第百三十集 国士無双
10月25日 19:50 日本武道館外 南西側 丑崎魁紀サイド
大谷が花怨を蹴り飛ばしてくれたおかげで、花念とサシで勝負ができた。
だが着地した後はずっと様子見しかしてない、何か企んでるのか?
「どうした花念、ずっと様子見してても何も始まらないぞ。」
「黙ってろよ人間が、人間の物差しで僕を測るな!」
やけに機嫌が悪いな、どうしたんだこいつ。
「さっきからどうした、何か嫌なことでもあったのか?前会った時はもっと穏やかだったろ。」
「君のせいだよ…君のせいで僕と兄さんは安心して暮らせない。君のせいでまた僕と兄さんは戦わなければならない!」
俺のせいというか童子切のせいだな。
「人のせいにすんなよ花念、本来ただの妖刀だったお前らが人の体を乗っ取って自我を持ったのが問題だろ。」
ここしばらく、妖刀についてよく調べた。通常妖刀に意思や自我はない、童子切は例外として酒呑様の意思が宿っているが、それ以外は基本妖刀自身の意思や自我はない。
ただ前例として、妖気を持たない人間が妖刀を使ったことで、妖刀から流れ込んでくる妖気に体が耐えられなくて妖魔になる事例はあった。
でも今回は違う、人の形を保ちつつ妖刀の妖気が流れている。おまけに妖刀の自我もある。
これで考えられるとしたら、花怨と花念は実はとんでもない妖刀で、元から強い意思と自我を持っていた。そしてもう1つ、他人に意思と自我を与えられた。
両方とも前例は一応あるが、後者はたったの1度しかない。その1度の前例というのが、征夷大将軍坂上田村麻呂(せいいたいしょうぐんさかのうえのたむらまろ)が所持していたソハヤノツルキだ。
もちろんソハヤノツルキは妖刀ではない、だがソハヤノツルキは所持者の坂上田村麻呂に意思と自我を与えられ、坂上田村麻呂と一緒に2度にわたり征夷に結果を残した。
わかってることはそれだけ、どうやったのか、なぜやったのかは今でも不明のままだ。
だからもしこいつらがこうなった理由が後者の場合、裏に必ず誰かがいる。
「何を言っている、僕と兄さんをそこら辺の妖刀と一緒にするな!」
その言い方なら前者か、ただそうだとしたら前に戦った時の手応えからして、弱すぎる。
だからハッタリだな、やっぱり後者…
「話す時間が惜しい、いち早く君から童子切を奪い、兄さんに合流してあの女を殺す!」
やっぱ、穏やかじゃねぇな。
「安心しろ、お前が俺から童子切を奪うこともないし、花怨に合流することもない。ただの妖刀に戻って大人しくしとけ!」
「ほざいてろ!人間!!」
「ようやく斬りかかって来たな、前の続きと行こうか!」
「花妖術・芝桜!」
足元に花が咲く、踏んだらやばそうだな。跳んで躱す!
「続け!花妖術・蒲公英!」
今度は空中に飛ばしてきたか、ならば。
「丑火錘!行け!」
丑火錘でたんぽぽを相殺する、そして着地。
「丑火斬!」
「芸がないね君!何度も同じ手を食らうわけないだろ!」
避けられたか…!でも確かに芸がないと言われればそうだな、じゃあ芸を増やしてみようか。
「一牛吼地!」
目の前だぞ?これに対応できるか?
「花妖術・鈴蘭!」
なんだそれ、ってうるせぇ…!!
「耳を抑える暇はあるのかい?花妖術・四手辛夷!」
やべぇ、耳がキーンキーンしてるから動けねえ…!
そのまま花念の四手辛夷を受けてしまった…が、なんとか踏ん張って堪えた。
「あぁうるせぇ、耳がイカれるだろうが。」
実際今ので右耳の鼓膜は破れてる、右耳だけ聞こえる音がおかしい。
「ちっ、しぶとい人間だな君は。」
「こんな角を見てもなお人間って呼んでくれるのか…感謝感激!一牛鳴地!」
刻巡を地面に叩きつけ、振動を起こす。
「そんな小細工!」
跳んだな?さっきと立場が逆だぜ!
「丑火錘!」
「芸がないと言ったはずだ!花妖術・蒲公英!」
かき消されたか…!
「これが芸というものだ!花妖術・向日葵!」
光ってる向日葵…?夜中だからお陰様で見やすくなった!
「照らしてくれてありがとうよ!丑火損!」
「バカが!弾けろ!」
耳の次は目かよ…!
光っていた向日葵はさらに光度を増し、思わず目を閉じてしまった。
「頂くぞ、童子切!」
ちぃ…!!
20:00 日本武道館 ステージ前アリーナ席 羽澤幽奈サイド
土蜘蛛、鬼の顔に虎の胴体、蜘蛛の手足を持つ妖魔。平安時代にてかの源頼光に討伐された妖魔である。
「それがなんでこんな所にいるのか、考える暇は無さそうだね。」
土蜘蛛はただひたすら暴れていた、周りの妖魔なぞ気にすることなく、ただ暴れていた。
「ステージは土蜘蛛のすぐ後ろ、なのにあいつがデカいせいで全く見えない。よし、小手調べはなし、最初から全力で行く!」
羽澤は両手を合わせ、陰陽の準備に入った。
「一萬、九萬、一筒、九筒、一索、九索、東、南、西、北、白、發、中。十三の国士ここに集結せり、最後の牌よ、我が手に集え!」
羽澤の背後に13枚の牌が現れる。だがアガるためには14枚必要であり、最後の牌は土蜘蛛の動き次第で変わる。
「さあ土蜘蛛、踏み込んでおいで。」
土蜘蛛は暴れ回る、暴れ回ったがゆえに、羽澤を狙おうとしなくとも、土蜘蛛は勝手に羽澤の射程に入った。
「ありがとう、踏み込んでくれて。」
最後の牌が揃う。
「最後の牌は、一索!!ロン!雀呪符・国士無双!!」
14枚の牌が土蜘蛛を囲み、レーザーを射出して土蜘蛛を中心に球体を作る。
「はるか昔に討伐された妖魔が、現代で通用すると思わないでね!」
球体の中で無数の斬撃が発生し、土蜘蛛を切り刻む。だがそれでもなお土蜘蛛は中で暴れ回った。
「大人しく…!しろ!!」
羽澤は陰陽にさらに妖気を込める、すると斬撃はより激しくなった。
「オオオオォォォ…!!!オ…オ……」
「やっと大人しくなったか…国士無双…1番出やすい役満だけど…疲れるんだよね…」
羽澤は妖気の使いすぎで床に座った。
「土蜘蛛のおかげで雑魚妖魔がいなくなってくれたから、ちょっとだけ休めそう。」
「オォオォオ!!ウォォォォオオオオォォォ!!!」
陰陽が消えた瞬間、土蜘蛛は雄叫びを上げながら立ち上がる。
「うっそでしょ、まだ動けるの…!」
今度はただ暴れ回るのではなく、土蜘蛛はしっかりと羽澤を狙って前足を振り回しながら走って来る。
動いて…私の腕…!まだ魁紀と…やりたいことがいっぱいあるんだ…こんな所で…!!
(ちゅっ…)
(ん!?!?おま!なにして!)
(じゃあまたね!)
一瞬だが、羽澤は丑崎の見舞いに行った時のことを思い出した。
こんな所で、私は…!
羽澤に残された妖気はほんのわずかだった。が、その残ったわずかの妖気で、羽澤は最後の陰陽を構えた。
「雀呪符…四暗刻…!!」
任田祭の時とは違い、暗刻が4つ十字状に並び、その真ん中に頭。14個の牌が土蜘蛛の頭上から押し寄せる。
「潰れて消えろ!」
羽澤の言った通り、土蜘蛛は牌に押し潰されて塵になった。
「やったね…」
最後の妖気を使い果たし、羽澤は疲労により倒れた。
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