第百二十五集 頼れ
10月21日 11:00 任田高校 保健室
あれ、なんで俺寝てたんだ…
「おい魁紀、大丈夫か。」
「丑崎さん、しっかりしてください。」
豪と卯道の声…
「なんでここに2人が…」
「保健室の先生が他の用事で忙しくてな、話を聞いた俺が結菜を連れてきた。それよりよかった、無事のようだな。」
「卯道、ありがとう。」
「いえ、ご無事でしたらなによりです。では私は先に戻りますね。」
「わざわざありがとな!結菜!」
卯道は軽く一礼をして保健室を出ていった。
そうか、さっき羽澤と特訓してて、童子切を使ったら意識が飛んだのか…
「妖気切れだ、魁紀。」
「妖気…切れ…」
「丑気を使った上に童子切も使ったんだろ、ただでさえ丑気で消耗してたはずなのに、童子切を使おうなんて気でも狂ったのか?」
「仕方ねぇだろ…妖術血界を習得するためだ…」
早く習得しなきゃ…俺は…
「あっはっは!それはそれは大した目標だな!だがな魁紀、身に合わない力は身につかない、そして身を滅ぼす。今魁紀の身に起きてるのがその証拠だ。」
「俺が弱いってことか…」
「違う、そういうことではない。魁紀も、俺も、まだその次元にたどり着いてはいけないのだ。妖気を受け入れられる体の限度ってもんがある、どれだけ修行しても妖気の限度が体の限度を超えることは無い。だから今は妖気の限度ではなく、受け皿の体の限度を鍛えるのだ。」
なんだ…そういうことか…昨日師匠に言われたことちゃんと聞いたつもりだったのに、まったく理解できてなかったってわけか…
「それじゃ俺も行くぞ、真由は任務でいなかったのは残念だったな。」
「そんなこと…!」
「あっはっは!無理をするな、妖気が回復するまでしっかり休んでいろ。ではあとを頼んだぞ、幽奈。」
幽奈って…羽澤!
「もう…バカ…」
「なんだよ…いたのか…」
「いたのかじゃないよ!急に倒れて…心配したよ!」
「そりゃ…悪ぃな…」
あぁ…ダメだな。俺が無茶したら、心配するやつらがいる…なんでいつもいつもこうなるんだ、学ばねえのか俺は…
「ともかく、今はここにいてね…私、ダンスの練習してくるから。」
「あぁ、行ってらっしゃい…」
「うん、行ってきます。」
羽澤はゆっくりと保健室を出ていった。
1人か…
体は、動く…妖気の感覚は…ほぼない、すっからかんだ。
童子切は…置いてあるか。酒呑様、応えてくれるかな。
横のテーブルに置いてある童子切に手を伸ばしてみた。
(無理をしすぎたようだな。)
(そうだね…)
(魁紀よ、なぜ焦る、なぜ血界にこだわる。)
(妖術の終着点に一刻も早くたどり着いて…みんなを安心させたいからだ。)
今の俺じゃみんなに心配をかけすぎる。無茶しちゃいけないのはわかる、でもたどり着けさえすれば、みんなが安心できる。
(さんざん皆に言われたことを覚えておらんのか、たわけ。)
(え?)
(皆が皆頼れと言っておったであろう、なぜ頼らん、なぜ頼ろうとせん。羽澤、鬼寅、鷹取がせっかく頼れと言ってくれたはいいが、貴様はあまり乗り気ではなかったようだな。大谷は貴様から連絡を取ったと言うのに結局は頼らぬつもりか?新井にも連絡をすると言ったのは嘘か?)
そんなこと…!
(貴様はそれほど特別か?それほど人の上に立つ存在なのか?我がいなければ貴様は所詮十二家に生まれたただの人間よ。何をそんなに考える必要がある、何をそんなに思い詰める必要がある。)
(でも俺はみんなを!)
(守りたいと言うのか?だから言っておるのだたわけ!自覚がないだろうが貴様は驕りすぎだ、自分がやれば守れる、自分がやれば皆が安心する。それが皆の心配に繋がることがなぜわからん!)
(じゃあどうすりゃいいんだよ!確かに酒呑様の力がなきゃ俺はただの人間だよ!せっかく酒呑様の力があるんだから、みんなのためになにかしなきゃって!じゃなきゃ俺は…)
何もしないで身近の誰かが居なくなるのはもう嫌なんだ…
(貴様は考えすぎだ、前に卯道とやらに言われたであろう。十五の割に考えすぎなのだ、もっと頭を楽にさせよ。考えるのは考えるべき時に考えればよい、常に考えていては頭が破裂するぞ。)
考えるべき時に考える…
(守りたい、それは貴様が頭領にでもなった時に考えればよい。安心させたい、ならばそれなりの実力を付ければよいが、今の貴様には不要なもの。)
(それはなんで…?)
(我、そして貴様のクラスメイトとやらがおるでは無いか。皆でおれば自然と安心になるものよ、我は当時大江山の頭領であったが、茨木らとおった時は不安なぞなかったわ。)
(でもそれは酒呑様がみんなを守る力を持ってたからじゃん。)
(それもそうであるが、何もかも我が手を下すことは無かった。茨木、星熊、熊、金、虎熊、やつらもやつらでいろいろ勝手にやってくれおったか、我がやつらに頼ることも多かった。)
酒呑様が…頼った…
(我とて完全では無い。それは魁紀、貴様も変わらぬ。仲間を頼れ、貴様だけでなんとかしようとする前に仲間を頼ることを覚えよ。我からの宿題ぞ。)
(酒呑様にそう言われると、なんかできる気がしてきた。)
(カッカッカッ!!そうかそうか、では迷うことはもうないであろう。行け、我が見守ってやろう。)
(ありがとう、酒呑様!)
酒呑様には勝てねぇや、いっつも道標を示してくれる。
妖気も少しは戻ってきたな、体もさっきよりかは動く、よし。
ダンスはしたくないが、体育館に行くか。
11:30 1年5組専用体育館
「魁紀さん!大丈夫だったんですか!」
「俺は大丈夫だけど、そいつらはどうした。」
人がたくさん倒れていた…
「本番まであと10日しかないんで、仕上げてやろうとしたらこのザマですよ。それより魁紀さん、動けるならダンスの練習に参加してもらいますからね。」
げっ…
「いや俺は用事思い出したから…」
振り返って帰ろうとしたら冬に肩を掴まれた。
「待ってください、どこに行こうというのですか。ダンスの練習より大事なことはあんのか?無いよな?練習しろ。」
途中で敬語消えた、これはやらなきゃまずい。
「わかった、ただまだ体が本調子じゃないからお手柔らかに頼む。」
「何甘えたこと言ってんだ、本気でやれ。」
「はい…」
この時、誰か俺を逃がしてくれるやつがいないかすごく考えた。もしそんなやつがいれば是非頼らせて貰えないだろうかと懇願したかったが、そんなやつはどこにもいなかった…
(頼れとは言ったがそういう意味ではないぞ…)