第百三十一集 虎と鷹
10月25日 20:00 日本武道館 東1階席 鬼寅真由サイド
鎌鼬、体はムササビ、尻尾は大きな鎌の形をした妖魔。現れた場所には風が舞い、周囲を斬り刻む。だがそれに斬られた者は出血することも痛みを感じることも無く、傷跡が残るだけ。そしてその傷跡は卯道家でなければ治せない。
「所詮は中級妖魔、すぐに片付けてあげるわ!」
「シャアアアアアアッ!!」
ムササビとは言ったが、大きさは人間の約2倍。動きも俊敏なため、攻撃を当てるのも一苦労である。
確か風に当たると付けられた傷は消えないんだったわね、仕方ない、全部終わったら結菜に治してもらうわ。
でもそうなると制服も破けちゃうわね、勘弁して欲しいわ。
「シャアアアア!!」
鎌鼬が鬼寅に襲いかかる。
「寄らないでちょうだい!猛虎!!」
鬼寅の猛虎が逆に鎌鼬に襲いかかった。
だが鎌鼬の鎌に切り裂かれて塵となった。
「いくら中級とはいえ、これじゃさすがに無理だったかしら。」
「シャアアアアアアア!!」
再び、鎌鼬は鬼寅に襲いかかる。
「寄らないでって言ってるでしょ!螺旋業虎爪!」
だがそれも鎌で切り裂かれた。
「思ってる以上に強い妖魔ね、こっちも急いでるの、あんまり粘らないでくれる?」
そう言いながら、鬼寅は両手の包丁を地面に落として目を瞑った。
「寅神の陀羅琥よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の咆哮!蹴散らせ!寅気!」
鬼寅に陀羅琥の力が宿り、虎のオーラを纏った。
「ここからは肉弾戦よ、少しは楽しませてちょうだい!」
鎌鼬の風を気にすることもなく、今度は鬼寅から踏み込んだ。
「制服が破けるのは今更仕方ないわ!」
「シャアアアア!!」
「猛虎旋転脚!」
飛びかかってきた鎌鼬に、鬼寅は腹下に潜り込んで鎌鼬の腹を蹴り上げた。
「まだまだここで終わらないわ!」
少し浮いた鎌鼬より上に飛び上がる。
「猛虎火損脚!」
虎のオーラが纏った上に更に炎を纏い、鎌鼬の脳天を目掛けてかかと落としを放つ。
「念の為のトドメよ!猛虎業襲脚!」
床に叩きつけられた鎌鼬に、最後の追い討ちをかける。空中で一回転し、鎌鼬に突き進む。
「ァァァ…シャアアアアアアアア!!!」
だが鎌鼬はまだ動けていた、尻尾の鎌で鬼寅の足を刈りに行った。
「だから、粘らないでって言ったはずよ!」
向かってくる鎌を足でいなし、今度は掌を構えた。
「猛虎天風掌!」
掌は再び脳天に当たり、鎌鼬は倒れた。
「ふぅ…さすがにもう終わったかしら。」
だけどおかしいわね、塵になって消えないわ。つまりまだ起き上がってくるわね。
「シャーーーーーーーッ!!!!」
予想は当たり、鎌鼬は尻尾を振り回しながら起き上がった。
「もうこれ以上時間かけたくないのに…!」
「シャアアアア!!シャアアアアアアアアア!!!」
風はさっきよりも強くなり、鎌鼬を中心に鬼寅を含め周囲の妖魔も吸い寄せられていく。
「もうめんどくさいわね!」
鬼寅は先程床に落とした2本の包丁を拾い直して、高く上に跳んだ。
「猛虎!鬼炎衝!」
「シャアアアア!!……ァァァァァ…」
両手の包丁から放たれる紫炎の斬撃、鎌鼬は尻尾で防ぐも切断され、本体に直撃する。
そしてそのまま塵となって散っていった。
「やっと終わったわ…嫌だわ、制服ボロボロじゃない…胸が見えてしまうわ…」
ああダメ…目眩がするわ…あの2人は大丈夫なのかしら…
鬼寅がふと中央の方を見ると、羽澤は既に疲れ果てて倒れていた。
「幽奈のが早かったようね…でもこんなのに力を使い尽くすなんて、まだまだね…」
そう言いながら、鬼寅も倒れていった。
20:00 日本武道館 西1階席 鷹取天音サイド
鵺、猿の顔、虎の胴体、蛇の尻尾を持つ妖魔。鳴き声が非常に気味が悪く、夜に黒い煙と共に現れるから、鵺の鳴く夜は恐ろしいという言い伝えもある。
さらに雷獣としても知られていて、他の生き物を感知すると雷が落とされる。
「鎌鼬がよかったんだけど、鵺でも全然問題ないね!」
「ヒョーーーーーーー!!!」
「いきなり気味の悪い挨拶どうも!鷹天襲突!」
鷹取は剣を抜き、すぐさまに鵺を貫いた。
「ヒョーーーーー!!」
だが鵺はそれを跳んで避けた。
「無駄にすばしっこいねー!」
さてどうする、雷があちこち落ちてきてるし、下手に後ろに回ったりすると尻尾の蛇に噛まれる。妖術と陰陽ならかき消せるけど、こいつみたいな理性の無い中級妖魔には意味無いもんなー。
鷹取の妖気の特性は、受けた妖術と陰陽をかき消すこと。自然に妖気を帯びた鵺の攻撃ならば通用するが、落ちてくる雷、そして物理攻撃は効いてしまう。
「まっ、私天才だから?どんな攻撃でもカモンカモン!!」
「ヒョーーー!!!!」
「早速来たね!」
突進してくる、けど少し妖気の感覚がする、軽く剣でいなすか!
鷹取が考えていた通り、鵺は自分の体の前に薄い妖気の壁を張って突進してきていた。剣で壁を無力化し、突進力を弱めることでいなすことに成功した。
「あっぶない!無駄に頭を使うねこの鵺。」
「ヒョッヒョーーー!!!!!」
いなされた鵺の尻尾の蛇が鷹取に襲いかかる。
「だーれが相手してると思っているんだ!それくらい予想できているよ!」
それを後ろに距離を取って軽く避けた。
「めんどくさいなーホントに!早く魁紀のとこ行きたいのにー!」
さあ天才の私考えるんだ、どうしたらこいつを瞬殺できるか。
まず邪魔なのは尻尾の蛇だね、尻尾さえ切り落とせば不意打ちされることはなくなる。
「じゃあ早速切り落とさせてもらうよ!」
「ヒョーー!!!」
「突っ込んで来てくれてありがとうねー!鷹天風衝!」
鷹取はさっき同様突っ込んできた鵺をいなした、だが完全に避けるのではなく、いなしたあとに風の斬撃で尻尾を切った。
「ヒョー…!!!」
「まずは尻尾よし!」
次に厄介なのは前足だね、後ろ足と違って妙に発達してる。デカいし爪は長くて鋭いし、危険危険。
ならどうしよっか、爪…爪…あー、爪の裏から衝撃を当てれば剥がれてくれそうだね、よしこれで行こう!
「ほらほら鵺さん、こっちだよこっち!」
軽く距離を取って鵺の攻撃を誘う鷹取。
「ヒョーッヒョーーーー!!!!」
よしよしいい子だ!
「ヒョーッ!!!」
「ここだ!鷹天砕狩!」
鵺が前足を振り上げると、鷹取は体勢を落として潜り込み、鵺の爪を破壊した。
「ヒョーー…!!」
「おっとと、壊れると思わなかったね、やっぱり天才だな私は!」
そろそろ仕上げたいね、尻尾と爪を失くした今、残った脅威は…牙だね!
「ヒーー…ヒョオオオオオオ!!!」
突如、鵺は絶叫した。
「うるっさ…なに…!」
「ヒーーーーーーーーー!!!!」
叫んでいるうちに、鵺の爪と尻尾が再生していく。
「うっそでしょ…再生するのかよ…!」
「ヒョーーー!!!!」
「また突っ込んでくるんだね、でもそれはさっき…いたっ!鴉天狗…?なんで…!!」
近くで倒れて消えていなかった鴉天狗が、鷹取の足を強く掴んだ。
「離して!今危ないとこなんだから!」
「ヒョーーーッ!!」
「ちぃっ!!このっ!!」
鷹取はすぐに鴉天狗の腕を斬り落とし、急いで離れた。
「あっぶないなほんとに!」
「ヒョッ!」
「あっ…蛇…!」
通り過ぎた鵺は急停止し、尻尾の蛇で鷹取の右腕に噛みついた。
「くっそ…よりによって右腕か…でも、これでもう逃がさない!」
鷹取は右手で持っていた剣を左手に持ち替えて、右手で強く鵺の尻尾を掴んだ。
「噛み付いた相手が悪かったね…そもそも、この天才にお前が勝つ未来なんてなかったけどね!鷹天!轟嵐破!!」
鷹取は左手に持つ剣を大きく振り上げると、日本武道館の天井にも届きそうな風の斬撃を放った。
鵺は鳴き声をあげることすら許されないまま、塵となって消えた。
「痛たたた…噛み跡結構深いなこれは…豪嵐破も片手で使う技じゃないから左手が動かないや…それはいいとして、お2人さんは…おっと倒れてるね、でも妖魔は一掃できたみたいだし、後は冬奈に任せるか…」
ちょっとずつ、鷹取は残った力で、羽澤と鬼寅の所へ歩いていった。