第百二十七集 日本武道館にて
10月25日 18:40 自宅前
佐曽利さんがもし俺達が佐曽利さんの情報を知ったとしたら、真っ先に相馬恵の身柄を確保しに来るはず。自分の闇の部分を知られたやつのところに預けてられないからだ。
「魁紀!家のドアが壊されてるわ!」
「ちっ!遅かったか…!」
急いで家に戻ってきたが、既に遅かった。
「恵ちゃん!いるの?返事して!」
羽澤が大声で呼ぶが、返事はなかった。
「おまんら、今日は討魔酒場に泊まれ。すまんがここはわしと警察、救助隊が対処する。」
「でも先生、俺達の家が荒らされてるんです、俺達も捜索やらなんやらやります!」
「うーーん…」
葉月先生は頭を掻きながら悩んだ。
「私からもお願いします。」
「必ず何とかするわ、だからお願いします。」
「私が恵ちゃんの護衛から外れたのが原因ですし、お願いします!」
羽澤、鬼寅、鷹取も俺に続いて頭を下げた。
「あーわーった!仕方ないのうおまんらは、じゃが目立ったことはするなよ、停学、最悪は退学処分になりかねん。」
承知の上だ。
「じゃがおまんら、佐曽利がどこに居るかわかるんか?」
「佐曽利さんの話したことから考えるなら、世界一になりたい。それには日本一になる必要がある。」
じゃあ日本一の歌手はどう定義するか。
「実績と名声が多ければそりゃ日本一だろうけど、それ以前に歌手にとって最終的に目指す場所と言えば、日本武道館でしょ。」
「あ!そういえば恵ちゃんの今回のツアー、最後は今日に武道館でやるはずでした!」
ビンゴだな。
「正直俺はよくわからないけど、歌姫と称されるくらいならもう十分に相馬恵は歌手としての名声は得てる。日本一になるための最後の仕上げは日本武道館で歌うこと、それであの2人の夢は叶う。」
「じゃから今、佐曽利は歌姫さんを日本武道館に連れていったと。なるほどのう、確証はないが筋は通っとる。よし、おまんらは日本武道館に行け、わしはその他に佐曽利が行きそうな所を調べる。命令じゃ、全員必ず無事に帰って来い、違反したやつはわしが殺す。」
生きて帰ってきても殺される可能性あるじゃん…
「「はい!」」
19:20 日本武道館
そこには、1人の女性が倒れていた。
「ここは…」
「目が覚めましたか、恵。」
隣には、1人の男性が座っていた。
「佐曽利様…ここはどこですか…」
「そういえばそうでした、恵はまだここでライブをした事ありませんでしたね。25日のライブ予定場所、日本武道館ですよ。」
「日本…武道館…なぜ私達はここにいるのでしょうか…」
男性は立ち上がり、語った。
「もちろん、日本一になるためです。私達の夢は世界一、日本一なんてただの踏み台に過ぎません!さあ恵歌うのです。お客様方がお待ちかねですよ。」
真っ暗だった日本武道館は突如明るくなり、お客様の正体が顕になった。
「なんですか…!これは…!」
「なんですかとは失礼じゃないですか、私達の大切なお客様ですよ。ほら恵、歌いなさい。」
「いや…いやあああああああああ!!!」
お客様と言うべきかなんと言うべきか、蠢く妖魔の集団が、日本武道館を埋めつくしていた。
「行きましょう恵、これが日本でのラストライブです!アンコールまでこの歓声を消すことなく歌い続けましょう!」
男性は女性の頭を掴んでそう言った。
そして歓声、というにはあまりにも良い表現すぎた。正しく言うならそう、怨嗟の声。
19:30 日本武道館前
武道館が明るい、それと歌声もする。今日ライブでもやってるのか?
「冬、今日って武道館にライブ予定でもあったのか?」
「元々は恵ちゃんのライブが予定されてましたけど、活動休止になったのでライブなんてないはずです。」
そうだったな、もともと相馬恵がライブする予定だったもんな。だったらなんで…
「とにかく中に入ってみるしかないね。」
「ええ、中に入って確かめてやるわ。」
「ゆなゆなとまゆちんに遅れは取らないよーだ!」
「「その呼び方やめて。」」
相変わらず仲良いねあの3人。
「仕方ない、龍太郎を取り戻す前に身体慣らしと行こう。ふふふっ。」
「魁紀さん、なんか朋実パイセンおかしくないですか?あんな感じでしたっけ?」
「こないだ電話した時からあんな感じだよ、明るい子が急にヤンデレになったみたいな感じだ。」
「えぇ…」
そうなるよね、俺もなった。
「魁紀君、予定通り第二班のみんなを呼んできたよ。」
圭と残った第二班面子は俺達より少し遅れてやってきた。
「よし、これなら相当なことがない限り人数差で負けることは無いな。」
合計で10人、佐曽利さんがどれだけの戦力を持ってるかは知らんが、この人数じゃ手出しできないでしょ。
「よしみんな聞いてくれ。今から相馬恵を助けに行く、相手の実力も数も不明、だけどこれだけの戦力が揃ってんだ、負けることは無い。でも油断は絶対にしないように!行こう!」
「「おー!」」
「鷹取!妖気探知をお願い!」
「了解!」
さて、どれだけ反応するか。
「魁紀、数を聞いて驚かないでね。」
「どんくらいだ?」
「妖魔が1万。」
「「は?」」
1万…?どうやったらそんだけの妖気が反応するんだ!佐曽利さんだけじゃねぇのかよ…!
「数が1万揃ったところで、どうせ雑魚の群れよ、一瞬で蹴散らしてやるわ。」
「私の雀呪符にかかれば一瞬だね。」
「天才の私にかかれば一瞬だね。」
こんな時になっても張り合うなお前ら。
「それと、人間の妖気が2つ。恐らく佐曽利さんと誰かだね。」
2人か、護衛かなにかかな。前にそんなやつ見たことなかったんだけど、隠し球か。
「ともかく、武道館に1万もの妖魔がいるならやるしかない。外にばら撒かれたら大変なことになる。」
「じゃあ早く行こ、龍太郎が私を待ってる。」
「うん、それに関しては大谷さんに同意だ。」
「行きましょうよ、魁紀さん!」
「ああ!」
19:35 日本武道館
なんだよ…これ…
「♪数え切れない君との思い出」
なんで客席に妖魔がいて、ステージに相馬恵がいるんだよ!
「♪君が欲しい、君が好き、君を愛してる」
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