第百二十四集 立直一発自摸
10月21日 9:15 1年5組専用体育館
「じゃあ始めよ、童子切も遠慮なく使っていいから。」
「わかった。」
羽澤に童子切を使うのは少々心苦しいが、使うべきタイミングが来たら使おう。
にしてもさっきの怖かったな、なんで女子ってちょっと睨んだだけであんなに怖くなるの?どういう現象?ニランダラコワイ現象って名付けたい。
「行くよ、雀呪符・断幺九!」
あれは確か斬撃だったな、なら。
「丑火斬!」
「魁紀ならそうするよね!雀呪符・一盃口!」
なんだそりゃ聞いたことねぇな。って斬撃がもう1発!
「予想外の攻撃が来ると咄嗟に避ける、そしてこれでさらに追い詰める!雀呪符・一気通貫!」
一から九のなんだあれ、萬子だったっけ?が突っ込んで来る…!どういう仕組みかわかんないけど、こんなんで俺を追い詰められると思うなよ羽澤!
「丑火壁!」
炎の壁だ、これなら防げる!
「甘いよ魁紀、一気通貫は妖気の間を貫通する!」
丑火壁から一気通貫とやらが貫通してきて、モロに食らってしまった。
「どうかな魁紀、私だってずっと何もしてこなかったわけじゃないよ!」
確かにそうだな…いてててて。思いっきり腹を殴られた気分だ。だが冷残との戦いを潜り抜けた俺はこんなもんじゃねぇぞ。
「まだまだ、こんなんじゃ俺は倒れんぞ。」
「しぶといね。」
「しぶとくて悪いね、次だ。丑神の吽那迦よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の祈り。突っ走れ、丑気!」
1つ段階を上げる、妖気をどんどん使って妖気限度を高める。それには丑気が1番効率がいい。
「丑気…それを引き出せて嬉しいよ。」
「ちょ魁紀さん!オーラ出しすぎだ!ダンス練習に影響が出ちまうだろうが!」
「すまん冬!ちょっとだけ我慢して練習してくれ!」
「魁紀おま!いつから冬奈とそんな仲になったんだ!」
「何サボってんだバカ兄貴、あーしは魁紀さんのこと尊敬してんだからその呼び方を許してんだよ。」
あー、なんか話ややこしくなってるけどいいや、夏だし。
「行くぞ羽澤。」
「うん、来い!」
1番警戒しなきゃいけないのはリーチってやつだ、こっちから踏み込んだら威力が増した陰陽が飛んでくる。
だけど丑気を使った今なら、突進力でなんとかなる。
「一牛吼地。」
「速い…!雀呪符・立直!」
「それじゃ遅せぇよ。」
ただ、ギリギリ間に合ったのか、俺の動きが少しだけ固まって、振り遅れた。
「あっぶない!ギリギリ!立直一発、雀呪符・三色同順!」
至近距離でそれを放つか、間に合うかな!
「丑火斬!」
こっちも至近距離での斬撃だ、間に合わせてやる!
「間に合うのそれ!?」
反撃が間に合って爆発が起きる。俺は反動で軽く後ろに仰け反ったが、羽澤は完全に後ろに吹っ飛んでしまった。
「まだやれるか?」
「まだこんなんじゃ、終わんないよ。」
よし、まだ丑気を続けたまま戦える。
「じゃあ、行くぞ。」
「うん!」
「丑火錘。」
とりあえず遠距離で様子見だ。
「雀呪符・發!」
「くっ!」
衝撃波か、丑火錘が消えちまったじゃねえか。
「次、雀呪符・中!」
中の字、なんだかよくわからんが避けられる!
「丑火斬!」
「させない!雀呪符・白!」
今度は白い壁か、なんなんださっきから!
「これで揃った、テンパイ、雀呪符・立直!」
またリーチか、だけど今度は踏み込まねえぞ。
「さすがにもう踏み込んで来ないよね、なら自分で持ってくるまで!」
羽澤は右手を上げた。何をするつもりだ。
「今、我が清廉潔白の願いに応えよ!立直一発自摸!雀呪符・大三元!!」
なんだかよく分からんがとりあえず距離を!
「無駄だよ!」
「何だこの壁は!」
後ろに飛んで下がると、白い壁にぶち当たった。
「大三元、白發中の3枚の牌が揃うと出来上がる役。白は的、發は矢、そして中は…当たるということ!」
なるほど、この後ろの壁がその白で、今迫ってくる發が矢ってことか。壁のせいで避ける場所がない、しかもこの發から感じられる妖気も並のもんじゃねぇ…くそっ!
「当たってくれたね、魁紀。これでちゃんと私のことは下の名前で。」
「それは少し早とちりだな羽澤。」
「なに!」
發に当たりはしたが、童子切を抜いたことで酒呑様の力でなんとかなった。
(カッカッカッ!どうした魁紀よ、苦戦してるではないか。)
(羽澤は強かったってことだよ。それと羽澤は真剣なのに、俺がちょっとずつ力を出すのも失礼ってもんだ。)
(言うでは無いか、でも無理はするでないぞ。)
(言われなくても!)
「その姿、酒呑童子…」
「ちゃんと俺だ、童子切を抜くと酒呑様の力が勝手に放出されるからな、こんな見た目になるのは仕方ない。」
さて、今の状態なら使う妖気の量は尋常じゃないはず。この状態を保てられれば…ってもうちょっとしんどいな…
「さあ羽澤、もう1段階上げるぞ。」
「これが魁紀の本気…ってことだね…」
「そうだ、だけどそんなに長くは続かない…続く限りやってやる。来るなら今…」
あれ…ダメだ…足が勝手に…
「魁紀?魁紀!!」