第百二十九集 1年5組第二班
10月25日 19:50 日本武道館 中央アリーナ席 羽澤・鬼寅・鷹取サイド
徐々に中央に集まって来る妖魔に対して、3人は固まって応戦していた。
「真由ちゃん、天音ちゃん、分かれて戦お。そっちのが早く終わる!」
「なんで幽奈が仕切ってんのよ、でもそっちのが良さそうね!」
「私も賛成!だけど何体か雑魚じゃなさそうなのがいるけど大丈夫?」
大量の餓鬼、烏天狗、一本踏鞴に混ざって、鎌鼬、土蜘蛛、鵺の中型妖魔が3体いた。
「問題ないよ、じゃあ私真ん中の土蜘蛛をやる。」
「なら私は右の鎌鼬ね。」
「ええ余りもんじゃん!」
「早い者勝ち、でしょ?さっさと終わらせて、冬奈ちゃんの援護に行くよ!」
「わかったわ!」
「はいよー!」
羽澤はステージ前アリーナ席、鬼寅は東1階席、鷹取は西1階席にそれぞれ向かった。
19:50 日本武道館ステージ上 新井冬奈サイド
「恵ちゃん、目を覚ましてくれ!あんなゴミの言うことなんか聞く必要ねぇって!」
「佐曽利様は私を救ってくれた恩人です、佐曽利様の願いであれば、私は何でもします!」
「じゃあまさか歌を歌ってるのも恵ちゃんの意思じゃねぇってのか!いつもあんなに楽しそうに歌ってるのに!」
「これ以上の話は無駄です、私は佐曽利様と共に世界に羽ばたきます!せい!」
相馬は妖術的な何かを放った。
「ちぃっ!無理やり妖気を入れられたから妖術が定まってねぇのか。」
妖気を入れられたばっかの相馬に妖術なんてまともに使えるわけがなかった。できると言えば、今のように妖気の塊をぶつけるくらいだ。
「ごめんね恵ちゃん、傷つけたくはないから、捕まっててくれ!氷よ凍てつけ、我が敵を捕らえよ!氷呪符・牢!」
新井の陰陽が相馬を捕らえる。
「これで落ち着いて休んでいてくれ、氷よ凍てつけ、かの者に安らかなる休息を。氷呪符・冬凪。」
冬凪、冬の海の波がおだやかなことを指す。その新井のおだやかな性質を持つ陰陽は、相馬の戦意を奪う。
頼む、これで眠ってくれ!
「そんなこと、佐曽利様も私も望んでいません!」
だが新井の願いも虚しく、相馬は妖気を放出させ、無理やり牢を解いた。
「なんでだよ恵ちゃん!どうしても戦わなきゃいけねぇのかよ!」
「言ったはずです、これ以上の話は無駄だと。佐曽利様が止まらない限り、私も歩みを止めることはありません!今のは氷でしたね、でしたら炎を歌に乗せて対抗しましょう!」
相馬は深呼吸をして、歌い始めた。
「♪炎は舞い降りて、君を包む」
すると新井の頭上に炎が現れて、新井に向かって落ちた。
「陰陽の詠唱じゃねぇ、どうなってんだ!」
新井はギリギリ避けることに成功、そして炎は歌われた通り、先程新井がいた場所を包んだ。
前に恵ちゃんが取材で言ってたな、いつも歌を歌う時は思いを乗せながら歌ってるって。つまり今はあーしに持った敵意を乗せて歌ってるってことか…!
新井が想像してる通りだった。相馬は無意識で妖気を放出している、その放出された妖気が相馬の思いが籠った歌に呼応するように、妖気は炎に変わった。
「歌うだけで発動するとか、陰陽よりもタチが悪ぃな…」
さてどうする、恵ちゃんは傷つけたくねぇ。だからといって捕らえることも失敗した、そんで無力化できたとして恵ちゃんを元に戻す方法も知らねぇ…
「♪弾けて散って、花火のよう」
集まっていた炎は弾けて、爆発した。
「クソがっ…!!!」
19:50 日本武道館外 西側 大谷朋実サイド
「邪魔するな女!俺は童子切を手に入れなければならないのだ!」
「そう…私は邪魔なのね…でも私龍太郎がいないと寂しくて死にそうなんだ、だから花怨、ここで消、え、て?」
少し焦る花怨に対して、それをなんとも思ってない大谷だった。
「貴様ァ!!」
怒りだした花怨は大谷に向かって斬りかかる。
「なーんだ、剣筋は龍太郎より全然ダメだね。」
大谷は花怨の斬撃を嘲笑うかのように避けていた。
「お前、龍太郎の体に全然慣れてないじゃない。弟の花念の方が強いんじゃない?」
「黙れ…!黙れ!」
避ける、避ける。大谷はひたすら花怨の斬撃を避けた。
「クソっ!なぜだ!」
「なぜもなにも、お前が弱いからだよ。借り物の体でお前にできる限界がそれだよ、その点に関しては、弟の方が全然出来てたね。対妖魔格闘術・降龍十八掌!」
大谷は数秒にして18連撃を花怨に叩き込み、花怨は後ろに大きく吹っ飛んでいった。
「さっさと返して、私の龍太郎を!」
「はっ…はははははははっっ!!!」
花怨は倒れながらも、笑っていた。
「そうか、俺が弱いのか…女、よくぞ言ってくれた。これで俺も遠慮なくこの力を使えるというもの!」
花怨は立ち上がり、剣を自分の腕に当てて血を流した。
「何をしているの?それは龍太郎の体だぞ!!」
次に花怨は剣を地面に突き刺し、両手を合わせた。
「武術血界!」
武術血界…?
ここで大谷の脳裏に洛陽でのことが過ぎった、根元先生が最後に使った妖術血界のことを。自分が妖術血界を体験したわけではないが、反射的に花怨から大きく距離を取った。
「無駄無駄!!絶対に逃がさん!桜花怨舞!」
花怨を中心に桜の円陣が広がり、距離を取った大谷まで届いた。
「クッソ!!」
「大谷さん!!危ない!!」
大谷の後ろから4人走って来る、そしてそのまま大谷を庇うように前に出た。
「みんな!」
「龍太郎を取り戻すなら、僕たちも一緒にやる!」
「私たちも、龍太郎君いないと、困るし。」
「龍太郎君を〜、取り戻すぞ〜!」
「同じ班の私たちに声もかけないなんて、ちょっと失礼なんじゃない?」
1年5組第二班、新谷圭、井上七海、日高紀衣、妹山寿寧の4人であった。
「事情は魁紀君から聞いてる、大谷さんになんかあった時は助けてやってくれって。」
魁紀君が…そうか、私は龍太郎を取り戻すのに必死になり過ぎて、1番身近にいた第二班のみんなのことを忘れちゃってたんだ…誰にも相談せずに自分の意思で来ちゃった…
「朋実が、龍太郎のことが好きなのも、わかるけど。」
「ちょっとは〜、私たちに話しても〜、よかったんじゃないかな〜って。」
「七海、そういうことは本人の前で言ってはいけないでしょ!言うならもっと本人がいない時に。」
「妹山さん、裏で言ってる方がダメでしょ。いやダメじゃ…ない?」
「どっちもダメに決まってるじゃん!!」
そんな会話もあってか、大谷は少し前の調子を取り戻した。
「じゃあみんな、あいつをぶっ倒して、龍太郎を取り戻すよ!」
「「おー!」」
「人数が増えようが、この武術血界の中じゃ俺には勝てん!さあ、皆殺しだ!」
「お前にそんなことができるならなぁ!」
大谷の掛け声と共に、第二班は花怨に立ち向かうのだった。