表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
干支十二家妖魔日記  作者: りちこ
血濡れの歌姫編
141/193

第百三十一集 虎と鷹

  10月25日 20:00 日本武道館 東1階席 鬼寅真由サイド


  鎌鼬(かまいたち)、体はムササビ、尻尾は大きな鎌の形をした妖魔。現れた場所には風が舞い、周囲を斬り刻む。だがそれに斬られた者は出血することも痛みを感じることも無く、傷跡が残るだけ。そしてその傷跡は卯道家でなければ治せない。


  「所詮は中級妖魔、すぐに片付けてあげるわ!」


  「シャアアアアアアッ!!」


  ムササビとは言ったが、大きさは人間の約2倍。動きも俊敏なため、攻撃を当てるのも一苦労である。


  確か風に当たると付けられた傷は消えないんだったわね、仕方ない、全部終わったら結菜に治してもらうわ。


  でもそうなると制服も破けちゃうわね、勘弁して欲しいわ。


  「シャアアアア!!」


  鎌鼬が鬼寅に襲いかかる。


  「寄らないでちょうだい!猛虎(もうこ)!!」


  鬼寅の猛虎が逆に鎌鼬に襲いかかった。


  だが鎌鼬の鎌に切り裂かれて塵となった。


  「いくら中級とはいえ、これじゃさすがに無理だったかしら。」


  「シャアアアアアアア!!」


  再び、鎌鼬は鬼寅に襲いかかる。


  「寄らないでって言ってるでしょ!螺旋業虎爪(らせんごうこそう)!」


  だがそれも鎌で切り裂かれた。


  「思ってる以上に強い妖魔ね、こっちも急いでるの、あんまり粘らないでくれる?」


  そう言いながら、鬼寅は両手の包丁を地面に落として目を瞑った。


  「寅神(とらがみ)陀羅琥(たらく)よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の咆哮!蹴散らせ!寅気(こき)!」


  鬼寅に陀羅琥(たらく)の力が宿り、虎のオーラを纏った。


  「ここからは肉弾戦よ、少しは楽しませてちょうだい!」


  鎌鼬の風を気にすることもなく、今度は鬼寅から踏み込んだ。


  「制服が破けるのは今更仕方ないわ!」


  「シャアアアア!!」


  「猛虎旋転脚(もうこせんてんきゃく)!」


  飛びかかってきた鎌鼬に、鬼寅は腹下に潜り込んで鎌鼬の腹を蹴り上げた。


  「まだまだここで終わらないわ!」


  少し浮いた鎌鼬より上に飛び上がる。


  「猛虎火損脚(もうこかそんきゃく)!」


  虎のオーラが纏った上に更に炎を纏い、鎌鼬の脳天を目掛けてかかと落としを放つ。


  「念の為のトドメよ!猛虎業襲脚(もうこごうしゅうきゃく)!」


  床に叩きつけられた鎌鼬に、最後の追い討ちをかける。空中で一回転し、鎌鼬に突き進む。


  「ァァァ…シャアアアアアアアア!!!」


  だが鎌鼬はまだ動けていた、尻尾の鎌で鬼寅の足を刈りに行った。


  「だから、粘らないでって言ったはずよ!」


  向かってくる鎌を足でいなし、今度は(てのひら)を構えた。


  「猛虎天風掌(もうこてんぷうしょう)!」


  掌は再び脳天に当たり、鎌鼬は倒れた。


  「ふぅ…さすがにもう終わったかしら。」


  だけどおかしいわね、塵になって消えないわ。つまりまだ起き上がってくるわね。


  「シャーーーーーーーッ!!!!」


  予想は当たり、鎌鼬は尻尾を振り回しながら起き上がった。


  「もうこれ以上時間かけたくないのに…!」


  「シャアアアア!!シャアアアアアアアアア!!!」


  風はさっきよりも強くなり、鎌鼬を中心に鬼寅を含め周囲の妖魔も吸い寄せられていく。


  「もうめんどくさいわね!」


  鬼寅は先程床に落とした2本の包丁を拾い直して、高く上に跳んだ。


  「猛虎(もうこ)鬼炎衝(きえんしょう)!」


  「シャアアアア!!……ァァァァァ…」


  両手の包丁から放たれる紫炎(しえん)の斬撃、鎌鼬は尻尾で防ぐも切断され、本体に直撃する。


  そしてそのまま塵となって散っていった。


  「やっと終わったわ…嫌だわ、制服ボロボロじゃない…胸が見えてしまうわ…」


  ああダメ…目眩がするわ…あの2人は大丈夫なのかしら…


  鬼寅がふと中央の方を見ると、羽澤は既に疲れ果てて倒れていた。


  「幽奈のが早かったようね…でもこんなのに力を使い尽くすなんて、まだまだね…」


  そう言いながら、鬼寅も倒れていった。


  20:00 日本武道館 西1階席 鷹取天音サイド


  (ぬえ)、猿の顔、虎の胴体、蛇の尻尾を持つ妖魔。鳴き声が非常に気味が悪く、夜に黒い煙と共に現れるから、鵺の鳴く夜は恐ろしいという言い伝えもある。


  さらに雷獣としても知られていて、他の生き物を感知すると雷が落とされる。


  「鎌鼬がよかったんだけど、鵺でも全然問題ないね!」


  「ヒョーーーーーーー!!!」


  「いきなり気味の悪い挨拶どうも!鷹天襲突(ようてんしゅうとつ)!」


  鷹取は剣を抜き、すぐさまに鵺を貫いた。


  「ヒョーーーーー!!」


  だが鵺はそれを跳んで避けた。


  「無駄にすばしっこいねー!」


  さてどうする、雷があちこち落ちてきてるし、下手に後ろに回ったりすると尻尾の蛇に噛まれる。妖術と陰陽ならかき消せるけど、こいつみたいな理性の無い中級妖魔には意味無いもんなー。


  鷹取の妖気の特性は、受けた妖術と陰陽をかき消すこと。自然に妖気を帯びた鵺の攻撃ならば通用するが、落ちてくる雷、そして物理攻撃は効いてしまう。


  「まっ、私天才だから?どんな攻撃でもカモンカモン!!」


  「ヒョーーー!!!!」


  「早速来たね!」


  突進してくる、けど少し妖気の感覚がする、軽く剣でいなすか!


  鷹取が考えていた通り、鵺は自分の体の前に薄い妖気の壁を張って突進してきていた。剣で壁を無力化し、突進力を弱めることでいなすことに成功した。


  「あっぶない!無駄に頭を使うねこの鵺。」


  「ヒョッヒョーーー!!!!!」


  いなされた鵺の尻尾の蛇が鷹取に襲いかかる。


  「だーれが相手してると思っているんだ!それくらい予想できているよ!」


  それを後ろに距離を取って軽く避けた。


  「めんどくさいなーホントに!早く魁紀のとこ行きたいのにー!」


  さあ天才の私考えるんだ、どうしたらこいつを瞬殺できるか。


  まず邪魔なのは尻尾の蛇だね、尻尾さえ切り落とせば不意打ちされることはなくなる。


  「じゃあ早速切り落とさせてもらうよ!」


  「ヒョーー!!!」


  「突っ込んで来てくれてありがとうねー!鷹天風衝(ようてんふうしょう)!」


  鷹取はさっき同様突っ込んできた鵺をいなした、だが完全に避けるのではなく、いなしたあとに風の斬撃で尻尾を切った。


  「ヒョー…!!!」


  「まずは尻尾よし!」


  次に厄介なのは前足だね、後ろ足と違って妙に発達してる。デカいし爪は長くて鋭いし、危険危険。


  ならどうしよっか、爪…爪…あー、爪の裏から衝撃を当てれば剥がれてくれそうだね、よしこれで行こう!


  「ほらほら鵺さん、こっちだよこっち!」


  軽く距離を取って鵺の攻撃を誘う鷹取。


  「ヒョーッヒョーーーー!!!!」


  よしよしいい子だ!


  「ヒョーッ!!!」


  「ここだ!鷹天砕狩(ようてんさいか)!」


  鵺が前足を振り上げると、鷹取は体勢を落として潜り込み、鵺の爪を破壊した。


  「ヒョーー…!!」


  「おっとと、壊れると思わなかったね、やっぱり天才だな私は!」


  そろそろ仕上げたいね、尻尾と爪を失くした今、残った脅威は…牙だね!


  「ヒーー…ヒョオオオオオオ!!!」


  突如、鵺は絶叫した。


  「うるっさ…なに…!」


  「ヒーーーーーーーーー!!!!」


  叫んでいるうちに、鵺の爪と尻尾が再生していく。


  「うっそでしょ…再生するのかよ…!」


  「ヒョーーー!!!!」


  「また突っ込んでくるんだね、でもそれはさっき…いたっ!鴉天狗…?なんで…!!」


  近くで倒れて消えていなかった鴉天狗が、鷹取の足を強く掴んだ。


  「離して!今危ないとこなんだから!」


  「ヒョーーーッ!!」


  「ちぃっ!!このっ!!」


  鷹取はすぐに鴉天狗の腕を斬り落とし、急いで離れた。


  「あっぶないなほんとに!」


  「ヒョッ!」


  「あっ…蛇…!」


  通り過ぎた鵺は急停止し、尻尾の蛇で鷹取の右腕に噛みついた。


  「くっそ…よりによって右腕か…でも、これでもう逃がさない!」


  鷹取は右手で持っていた剣を左手に持ち替えて、右手で強く鵺の尻尾を掴んだ。


  「噛み付いた相手が悪かったね…そもそも、この天才にお前が勝つ未来なんてなかったけどね!鷹天(ようてん)轟嵐破(ごうらんは)!!」


  鷹取は左手に持つ剣を大きく振り上げると、日本武道館の天井にも届きそうな風の斬撃を放った。


  鵺は鳴き声をあげることすら許されないまま、塵となって消えた。


  「痛たたた…噛み跡結構深いなこれは…豪嵐破も片手で使う技じゃないから左手が動かないや…それはいいとして、お2人さんは…おっと倒れてるね、でも妖魔は一掃できたみたいだし、後は冬奈に任せるか…」


  ちょっとずつ、鷹取は残った力で、羽澤と鬼寅の所へ歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ