によって増幅し、冷気と共に妖魔を襲う。


  陰陽の範囲内にいた妖魔は凍っていき、増幅された声によって粉砕された。


  「ああ…これを使うと声が枯れるんだよな…」


  「こちらに気を回す余裕はなかったようですね。」


  「しまっ…!!」


  新井が振り向くと、相馬の腕の氷が溶けていた。


  「私はあなたと戦いたいわけではありません、ただ佐曽利様と共に行きたいのです、私たちの目指す世界に!」


  相馬は再び手を重ね、歌い出す。


  「♪君は忘れ、僕は覚えている」

  「♪あんなに可愛かった君を」


  「恵、そこまでです。」


  日本武道館内にアナウンスが響く。


  「今の歌詞、今度の武道館ライブで初披露される予定の新曲だろ。」


  「よくご存知で!ですがこの曲はまだ公開されてはいけません。それと恵、そろそろ時間です。」


  佐曽利は意味深に語る。


  「どういう意味だそれ!」


  「いえこちらの話です、思っていたより耐えられてしまったようですが、そろそろ仕上がるかと。」


  「あぁ?一体なんの話…恵ちゃん!」


  「うぅぅぅ…頭が…体が…!」


  相馬の様子が変わり始めた。


  「恵ちゃん…!てめぇ!恵ちゃんに何した!」


  「先程鷹取さんが仰っていたではないですか、恵に妖気を入れただけですよ。それを受け入れられるかどうかは恵次第ですがね。」


  「まさかてめぇ、恵ちゃんを妖魔にしようってのか!」


  「正解です。今の恵はまだ完全に妖魔になっていません、本来の恵の意識が残っているのでしょう。ですがもう心配ありません、恵は今、妖魔となるのです!」


  「恵ちゃん…!!」


  「いやあああああああああああああ!!!!」


  相馬から黒い妖気が流れ出て、自らを包んだ。


  「くっそが!てめぇ、恵ちゃんをなんだと思ってるんだ!」


  「なんだとは心外ですね、恵は私の宝です。恵を拾った時から彼女のことは私の娘のように大事にして育てました。そして今の彼女は私に恩返しをしようとしているのです、なんて心の優しい子なんでしょう。」


  「拾った…?」


  「いやはや、口が滑ってつい昔話をしてしまいましたね、忘れてください。いえ、思い出すことすらできなくなりますね、今からこの世を去るのですから。」


  「んだと!」


  その瞬間、相馬を包んだ妖気が晴れ、中からは完全に妖魔となってしまった相馬恵が現れた。


  「これが妖魔の力…これが完全な私…!ああありがとうございます佐曽利様!私は解き放たれました!」


  「誰だてめぇは!」


  「そうですね、姿が変わってしまったので改めて名乗らなければなりませんね。私は相馬恵、歌を捨てた歌姫です!」


  話すと共に、周りに衝撃波が放たれた。


  「なんだこの波動は…!」


  「これは失礼しました、力が漲ってきたのでつい使いたくなってしまいました。さあ続きと行きましょう、あなたの全てを奪ってさしあげましょう。」


  「ふざけてんじゃねぇぞゴミ共…あーしから恵ちゃんを奪っといて、これ以上まだ奪おうってのか…」


  新井は拳を握り締め、立ち尽くしていた。


  「てめぇらにはわかんねぇだろうな、奪われる側の気持ちが…自分らがいかに恵まれてるかもわからねぇで、他人から奪ってんじゃねぇ!」


  新井は持っていた呪符の(ふだ)を捨て、上着を脱いだ。


  「あーしがてめぇらに罰を与えてやるよ、てめぇら歌手の頂点を引きずり下ろして、あーしがそこに登る!」


  新井は陰陽のスタイルを捨て、兄同様武術のスタイルに切り替えた。


  「初冬(しょとう)(だん)神無月(かんなづき)!!」

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